第4話

文字数 1,055文字

 放課後、俺は急ぐ理由もなく帰る準備を進めていると、恵実里が俺の名を呼んだ。

「峯本幹人さん」

 俺の顔を覗き込んできた彼女がほほ笑んだ。

「ちょっと時間良いかな?」

 頬をポリポリと掻いた恵美里が俺の返事を聞く前に教室の出入り口に立った。

「外か?」
「うん、学校の中をブラブラしながらお話がしたいの」

 どうすればいい?の視線を一緒に帰るはずだった理星と清水(しみず)弘秀(こうひで)に飛ばす。

 弘秀は仕方なさそうに肩を竦め、理星はグッと親指を立てた。

「はぁ、分かったよ」

 俺は教室から出ると、すぐそこにいた恵美里の隣に立った。
 少しの距離を置いて。

「…で、何の用だ?」

 恵美里は笑みを消し、真剣な顔になった。
 校舎の中をゆっくり歩く。幸い、俺ら二人が共にいるところを見ているやつは今のところ、いない。

「蘭花のことなんだけど…」

 恵美里は気まずそうに苦笑いした。
 また蘭花か、という言葉は胸の中にしまっておく。

「いいかな?」
「‥‥いいぞ」

 俺はしぶしぶ承認した。
 一息おいて、恵実里が口を開けた。

「私、本気で彼女と仲良くなりたいの」
「は、はぁ」

 じゃあ俺にどうしろっていうんだよ?
 その考えが顔に出ていたのだろう。
 俺の頭の問いに答えるように思いがけない言葉を発した。

「だって、蘭花と仲がいいじゃない」
「は?」

 今なんて言った?
 俺は蘭花と仲がいいと思われるようなこと、何もしてないぞ?

「三校時の時、お喋りをしてたから」

 当然でしょ?という顔を彼女がした。

「蘭花はあんまり人と話したがらないのよ」
「そう…だな」
「でも彼女は貴方と五秒以上会話している」
「お、おぅ」

 蘭花は人と五秒以上話さないのか。
 社会に出たら絶対苦労するだろうな。
 しかし、あれはただ桜の道の話をしていただけで、お喋りというよりは脅しだったり、俺の顔に対するクレーム(?)だったのだ。
 決して仲良くしていたわけではない。
 俺はそのことを恵美里に言うと、彼女は小さく笑った。

「それでも会話ですよ」

 微笑をたたえたまま、恵美里は俺を見据えた。

「それで、手伝ってもらいたいの。仲良くなるために」

 俺はすぐに首を横に振った。

「何をすればいいのか分からないぜ?それに俺はあんまりあいつと関わりたくない」

 正直に、ハッキリと俺が言い放つ。
 恵美里は残念そうな顔で頷いた。

「気が変わったら教えてね」
「ああ」

 きっとないだろうがな、と心の中で付け加える。

 俺は理星と弘秀のところに戻ると、三人で学校を後にした。
 その時、俺は嫌な予感に駆けられた。
 蘭花と関わるのは、これからもあるだろうと。
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