怪奇、血の滴る地獄の七丁目/1,親愛
文字数 1,054文字
「恋愛なんて、時間の無駄だ」
そう思ってきた。
俺の人生は私立の幼稚舎に入学する為の受験対策から始まり、親が順序立てて示す何かをクリアする教育方針の基、制服を着てモラトリアム期間を過ごした。勉強は次のステップに欠かせない技術を身に付け、コミュニケーション能力は自分を売る為の武器だと大人達から支配されて来た俺の人生に「恋愛」の二文字は必要が無かった。
女が苦手なわけじゃない。ただ、勉強に比べたら困難というだけ。
あの頃はそれでよかった。
昔を懐かしく思いながら、スマホの画面を切り替える。
「いってきます」
別れた後すぐに通知を飛ばすのは、寂しがりな情緒不安定?
玲音を特別視する日々の全てが楽しいことばかりじゃない。けど、前よりも自己分析が進められるのは大きな成長であり、玲音との関係に果が行く証だ。
あれからの俺たちは…
恋人同士、ではなく深愛なる関係。
玲音は相変わらず過保護で、俺ツンデレ。
「ツンデレって、何?」
「俺の行動と本音は真逆なの」
逞しい胸を指で突くと、理解する物分かりの良さ。
俺の言葉は棘どころか剥く刃
傷ついて欲しくないから、鞘に納めて言い渡すよう心がけている。
もちろん例外はある。社長に対しては明確な悪意と態度を剥き出しにしてやらないと気が済まない。刃に刃を向けても極漢サディストにはどうってことない日常。
今もこうして朝から晩まで働いて
玲音への気持ちを詰め込んだら飯も喉に通らないのに…
「性欲の限界に挑戦?野獣先輩の正体は、お前だったのか」
「怒られますよ。はい、これ…」
ヘルプの交通費が実費だったので請求書を顔面に投げつける。
「それは私の管轄外だよ。佐川に一任してる」
「佐川さんも同じこと言ってました。どこまで無責任なんですか?」
都合の悪いことは聞こえない
老害とは、まさにこの事。
俺を守銭奴というのなら社長は金の亡者。
イケメンと金塊の上に胡座かいて座る悪鬼こと歌舞伎青嵐は今日も見目麗しく奴隷にお縄を頂戴する。
黒い閃光と絶賛される鞭裁き
長身を活かした立ち位置は常に自分を美しくに見せる方向を知り尽くし冷淡な視線だけ奴隷にくれてやる。血も涙もない修羅か、羅刹か。
されど悶絶唸る撮影現場も、そろそろ見飽きた。
苛烈な刺激を求めているわけじゃないが、何も知らず客観的に写真や本など目にしていた方が想像を膨らませ確実に興奮できた。現実を突きつけられると快楽どころか落胆さえ覚える。
人間性ってヤツがな、邪魔なんだよ。
俺は余程こちらの世界に向いてない。