第19話
文字数 2,317文字
トントントンと包丁をリズムよく落ろす。
今日、お父さんは夜遅くまでの残業で、先に俺と妹がご飯を食べる。
妹は自分の部屋で宿題をしており、俺はキッチンで味噌汁を作っている。
そして俺の後ろには――
「今日はシンプルね」
俺が来ているエプロンの結び目をくいくい引っ張る琴美がいる。
彼女はよく俺の家に来る。
お母さんが死に、お父さんが仕事に追われいてあまり帰ってこないので、俺と妹のことを心配して琴美は手伝いに来る。
掃除機をかけたり、洗濯物をたたんだり、食器を洗うなど。
俺にかかる負担が減るので、かなり助かる。
ただ……洗濯物をたたむときに俺のパンツがあるとかなり恥ずかしい。
琴美が無表情でたたんでいるのを見ると、女子は凄いなぁ、と思う。
材料を入れ、味噌をとく。
今日は俺が疲れているから、シンプルだ。
琴美がやってあげると言ったが、料理をする腕が絶望的にない彼女にされることは申し訳ないができない。
食堂や髪結びなど、今日あった出来事を思い出していると、突然琴美が俺の背中にもたれかかった。
俺は驚いてお玉を落としそうになる。
琴美は俺の胸の前で手を組み、頭を俺に肩に乗せた。
待て待て待て待て背中に何か柔らかいものを感じるのだが……?
はぁ、と琴美のため息が俺の頬にかかる、
俺の心臓はパンクするのではないのかと思うぐらい早く脈打ち、頭の中がぐるぐると渦巻いた。
「あの時緊張したなぁ」
あの時とは食堂で起こった事件だ。
ああ、俺も緊張したよ。
と俺は心の中で呟く。
それが言えないのは俺が今緊張しすぎて口を開いたり閉じたりすることしかできないからだよ!
今の状況かなりマズくない?
誰か、ヘルプミー!!
「本当は手なんか出したくなかった」
そうか、うん、そうだよな。
俺の視線が泳ぐ。
背中に当たっているものが気になる!!
「まっ、あんなやつ、どうでもいいんだけど」
琴美がやっと俺から離れ、俺は肩から力を抜いた。
「興奮してたでしょ?」
俺の肩がドキリと跳ねた。
「し、してねぇ」
「もう一回やってみる?」
琴美が俺の前に立ち、手を俺の首の後ろで組んだ。
俺の頬が先程みたいに熱を持つ。
その時、階段の方からパシャリとシャッターを切る音がした。
驚いて俺と琴美はそちらに頭を向ける。
そこにはにやにやしながらスマホをこちらに向ける妹の姿があり、何度もシャッターを切っている。
「あ……」
琴美は顔を真っ赤にし、俺から数歩離れた。
「おい」
俺は妹に歩み寄り、スマホを取り上げようとしたが、彼女が胸の前でスマホを握ってしまったため、取れなくなった。
妹の胸を触ってスマホを取ったらその後が怖い。
「貸してくれ」
「何で?」
絶対に渡さないよ、と妹はスマホを握る手に力を加える。
「写真を削除したい」
「私に頼めばいいじゃん」
「やらないだろう?」
妹が黙り込む。
俺は髪をかきむしった。
「お願いだから消してくれ」
「消さない方がいいんだけど」
彼女は当たり前でしょ、と付け加えた。
周りの人に広めたいらしい。
俺は腕を組み、むーんと唸った。
琴美に助けを求める視線を送るが、彼女は顔を青くして首を横に振っているだけだ。
「幸ちゃん、お願いだから消し――」
「やだ」
琴美ががっくりと肩を落とす。
そのころ、俺は妹を止める方法をひらめき、ポンと手を打った。
「お兄ちゃんがいい情報教えるから、そしたら消して」
「物による」
俺はニヤリと口の端を上げ、妹の目を見た。
「蘭花との関係を教えてやる」
妹はあんぐりと口を開け、琴美は「え!?」と声を上げた。
「蘭花って、この前他の女の子と話していた子のこと?!」
妹は目を輝かせ、熱心に聞いてきた。
一方、琴美は俺の背後で剣呑なオーラを出している。
「私に隠していたの……?」
彼女の雰囲気に俺は恐怖を感じ、ごくりと唾を飲み込んだが、首を振って気を取り直した。
「俺が言うのと同時に消せよ」
「うん!」
妹は俺が蘭花との関係を言う前に、写真をすべて消した。
「教えて!」
ふぅ、と息を吐き、俺は冷汗をかきながら言った。
「俺と蘭花は……」
「うんうん」
「とても仲が悪い」
次の瞬間、背中と腹に強い痛みが走った。
床に倒れ、俺は痛みに悶絶した。
顔を上げると、琴美と妹が恐ろしい形相で俺を睨んでいる。
「驚かさないでよ!」
「幹人のバカ! 期待させておいて何なのよ!」
二人に怒鳴られ、俺は言い訳をしようとするが、妹にまた蹴られそうになったので、黙った。
「す、すまん……」
「もー!」
妹はずかずかと自分の部屋に戻っていくと、俺は起き上がって、床の上で胡坐をかいた。
琴美は腰に手を当て、俺を見下ろしていたが、ため息を吐くと俺の隣に腰を下ろした。
「ごめんな、バカなことをして」
足を抱えるようにして座り、琴美は顎を膝の上に乗せた。
「私もごめん、殴って」
「いいよ、俺が悪い」
気まずい沈黙が流れた。
この空気をどうにかしようとしたが、突然琴美が俺の肩に寄り掛かってきた。
すーすーと寝息を立て、琴美は寝ていた。
どうしようかとおろおろしていると、階段からシャッターを切る音がした。
「音が出せないようにはできないんだね」
もう、俺には妹を止める力なんて残ってはおらず、そのまま意識が遠のいていった。
※
寝たふりをしていた私は片目を開けた。
幹人の寝顔をじーっと見つめる。彼はいつでも可愛い。
今日、私は幹人をドキドキさせて落とそうとしていたのだが、幹人の妹、幸子に邪魔をされてしまった。
ドキドキさせることに関しては成功したが。
今度、二人きりの時に再チャレンジしよう。
そう思い、私は眠りについた。
幹人の香りを胸いっぱいに吸い込んでから――
今日、お父さんは夜遅くまでの残業で、先に俺と妹がご飯を食べる。
妹は自分の部屋で宿題をしており、俺はキッチンで味噌汁を作っている。
そして俺の後ろには――
「今日はシンプルね」
俺が来ているエプロンの結び目をくいくい引っ張る琴美がいる。
彼女はよく俺の家に来る。
お母さんが死に、お父さんが仕事に追われいてあまり帰ってこないので、俺と妹のことを心配して琴美は手伝いに来る。
掃除機をかけたり、洗濯物をたたんだり、食器を洗うなど。
俺にかかる負担が減るので、かなり助かる。
ただ……洗濯物をたたむときに俺のパンツがあるとかなり恥ずかしい。
琴美が無表情でたたんでいるのを見ると、女子は凄いなぁ、と思う。
材料を入れ、味噌をとく。
今日は俺が疲れているから、シンプルだ。
琴美がやってあげると言ったが、料理をする腕が絶望的にない彼女にされることは申し訳ないができない。
食堂や髪結びなど、今日あった出来事を思い出していると、突然琴美が俺の背中にもたれかかった。
俺は驚いてお玉を落としそうになる。
琴美は俺の胸の前で手を組み、頭を俺に肩に乗せた。
待て待て待て待て背中に何か柔らかいものを感じるのだが……?
はぁ、と琴美のため息が俺の頬にかかる、
俺の心臓はパンクするのではないのかと思うぐらい早く脈打ち、頭の中がぐるぐると渦巻いた。
「あの時緊張したなぁ」
あの時とは食堂で起こった事件だ。
ああ、俺も緊張したよ。
と俺は心の中で呟く。
それが言えないのは俺が今緊張しすぎて口を開いたり閉じたりすることしかできないからだよ!
今の状況かなりマズくない?
誰か、ヘルプミー!!
「本当は手なんか出したくなかった」
そうか、うん、そうだよな。
俺の視線が泳ぐ。
背中に当たっているものが気になる!!
「まっ、あんなやつ、どうでもいいんだけど」
琴美がやっと俺から離れ、俺は肩から力を抜いた。
「興奮してたでしょ?」
俺の肩がドキリと跳ねた。
「し、してねぇ」
「もう一回やってみる?」
琴美が俺の前に立ち、手を俺の首の後ろで組んだ。
俺の頬が先程みたいに熱を持つ。
その時、階段の方からパシャリとシャッターを切る音がした。
驚いて俺と琴美はそちらに頭を向ける。
そこにはにやにやしながらスマホをこちらに向ける妹の姿があり、何度もシャッターを切っている。
「あ……」
琴美は顔を真っ赤にし、俺から数歩離れた。
「おい」
俺は妹に歩み寄り、スマホを取り上げようとしたが、彼女が胸の前でスマホを握ってしまったため、取れなくなった。
妹の胸を触ってスマホを取ったらその後が怖い。
「貸してくれ」
「何で?」
絶対に渡さないよ、と妹はスマホを握る手に力を加える。
「写真を削除したい」
「私に頼めばいいじゃん」
「やらないだろう?」
妹が黙り込む。
俺は髪をかきむしった。
「お願いだから消してくれ」
「消さない方がいいんだけど」
彼女は当たり前でしょ、と付け加えた。
周りの人に広めたいらしい。
俺は腕を組み、むーんと唸った。
琴美に助けを求める視線を送るが、彼女は顔を青くして首を横に振っているだけだ。
「幸ちゃん、お願いだから消し――」
「やだ」
琴美ががっくりと肩を落とす。
そのころ、俺は妹を止める方法をひらめき、ポンと手を打った。
「お兄ちゃんがいい情報教えるから、そしたら消して」
「物による」
俺はニヤリと口の端を上げ、妹の目を見た。
「蘭花との関係を教えてやる」
妹はあんぐりと口を開け、琴美は「え!?」と声を上げた。
「蘭花って、この前他の女の子と話していた子のこと?!」
妹は目を輝かせ、熱心に聞いてきた。
一方、琴美は俺の背後で剣呑なオーラを出している。
「私に隠していたの……?」
彼女の雰囲気に俺は恐怖を感じ、ごくりと唾を飲み込んだが、首を振って気を取り直した。
「俺が言うのと同時に消せよ」
「うん!」
妹は俺が蘭花との関係を言う前に、写真をすべて消した。
「教えて!」
ふぅ、と息を吐き、俺は冷汗をかきながら言った。
「俺と蘭花は……」
「うんうん」
「とても仲が悪い」
次の瞬間、背中と腹に強い痛みが走った。
床に倒れ、俺は痛みに悶絶した。
顔を上げると、琴美と妹が恐ろしい形相で俺を睨んでいる。
「驚かさないでよ!」
「幹人のバカ! 期待させておいて何なのよ!」
二人に怒鳴られ、俺は言い訳をしようとするが、妹にまた蹴られそうになったので、黙った。
「す、すまん……」
「もー!」
妹はずかずかと自分の部屋に戻っていくと、俺は起き上がって、床の上で胡坐をかいた。
琴美は腰に手を当て、俺を見下ろしていたが、ため息を吐くと俺の隣に腰を下ろした。
「ごめんな、バカなことをして」
足を抱えるようにして座り、琴美は顎を膝の上に乗せた。
「私もごめん、殴って」
「いいよ、俺が悪い」
気まずい沈黙が流れた。
この空気をどうにかしようとしたが、突然琴美が俺の肩に寄り掛かってきた。
すーすーと寝息を立て、琴美は寝ていた。
どうしようかとおろおろしていると、階段からシャッターを切る音がした。
「音が出せないようにはできないんだね」
もう、俺には妹を止める力なんて残ってはおらず、そのまま意識が遠のいていった。
※
寝たふりをしていた私は片目を開けた。
幹人の寝顔をじーっと見つめる。彼はいつでも可愛い。
今日、私は幹人をドキドキさせて落とそうとしていたのだが、幹人の妹、幸子に邪魔をされてしまった。
ドキドキさせることに関しては成功したが。
今度、二人きりの時に再チャレンジしよう。
そう思い、私は眠りについた。
幹人の香りを胸いっぱいに吸い込んでから――