第14話

文字数 1,128文字

 授業と授業の合間の休み時間が始まった。
 終わった授業の教科書をロッカーの中に押し込み、次使う教科書を用意して席に着く。
 ボーっと黒板を見つめていると、同じクラスの女子、岡山友恵が俺のことを突いた。

「あ?」

 彼女は俺と似た、おとなしい女子で、男子とは全く話さない子。
 友恵は黙ったまま教室の入り口を指すと、どこかに行ってしまった。
 俺が教室の入り口を見ると、誰かによく似たイケメンの後輩が立っていた。
 よくわからないが、席を立ち、近づいて話しかける。

「どうした?」
「高一の桜内満彦です。バカ野郎幹人に会いたいのですが……」
「おい」

 いや、どうして初対面の後輩にバカ野郎って呼ばれなきゃいけないんだ?
 近くにいる理性がニヒヒと不気味な笑い声を出している。

「何だよバカ野郎幹人って」

 俺の問いに、満彦と名乗った後輩は首を傾げた。

「姉上がそう呼んでいるので」
「あ」

 そういえば満彦は苗字を「桜内」と言っていた。
 それは蘭花と同じだ。
 俺を家でどういっているのか、と首を絞めてやろうと思い蘭花を探すが、残念ながらいなかった。

「あいつ……」

 トイレにでも行っているのだろう。
 後で覚えておけ。

「あの……姉上が嫌いのなのですか?」
「蘭花のことか? 嫌いと言うか……」

 俺はあいつのことをどう思っているのだろうか?
 答えに困っていると、満彦が小さく笑った。

「好きですか?」
「んなわけない」

 ここは即答。だって、これは分っていることなのだから。

「あのですね、姉上はよく貴方のことを家で話しています」
「は?」

 おい、急になんだよ。
 あとなぜ家で俺の話をしているんだ?

「絶対潰す、とか短気バカ野郎幹人など」
「……」

 悪口言いまくってんじゃねーか。
 俺は大きくため息を吐くと、頭の後ろを掻いた。

「嫌われているのは分っている。で、何だ。わざわざ君の家で俺の悪口が言われているということを伝えに来たのか?」

 満彦は頭を横に振った。

「姉上がお手洗いから戻ってきそうなので、細かいことは除いて言います」

 うん、嫌な予感。

「姉上が貴方のことを話しているときは楽しそうなので、これからもよろしくお願いします」

 はい、やってきましたー。
 蘭花とこれからも関わらなければならないやつですよー。

 蘭花がトイレ方面から戻ってくると、満彦は「では、また会いましょう」と言って高一に続く階段を下って行った。

「ねぇ」

 呆然としている俺に、蘭花が話しかける。

「満彦と何を話していたの?」

 本当のことを言えるはずがないので、言葉を探していると、タイミングよくチャイムが鳴った。
 安心してほっと胸を撫でおろし、席に着く俺。
 不満そうにする蘭花。

 そして、思い出した。

「教えて」

 隣の席に蘭花がいるということに。
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