第10話

文字数 1,501文字

 親と妹がお買い物に出かけ、俺は一人でゲームをしていた。
 やっているときに邪魔をしてくる妹がいないので、ゆっくり出来る。

 今は夜の八時。
 クーラーをつけ、部屋の中をガンガンに冷やし、アイスを頬張りながらテレビゲームをポチポチしていると——

 ピーンポーン

 玄関が鳴った。
 俺がゲームを一時停止し、アイスを持ったまま玄関に行った。

「はーい……あれ?」

 扉を開けたが、人はいなかった。
 静まり返る玄関を見つめながら、アイスを舐める。
 電池が切れそうで、薄く光る門灯の周りに虫が集まり、飛んでいる。

 確か門灯は人が近づいたら光るんだっけ。

 俺はクーラーの空気が外に逃げないように家に戻り、扉を閉めた。

 きっと悪戯(いたずら)目的の蘭花の仕業だろう。
 ここは無視しても良いと思う。

 またゲームを再開したが、

 ピーンポーン

 すぐに玄関に行き、勢いよく扉を開ける。
 誰もいない。
 コオロギの寂しい鳴き声だけが夜道で聞こえる。

 俺はこれは無限ループするにではないのかと、憂鬱な気持ちになった。
 そこで、思いついてしまったのである。
 俺はアイスを食べ終え、捨てると、案の定再び鳴った玄関に行く。

「誰もいないなぁ」

 そう呟くが、いることは知っている。
 俺は玄関の扉を閉める音を立てると、置いてあった俺の自転車の裏に隠れ、玄関の鐘を凝視した。

 そろそろくるはずだ…‥‥

「ヒヒヒ」

 理星が玄関にベルの前に立った。

 何故理星が?

 それに続いて困った顔の弘秀が出て、蘭花も姿を現した。

「あいつバカだな」

 理星が二ヒヒと気味の悪い笑い声を上げると、蘭花がニヤニヤしながら頷いた。

「やめてあげようよ」

 正義の味方、弘秀が二人を注意するが、蘭花に凶暴な目で睨まれ、黙り込んでしまった。

「これ、ピーンポーンダッシュだ」

 小さな声で弘秀がそう呟くと、蘭花がギラリと目を輝かせた。

「このことをそう言うのね。何だか面白いわ」

「おい」

 俺は自転車の裏から頭をヒョコっと出した。

「おわぁ!?」

 飛び上がった理星と少しホッとした顔の弘秀。蘭花はえー、と言っている。

「バレちゃった」
「帰るか」

 理星と蘭花が(きびす)を返し、帰ろうとするのを、俺が二人の襟を掴んで止める。
 弘秀は俺に申し訳なさそうな目を向けてくる。

「迷惑かけてごめんね」

 弘秀と違って謝る気なんてさらさら無さそうな二人を家の中に引きずって行った。
 弘秀もついてきて。



「さて、何故このような事をした?」

 俺は二人をリビングの床に正座させ、説教を始めた。

「楽しそうだったから」
「俺は蘭花に突然家に押し入られたんだ!」

 蘭花は正直に言い、理星は言い訳をした。

「で、一緒に悪戯(いたずら)しに行こうって」
「何故拒否しなかった」

 俺は立ったまま二人を見下ろした。
 理星はバツが悪そうにそっぽを向いた。

「楽しそうだったから」
「蘭花と同じこと言うな」

 俺が突っ込むと、理星はまた言い訳をした。

「でもよー急に女子が家に押し入ってきてんだぞ?怖くないか?」
「まぁ」

 俺は視線をどこか涼しげな顔をしている蘭花に乗せた。

「弘秀の家にも押し入ったのか?」
「うん」

 俺はこめかみを押さえた。
 こいつ……

「可哀想に、弘秀」
「あれ、俺は?」

 何か言っている理星を無視して俺は続けた。

「弘秀は止めようとしてたしな。誰かと違って」

 俺は剣呑な目を理星に向けると、彼はビクッと震えた。

「もうこんな時間に人の家に悪戯しにくるなよ?」
「ご、ごめんなさい」

 理星は素直に謝ったが、蘭花は知らない顔をしている。
 さっきの言葉は二人に向けて言ったはずなんだが。

「蘭花? お前も言うことはないのか?」
「これはまだ復讐の一部よ」
『はぁ』

 俺の家に三人のため息が響いた。
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