第8話

文字数 1,294文字

 雨がやみ、嘘みたいな晴れ空が広がっている。
 理星と弘秀と帰っている今、

「なぁ、なんか視線感じないか?」

 俺は誰かに見られている気がした。

「何言ってるんだよー」
「僕は何も感じないよ」

 理星と弘秀が否定する。
 ちらちらと背後を窺う俺を見て、理星が吹き出した。

「それよりさ、今日の幹人、凄かったよな」

 何の、と聞かずとも分かる。
 蘭花にキレたことだ。

「うん、ミキは普通の男子だと思ってた」

 弘秀が理星の言葉に付け加えた。
 ミキは、幹人の略だ。よくそう呼ばれる。

「普通の男子だよ。普通の高校に通って、彼女もいなくて・・・」
「でも蘭花と交渉できる」

 理星が蘭花を珍獣かのような物言いで言った。

「それはある。五秒以上の会話でしょ?」

 おとなしい弘秀が少し興奮気味だ。
 何を考えているのやら。

「授業中、消しカスを投げあってたしな」
「………」

 何も言えぬまま俺はうつむいた。

「できるだけ関わりたくない」

 小さな声でそう呟くと、理星がバシバシ俺の背を叩いた。

「絶対にこれから関わるんだからさー、心強くな!」

 弘秀は理性の言葉に賛同している。
 その後、俺は無理やり話題をずらし、別れるまで喋っていた。

「またな」

 俺はまだ感じる視線が気味悪くなり、かばんを背負いなおし、急ぎ足で家に向かった。

「バイバイ!」
「じゃあね」

 二人は同じマンションに住んでいるので、俺と違う道を歩む。
 すぐ近くにある一軒家の俺の家には早く着いた。
 そして玄関の扉に手をかけた瞬間——

「ばっ!」

 後ろから肩に手をかけられた。
 心臓が縮み上がり、驚いて振り返ると、見覚えのある顔があった。

「驚かすなよー」

 未まだにバクバク鳴る胸を押さえながら、

を見る。

「何やってるんだよ、蘭花」
「ふふーん」

 沈みかかった太陽の光が、蘭花の姿をその色に染める。

「幹人の家知っちゃったー」

 蘭花が無邪気に白い歯を覗かせた。

「……何故ついてきた?」

 俺は蘭花と向き合った。
 笑っている姿が可愛いと言う理由は入っていないからな!

「もちろん、復讐の一部なんだけど?」
「復讐にストーキングがあってたまるか。あと一部って何部あるんだよ?」
「いくつか。何、悪い?」

 低い声で、怖がらせるような声色で蘭花がそう言うと、俺は肩をすくめた。
 俺がキレても冷たい面は直らないようだ。

「悪いとは言っていないが、やめてくれ」
「同じことじゃない」

 俺は心底面倒臭くなったので家に帰ろうとした。

「待ちなさいよ」

 恐縮して土下座をしたくなる口調に、慣れた自分が怖い。

「まだ許していないん……」

 俺はそのまま急いで家に入り、鍵をかけた。

「ちょっと!? 何!?」
「幹人? 外にいるのは誰だ?」

 台所からお父さんが声を出した。
 今日は珍しく彼が作っているようだ。

「誰でもないよ」

 俺はニ階にある自室に入り、窓から蘭花の様子を窺った。
 彼女は家の鐘を鳴らしており、わぁわぁ叫んでいる。

「おい蘭花」

 蘭花は、俺が窓から顔を出していることに気付き、睨んできた。

「近所迷惑だぞ。帰れ」

 蘭花が何かを言う前に窓を閉じる。
 カーテンも閉ざすふりをして、蘭花を見ると、彼女はトボトボと帰って行っていた。
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