第13話

文字数 1,539文字

 恵美里が俺の家から出て行ってから数時間後。
 お父さんは仕事から、妹は友達の家から帰ってくると、俺は三人のご飯をテーブルの上に置いた。
 二人が自分の部屋に荷物を置くと、リビングに戻り、テーブルに着いた。
 俺も着ていたエプロンを洗濯機に放り込むと、椅子に座った。

『いただきます』

 お父さんと俺の声が、静かな部屋に響く。
 お母さんが浮気をしていると分かった時から、ずっと、このよう感じだ。
 彼女がいなくなっても。
 妹は何も言わず、俺とお父さんを交互に見ていた。

「幸子、どうした?」

 妹はお父さんに名を呼ばれると、大きく息を吸った。

「話したいことがあるの」

 お年頃の女の子だ。悩み事はたくさんあるだろう。ただ、男に話すような話は何なのだろうか?

「何だ?」

 お父さんは箸をおくと、妹の目を見た。
 彼女は真剣な表情で、俺に視線を止める。
 俺はご飯を口に運ぶ手を止め、見つめ返した。

「私…‥」

 お父さんがゴクリと唾を飲んだ。
 俺は嫌な予感がした。

「お兄ちゃんに……」

 お父さんが俺のことを睨んだ。
 何をしたのかと言っている目で。

「彼女ができたと思うの!」

 沈黙が流れた。
 俺は怪訝な目を妹に射て、お父さんは目を丸くしている。

「そうなのか……」

 お父さんが低い声で、唸るように言った。
 俺は何故妹がこのようなことを言い出すのかが分からず、思考を巡らせるが、特にそう思われるようなことはしていない……と思う。
 もしかしたら恵実里を家に上がらせたのが見られて、勘違いされているのかもしれないが、その時に妹はいなかったはずだ。

「幹人、良かったな!」

 急にお父さんがテンション高め出そう言ったので、俺は飛び上がった。
 というか、お父さんは本気で妹の話を信じているのだろうか?

「あのねっ!」

 妹が興奮気味語りだし、お父さんも目を輝かせた。

「お兄ちゃんの様子が最近変だと思ったの。不機嫌だったり、疲れ気味だったり」

 それはキレて不機嫌だった日と、復讐されているせいで疲れている時のことだ。
 お願いだから勘違いしないでほしい。
 そして意外と妹に見られていて、女子の怖さを改めて思い出す。

「そこで、いろいろと観察してみたの」

 俺は息を飲んだ。

「まず、家の前でちょー可愛い女子と話していた。その後、自分だけ家に入っても女子と話していた。その子が帰るも、自分の部屋から彼女を見ていた」

 俺は頭を抱えた。
 それは蘭花が俺のことをストーキングしていた時だ。
 妹は続ける。

「ゴミを捨てに行くときも、同じ女子と暗闇で会った。他にも、お父さんが出かけた日に、女子が理星と弘秀と一緒に鐘を鳴らしていたの。しかも、その後に三人を家に入れたんだよ!」

 俺の目元がピクリと動いた。
 ごみを捨てに行った日にも観察されていたのだ。
 ピーンポーンダッシュの日も、お父さんと出かけたはずなのに、自分は残って俺を見ていた。
 鳥肌が立った腕をさする。
 妹はそんなに彼女いる説のために俺を監視したかったのだろうか?

「今日は違う女子を家の中に入れていたんだけど、話している内容に耳を済ませたら、ランカという子と付き合う話をしていたの!」

 俺はむしゃくしゃに髪をかきむしった。
 恵実里と話していたことが盗聴されていたのだ。
 友達の家に行った後、早く帰ってきたら俺と恵実里が一緒にいるところを目撃してしまったらしい。
 全てを話し、満足そうな笑みを妹が浮かべ、お父さんは俺の肩を叩いた。

「良かったな」
「全然よくねぇよ」

 俺は天井を仰いだ。

「誰とも付き合っていないし、これからもそうする気だ」

 俺の言葉に、お父さんと妹は首を横に振った。

『そんなことないよ』
「ハモんな」

 お父さんと妹は盛り上がり、俺はがっくりと項垂れると、楽しくない家族会議は幕を閉じた。
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