第5話

文字数 917文字

 出来上がった新聞を、俺は顎に手を添えながら眺めた。

「いいんじゃないか?」

 なかなかいい出来だと思う。

「流石、蘭花のスパルタ指導のおかげもあるな」

 俺がポツリと零したその言葉を、蘭花が拾ってしまった。
 言わなければよかったじゃん、ではなく、言ってしまったのだ。

「何がスパルタ指導よ。ただ指示を出しただけなんですけど」

 眉間にしわを寄せた蘭化が俺に怒る。

「それでもあんた達男子は私に書くのを任せて、ちょっとしか情報収集をしていないじゃない」
「は?」

 俺の胸の中がモヤモヤし始めた。

「書くって言ったのはお前だろうが」

 気づいたら低い声で返していた。

「情報収集は?ちゃんとやってなかったでしょう?」
「やったよ」

 放課後も残ってやったし、下書き係の恵美里に集めてきた情報を全て伝えた。
 多すぎるぐらいやった。
 一緒に頑張った理星が顔をしかめている。

「蘭花さん…二人とも頑張っていたよ…」
「あんたは黙っときなさい」

 恵美里がしゅん、と項垂れてしまった。
 胸の中のモヤモヤが増える。
 俺はグッと拳を握った。

「こんな新聞、ダメだわ」
『‥‥‥‥』

 蘭花が椅子で偉そうにふんぞり返りながら、続けた。

「まずは内容。しょぼすぎるわ」

 理星が俺のことを、なんだこいつ、といった目で見ている。
 どうにかしてくれ、と口パクで言っているが、俺もそう思うよ。

「そして、書き方、文章。こんなの、誰が見て理解する?」

 お前だけだよ、理解してないのは。と、心の中で悪態をつく。
 恵実里が涙目になっている。

「私が一人で書いた方がまだいいわ」
「‥‥‥‥けよ」

 俺が小さく呟くと、蘭花が「何?」と不機嫌極まりない声で答えた。

「自分で書けよ」

 蘭花のことをグッと睨みつけると、彼女はふん、と鼻を鳴らした。

「うん、そっちの方がいいわ…」
「ふざけんな!」

 気づいたら声を荒げていた。俺は音を立てて椅子から立ち上がった。
 先生とクラスメイトが驚いてこちらを見ている。

「はぁ?後で、自分で書けって言ったのはあんたでしょう?」

 蘭花が腕を組み、人を馬鹿にするような笑みを浮かべた。

「そういうところなんだよ」

 俺は、蘭花に注意をするために、言葉を連ねる。
 大粒の雨が、窓に叩きつけられていた。
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