第9話

文字数 1,394文字

 週末だ! ノー学校だ! 理星達と遊ぶ日だー!!

 俺はベッドから飛び降り、着替えると、二階にある俺の部屋から一階に降り、身支度を済ませた。

「どこに行くんだ?」

 お父さんが皿を洗いながらご機嫌な俺に聞く。
 いつもは無表情の俺が、鼻歌を歌いながら準備しているからなのか、不審な目で見てくる。

「遊びに行くー」

 サッカーボールと水筒を手に、俺は弘秀と理星のマンションに向かう。
 途中、理星は俺のことを向かいに来ていたらしく、二人で歩いた。

 理星はお菓子が入ったビニール袋を片手に、チョコスナックを頬張っていた。

「立ち食いはよくないぞ」

 理星は俺を見た後、お菓子を飲み込み、ビニール袋を俺に突き出した。

「また食いそうだから持ってくれ」

 俺はビニール袋を受け取り、代わりにサッカーボールを持たせた。

 ※

 弘秀家に着くと、まずは三人でお菓子を食べながら駄弁った。
 その後外に出て、マンションの近くにある公園でサッカーをした。

 いい汗かいたよ。

 そして、その時は昨日起こった出来事や、蘭花のことは頭から抜けていた。

 ※

 水とうの水をがぶ飲みしながら俺は帰っていた。
 家の前に着くと、昨日と似た視線を感じた。
 きっと蘭花だろう、と振り返る。

 犬じゃねえか。

 オジサンに連れられている犬が何故か俺のことを見ていた。

 なんだよ、その憐みの目みたいなのは。

 俺はそのまま家に入ると、サッカーボールを戻した。
 しかし、風呂に入ろうとしたところで、お母さんが俺を呼び止めた。

「幹人?帰ってきたの?ならゴミ捨ててきてちょうだい」

 俺は二つ返事でゴミ袋をつかみ、外に出た。
 涼しい夜の風が頬を撫でる。
 近くの草むらで虫が鳴き、月が俺を見下ろしている。
 ゴミ置き場にゴミを置き、家に引き返す。

「‥‥‥?」

 家の近くの薄暗い街灯の下にあずき色のフードを被った人がいる。
 じっとこちらを見ていて、俺の背中に寒気が走った。
 その横を知らない顔をして、通り過ぎようとしたその時、

「ねぇ、ぼっちゃん」

 底冷えするような声に、ビクリとする。

「どれだけ待たせたと思うの?」

 夏なのに冷たい声に俺は……って待て。今こいつなんて言った?

「誰だ」

 俺はフードの人を睨んだ。

『……誰でしょうね』

 声からして、女のようだ。
 俺は危険を感じて逃げようとするが、肩をつかまれた。

「待ちなさい」

 少し焦った声でフードの女が言った。
 待て、この声は—―
 俺は無理やりフードを女の頭から外す。

「またお前かよ」
「何よその言い方」
「しつこいなぁ」
「待ってあげたのよ?」
「待って欲しくねぇよ」

 しつこい女、桜内蘭花は俺を待ち伏せしていたようだ。

「ねぇ、どこに行っていたの?」
「ストーカーかよ。はぁ、俺は理星と弘秀と遊んでいた」

 蘭花はしばらく考える素振りを見せ、

「じゃあ今度行くから、二人の家を教えて」

 俺は引いた視線を彼女に向けた。
 同じ黒なのに俺と違って純粋なプリズムのような瞳が俺を捉える。
 さらさらな髪が風に乗って踊った。

「教えるか。‥‥‥で、用は何だ?」
「用も何も‥‥‥」
「復讐だもん」

 俺は蘭花の声をまねて高い声でそう言うと、彼女が強く俺を叩いた。

「ぶっ殺すわよ」
「物騒だな」
「またね。学校でも‥‥‥いいや、またいつかすぐ、仕返しするから」

 蘭花の姿は言葉とともに暗い夜道の闇に溶け込んでいった。

「帰ろ」

 俺は何もなかったかのように家に帰っていった。
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