借金返済

文字数 975文字

 今年も残すところあと僅か
 なんて挨拶がお似合いな年の瀬も差し迫る、ある日の出来事。

 ◇

 消えた花形の噂は、絶えず、俺について回る。
 将来を約束された花形の一生を台無しにした手癖の悪い愚図と呼ばれる俺は叱責を受けていた。
 これが許されざる恋の代償。
 他人に咎められるほど紡いだ幸せの軌跡は曖昧になり、留めようにも「本当にあった出来事なのか?」他人の呪いに塗り替えられる恐怖。人としての権利を剥奪される耐えがたい苦しみが胸の奥底に沈み見えなくなる深淵だ。
 悪戯に拳を振る舞われる絶望の往路に心から怯え暮らす俺は行き場を失い、佐川に頼み込んで赤羽の警ら事務所に小さくなって身を寄せていた。

 かつての花形と暮らしていた千駄ヶ谷の貸しビルは、もぬけの殻。

 施工後の貸し出しは既に決まっており、自分の未来が絶たれたことを思い知る。
 時を同じくして改築が終わったアナスタシア事務所に戻るよう勧められたが諸悪の根源、歌舞伎青嵐に対する積年の恨みは…死ぬか…殺すか?
 腹を括った葛藤の末、丁重に断った。

 給与、手取り3万の現実に発狂。

 詳細によると保険料と税金諸々、入院費の負担…
 容疑者(俺)は被害者(青嵐)に慰謝料を毎月5万×30回払い
 はぁ?総支給額12万なのに余計なことをするなと言えばイカニモ奴隷(総受け)だろお前って風貌の弁護士、登場。
 専門的な用語を大いに用いて高額請求の内容を解説ご苦労様です。で?
 食べるのもやっとの生活
 次第に物が喉を通れば戻る不快な作用が続き、箸を持てば手が震える拒食を隠すようになった。食事は生きるための選択肢。栄養は必要不可欠だと食育世代に学んだプロセスだが過剰な暴行により吐き戻す汚辱にまみれない措置として頭が先回る。
 嬢は口で客にサービスをする
 自分には同じことが生理的にできない。
 できなければ教え込まれる一方で拒否権など存在するはずもなく男の性欲に奉仕する自分が情けなくて、ただ怖かった。
 しかし青嵐は俺が理不尽に殺されかけ、窮地に追い込まれようと知らぬが仏。

 「自分の身は自分で守れ」一貫して足蹴にされた。

 生き残りを懸けた業界の厳しさを痛感する俺は新しい派遣先の池袋西口某所ギャル系イメクラのヘルプに就いた。現役女子高生が年齢を偽り潜伏する界隈は男手が粗いと聞いていたが、ここで想像を絶する戦慄の体験をするとは。
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