第3話

文字数 680文字

 新聞作りは順調に進んでいた。
 ただ、蘭花のこともあって、とても気まずい雰囲気が漂っている。
 今は蘭花が関わるもう一つの理由でも気まずい状況になっている。

「あ、あのぅ……蘭花さん、じ、字が……」

 蘭花が新聞を書くと言い張ったので書かせたが、字が乱暴に踊っている。

 これなら俺の方が字が綺麗だな。
 なんてことを言ったら殺されるな。

「字がどうした?」

 書く手を止めて、髪を耳の後ろにかけた蘭花が恵実里に鋭く言い放った。

「……私が書きましょうか?」

 俺は心の中で恵実里に拍手を送った。
 俺だったらすぐにそのまま「汚ねぇから俺が書く」と言っていただろう。
 恵実里の冷静さに感心する。

「お断りするわ。貴女は下書きの読み上げをしときなさい」

 恵実里はコクコク頷くと、下書きを手に取った。

 こんなに蘭花に優しくできる理由がわからない俺は、恵実里に小さな声で尋ねた。

「私ね、蘭花さんと仲良くなりたいの」
「え」
「一人ぼっちでかわいそうじゃない」

 自己責任だろ。
 そんな思いが口に出ていたのか、恵実里がその小さな体を揺らした。

「きっと、奥底はいい人なんですよ」

 彼女が片目を閉じて小さく笑った。

「何話してんだ?」

 理星が俺の肩を叩いた。

 何でもない、と俺は言うと、蘭花が書き殴る文字を見る。

『………』

 女子がこんな字を書いていいものなのか?

「何やってんの、恵実里は読み上げて。あんた達は図書館にでも行って情報収集をしときなさい」

 なんで命令口調なんだこの野ろ…と言う言葉は口に出さずに飲み込む。

「はい、行ってらっしゃい」

 理星と俺は顔を見合わせると、肩をすくめて図書館に向かった。

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