第6話

文字数 889文字

 先生やクラスメイトが驚きの表情で俺を見ていた。

「人が頑張ったのに文句だけ言うって何なんだよ」

 季節外れの大雨と雷が、俺の背後で鳴る。

「文句じゃないし…」
「文句だろーが」

 俺は蘭花の言葉を遮った。

「人の努力を踏み(にじ)るようなことを言うな」
「‥‥」

 蘭花は俺の顔を見つめたまま、黙り込む。

「あと人には優しくしろ。恵実里に対するあの態度はひどいよ」

 蘭花の視線が一瞬、恵実里の方に行った。
 少し申し訳なさそうな目で、一瞬だけ。
 何を考えているかは分からないが、謝罪だといいな。

「冷たい態度も最悪だ。優しくしようとしている人もいるのに、自分勝手なことをやめろよ」

 俺はちらり、と恵美里のことを見た。

「周りの人が不快な思いになる。お前は自分の事しか考えられないのか?」
「‥‥‥」

 蘭花が唇をかんだ。俺は続ける。

「言いたいことは、自分の事だけを考えるなってこと。周りの人のことも考えろ」

 言いたいことを言った俺から力が抜けた。
 しかし、みんなの視線に気がついて俺は赤面。

「す、すみません」

 気まずい雰囲気の中、俺は静かに席に腰を下ろした。
 その音と、雨の音だけが静かな教室に響く。

 理星は目を見開けて、恵実里の口はネジが外れたように開いている。

 まぁ、俺は平凡な男子だし、怒るところを見るのは珍しいからな。

 蘭花は俯いたまま手遊びをしている。

 しばらく呆けていた先生とクラスメイトがまた騒がしくなった。
 しかし、まだ静かなこのグループの雰囲気に我慢できずに、俺は話を切り出した。

「新聞はこれでいいんだな?」

 理星が曖昧にうなずき、恵美里は蘭花の様子を窺っている。

「蘭花さん…」
「話しかけないで」

 蘭かの態度を咎める気力が残っていない。
 恵美里には悪いが、無視させてもらう。
 ちらちらと横目で見てくる蘭花も気づかないふりをする。

「ねぇ、幹人」

 蘭花が珍しく俺の名を呼んだ。

「何だよ」

 新聞から目を離さずに。適当に返事した。
 謝罪の言葉かと思いきや…

「私、あんたが大嫌いになった」

 はぁ?と俺と理星と恵美里が彼女を見た。

「覚えときなさいよ、復讐するから」

 蘭花の目は、なぜかやる気で燃えていた。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み