禁断!死ぬほど嫌いな上司に何度もイカされる
文字数 1,849文字
五反田駅下車、徒歩5分。
繁華街として賑わう東口の一角にある高級マンションの一室に、関東随一といわれる風俗店の老舗アナスタシアの事務所がある。
多くの風俗店がグループ傘下で、かつての性愛の常識に縛られない法律も生命も瀬戸際の愛欲が渦巻く。その頂きに悪の華香る鼓動を響かせる男、在りけり。
彼の名は歌舞伎青嵐
職業、風俗コーディネイター。
鬼才サディストと称賛される彼は「調教師」を生業としており、この春も蒼穹の風に誘われる雅な会を奥飛騨の里で開催。城下町のしだれ桜に話題のグラドル嬢を縛り付け、淫らに酔う。
白い足袋が擦るひと足毎に鞭が黒い閃光となって飛び、宙を切り裂く破裂音が宵闇に溶ける。黒髪に西銀の合わせから覗く女の白い柔肌は火花から解き放たれると縄の目を愛おしそうに指でなぞり視線を迸らせると観客は固唾を呑み次の一打を心待ちに望む。
俺の心にはどうにも飛び火しないが、繚乱な宴であることは確かだ。
ああ、早く温泉に浸かりたいと唸りを上げる俺に苦笑する青嵐は打掛を脱ぎ美しい山脈のような肢体を横たわらせ、肘をひと突き、煙管の先に燈 を灯す。
「まるで花魁だな。最も一服するだけ暇なのか、ご主人様」
声にしないで笑う
誰よりも妖艶な青嵐の腰に腕を伸ばし、片膝をあげて間に入り込む。
「……痛っ?!」松葉崩しと見せかけて四の字固め、完成。
「老害め、ここで死ね」
笑いながら腕を引くと青輝丸に顔面を踏まれた。
「どうして悪さばかりするんだ、お前は」
「ついイラッとして…」視線を外したのは、余所見してたんじゃない。
初めて見る夜桜の下で叱咤を受ける現実が追いついてこないだけ。
おぼろ月夜に盛りを挙げる人の性を誘う、妖しの桜は音もなく静かに薫り、宵闇に浮かび、人の心を浚って逝く。
豪華な食事と卑猥な宴の席が幕引き
俺は廊下を小走り帯を解く手を急がせながら絶景と噂の露天風呂に向かう。
高台でスポットライトを浴びながら琴を爪弾く芸者お付きの貸し切り露天風呂は情緒ある和の設え、笛の音が心地よく森に霞む。
満開の夜桜
伸びた枝に手が届きそうなほど近くに在るのに、夢みたいに潜む。
妖しのざわめきに呼ばれて振り返る、俺は水面を揺らした。
「とめきも、やるかい?」
お猪口を傾けてみせる青嵐は月より煌めく瞳を向け、銘酒を勧めてきた。
「俺を溺死させる気か」
「介抱してあげますから、こちらにおいで」
「断る。何が悲しくて貴様と尻を寄せなきゃいけないんだ、理由を言え」
一息ついて人払いをする様子から卑猥を勘ぐり構えたが、青嵐はそのまま話を続けた。
連休明けのヨーロッパ遠征の件。
話に聞いてはいたが、海外での活動は俺の管轄外だ。
「一緒に、来て欲しい」俺の腰に腕を回す青嵐が、頬を寄せて言った。
蹴り上げようと膝を上げたその時
俺を見上げる青嵐の睫毛が濡れていることに気がついて、手を置いた。
「一度でも駆り出せば半年は戻れない。頼むから、断らないでくれ」
「それがアンタの仕事だ」
「愛してる…て、嘘だったの?」
そんなこと一度も言った覚えが無いんですけど
「浮気しないでね」茂みに向かって話しかけるな、コラ。
そのまま頭を押さえて膝蹴り喰らわせて叫ぶ俺の罵声を合図に、仕置きが一斉に飛び込み青嵐を奪還して安否確認を急ぐ。さすが天然記念物といった貫録。
青嵐の言う通り、遠征は一度出ればいつ戻れるか未定。
戻り次第、国内のスケジュールに切り替えると青輝丸から説明された。
俺の業務は青嵐お付きの執行部兼、調教師見習いが始まったばかり。今まで通り住み込みで働くつもりが、下の階に住みついた危ない連中の抗争が過激化。場所を変えて働くことに決まった。
「条件がある。私以外の何者にも、体を許さないように」
「それは命令ですか?」
「約束だよ」
上から頬にキスを落とす青嵐の唇が、俺の耳元で言葉を潜ませる。
「寂しくなったら、いつでも私を追いかけておいで」
艶めかしい瞳で俺の尻を舐り回す。
次の瞬間、青嵐は俺の拳を懐に埋めて華麗に横たわる。
「一丁上がり、拘束衣で縛った後トランクに入れて空輸しろ。鼻にチューブ突っ込んで酸素だけやれ。死んだらそれまで。さっさと目障りなゴミを片付けろ」
こうでもしないと俺から離れない
青嵐の頭を踏みながらの暴言、これが俺の日常だ。
もし、青嵐を選んでいたら
違う未来が待っていたのかも知れない。
この春からの新生活
希望に胸を膨らませたら負けだと心挫かれるまで、あと僅か。
繁華街として賑わう東口の一角にある高級マンションの一室に、関東随一といわれる風俗店の老舗アナスタシアの事務所がある。
多くの風俗店がグループ傘下で、かつての性愛の常識に縛られない法律も生命も瀬戸際の愛欲が渦巻く。その頂きに悪の華香る鼓動を響かせる男、在りけり。
彼の名は
職業、風俗コーディネイター。
鬼才サディストと称賛される彼は「調教師」を生業としており、この春も蒼穹の風に誘われる雅な会を奥飛騨の里で開催。城下町のしだれ桜に話題のグラドル嬢を縛り付け、淫らに酔う。
白い足袋が擦るひと足毎に鞭が黒い閃光となって飛び、宙を切り裂く破裂音が宵闇に溶ける。黒髪に西銀の合わせから覗く女の白い柔肌は火花から解き放たれると縄の目を愛おしそうに指でなぞり視線を迸らせると観客は固唾を呑み次の一打を心待ちに望む。
俺の心にはどうにも飛び火しないが、繚乱な宴であることは確かだ。
ああ、早く温泉に浸かりたいと唸りを上げる俺に苦笑する青嵐は打掛を脱ぎ美しい山脈のような肢体を横たわらせ、肘をひと突き、煙管の先に
「まるで花魁だな。最も一服するだけ暇なのか、ご主人様」
声にしないで笑う
誰よりも妖艶な青嵐の腰に腕を伸ばし、片膝をあげて間に入り込む。
「……痛っ?!」松葉崩しと見せかけて四の字固め、完成。
「老害め、ここで死ね」
笑いながら腕を引くと青輝丸に顔面を踏まれた。
「どうして悪さばかりするんだ、お前は」
「ついイラッとして…」視線を外したのは、余所見してたんじゃない。
初めて見る夜桜の下で叱咤を受ける現実が追いついてこないだけ。
おぼろ月夜に盛りを挙げる人の性を誘う、妖しの桜は音もなく静かに薫り、宵闇に浮かび、人の心を浚って逝く。
豪華な食事と卑猥な宴の席が幕引き
俺は廊下を小走り帯を解く手を急がせながら絶景と噂の露天風呂に向かう。
高台でスポットライトを浴びながら琴を爪弾く芸者お付きの貸し切り露天風呂は情緒ある和の設え、笛の音が心地よく森に霞む。
満開の夜桜
伸びた枝に手が届きそうなほど近くに在るのに、夢みたいに潜む。
妖しのざわめきに呼ばれて振り返る、俺は水面を揺らした。
「とめきも、やるかい?」
お猪口を傾けてみせる青嵐は月より煌めく瞳を向け、銘酒を勧めてきた。
「俺を溺死させる気か」
「介抱してあげますから、こちらにおいで」
「断る。何が悲しくて貴様と尻を寄せなきゃいけないんだ、理由を言え」
一息ついて人払いをする様子から卑猥を勘ぐり構えたが、青嵐はそのまま話を続けた。
連休明けのヨーロッパ遠征の件。
話に聞いてはいたが、海外での活動は俺の管轄外だ。
「一緒に、来て欲しい」俺の腰に腕を回す青嵐が、頬を寄せて言った。
蹴り上げようと膝を上げたその時
俺を見上げる青嵐の睫毛が濡れていることに気がついて、手を置いた。
「一度でも駆り出せば半年は戻れない。頼むから、断らないでくれ」
「それがアンタの仕事だ」
「愛してる…て、嘘だったの?」
そんなこと一度も言った覚えが無いんですけど
「浮気しないでね」茂みに向かって話しかけるな、コラ。
そのまま頭を押さえて膝蹴り喰らわせて叫ぶ俺の罵声を合図に、仕置きが一斉に飛び込み青嵐を奪還して安否確認を急ぐ。さすが天然記念物といった貫録。
青嵐の言う通り、遠征は一度出ればいつ戻れるか未定。
戻り次第、国内のスケジュールに切り替えると青輝丸から説明された。
俺の業務は青嵐お付きの執行部兼、調教師見習いが始まったばかり。今まで通り住み込みで働くつもりが、下の階に住みついた危ない連中の抗争が過激化。場所を変えて働くことに決まった。
「条件がある。私以外の何者にも、体を許さないように」
「それは命令ですか?」
「約束だよ」
上から頬にキスを落とす青嵐の唇が、俺の耳元で言葉を潜ませる。
「寂しくなったら、いつでも私を追いかけておいで」
艶めかしい瞳で俺の尻を舐り回す。
次の瞬間、青嵐は俺の拳を懐に埋めて華麗に横たわる。
「一丁上がり、拘束衣で縛った後トランクに入れて空輸しろ。鼻にチューブ突っ込んで酸素だけやれ。死んだらそれまで。さっさと目障りなゴミを片付けろ」
こうでもしないと俺から離れない
青嵐の頭を踏みながらの暴言、これが俺の日常だ。
もし、青嵐を選んでいたら
違う未来が待っていたのかも知れない。
この春からの新生活
希望に胸を膨らませたら負けだと心挫かれるまで、あと僅か。