ご主人様と、奴隷。

文字数 1,698文字

 歌舞伎青嵐は「何者」か?

 1954年7月4日生(血液型不明)
 身長192cm 体重75kg B85cm W72cm 股下95cm…
 巨匠・黒鬼(くろき)いづるの基
 日本伝統芸能の歌舞伎一座、末弟から襲名。
 1975年、AV男優としてデビュー後2年で、AV出演本数3000タイトルの偉業を達成
(歴代最高記録保持者)SMを含む幅広い分野で活躍する。
 1984年、男優を引退。
 風俗コーディネーターとして独立、クラブ・アナスタシア創業。
 性的嗜好者(フェティシズム)や肉体改造が中心のアメリカへ本拠地を移設。同時期ヨーロッパで青嵐モデルがラバリスト愛好家の公認を受け、多くの雑誌等を発行。掲載される記事と芸術的で躍動感のある被写体はどれもセンセーショナルな感覚を広め、90年代後半カリスマ的として注目を集め現在も多くのファンを魅了し続ける…以下略…

 黒鬼いづるは俺も知ってるピンク界の重鎮。
 日本SM界の金字塔・元祖サディストという愛称でメディアに臆せず現れては世間を賑わせた「ダンディの神様」このキャッチフレーズで一時期話題を呼んだあの男。
 弟子入りから先のことは想像できないが改めて社長の素顔に驚きを隠せない。
 細いけど筋肉質な肢体の半分が脚、年齢を感じさせないスタイルと顔面に美容整形疑惑が俺から離れることはなかった。
 今日の撮影を見てわかる通り、社長は正真正銘の玄人。
 しかも世界規模で愛されるアイドル的存在…神?どちらにせよ一服盛られ手掛けられないよう貞操の危機管理を強化、防衛しなくては…
 ここまで来たら純潔だけは守り抜きたい。

 さて、どうするかな。

 もうひとつの問題。
 椅子の背もたれを倒し気味で伸びてると、玄関の方から物音が聞こえた。
 思わず前を片手で隠す俺は社長から借りたYシャツ一枚というあられもない姿。
 裸足で大理石の上を往く。そして、見知らぬ男と正面衝突。
 前に立つとよくわかる体格の違いから見下ろさた後に視線を外される。あ……

 「青嵐様から食事の世話をするよう仰せつかりました」
 「あ、どうも。お手伝いさん?」
 「玲音(れおん)です。以後お見知りおきを」

 丁寧な言葉使いにそぐわない、ぶっきらぼうな大男から荷物を受け取り、すれ違う至近距離で感じた筋肉の厚み、短髪体育会系のアスリートを感じさせる風貌だ。
 
 「いただきます」合掌

 ピストルで撃たれ、駆け出す勢いの俺は早食い大食い。
 好きな物から順に口に詰め込む一方、前菜からゆっくりと手を付ける玲音は話かけても頷く程度で黙って野菜に肉を包んで食べる。静かな食卓。玲音の空いたグラスにワインを注ぎながら会釈する際やっと目を合わせることができた。
 肉を食いながら人の体をじろじろ見るのはどうかと思うが、目を見張る筋肉質。
 末広がりの首から続く撫肩、太い二の腕はワイングラスを持つと筋肉が躍動する逞しさ。ウエストから下は細くて、全体的に流線型のバランスが取れてる。
 シャイな体育会系を思わせる顔つき。
 薄い唇がバターで濡れるのを気にして拭う仕草から視線の送り方ひとつ、男ながら
卑猥に見えるのは玲音がM奴隷「年季が明けて一層それらしく見えると言われます」やはり俺を見ないで言う。

 玲音の話によると…

 この業界は親分・子分の縦社会。
 親がSの場合、M志望の「新造」を平均5年で育て「奴隷」の称号を与える。
 これを年季明けといい、実社会を知るために親元から離れて人に預けられることが多くフリーで働く者もいれば、玲音のように誠実で慎みのある性格と高い身体能力を買われて新造の世話をする「花形」に抜擢されることが稀にあるそうだ。
 玲音は、俺の担当。新人研修と一般事務、マンションの警備を兼任。
 イケメンで料理も完璧。
 流行りのルックスと洗練された目力を持つ玲音のような真面目な男が奴隷とか…
 やっぱりこの業界、簡単に染まれないと項垂れてみる。

 翌日、社長のオフィシャルサイトでアップ予定のスケジュールを確認する俺の元に玲音の手作りクラブサンドが届いた。
 「遅くなりました。簡単なもので、すみません」
 これのどこが?!
 玲音を嫁にしたい衝動を抑えてパンを囓る俺は、内容の確認を急ぐ。
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