第121話

文字数 853文字

「それって、だからもしかしたら鉄男の子供であるかもしれないということでしょ。何で、いったいパパ幾つだと思っているの」
「確かに、それはそうだけれど、若い睾丸で男性ホルモンが勢いよく出るのだから、どうしたってそういう気になるのは仕方がないよ。その結果なかなか理性とは異なることも起きるのだよ。」
「そんな」
「まあ、俺も先月ようやく定年退官となり、予定通り結城先生が俺の後任に決まったよ、これで我が帝都大学移植外科も当分安泰だよ。というか日本の移植外科そのものの発展が大いに期待できる状況だ。そして例の蜷川だが結構喜んで北海道へいったよ。アッチも大きなセンターになるのだから蜷川としても大役を仰せつかった感で、感謝していると思うよ、俺には何もいってこないけれど」
「本当にそうならいいのだけれど。そう思っているのはパパだけということにはならないでしょうね」

 私は愕然として家を出た。
あの睾丸移植の結果として父がまさか他に子供を作るとは思わなかった。
確かに若い睾丸が入ったのだからホルモンはたくさん、性欲は増すかもしれない。
でもそれで現実に妊娠させるということは予想だにしなかった。

 帰り際にそっと私はテーブルの下に落ちていた赤ちゃんのよだれ拭きを持ち帰った。
そこにはその子の唾液とともに多数の髪の毛が付いていた。
でもその時はまだそれで私はどうしようかとはっきりした思いがあるわけではなかった。ただ何となく漠然とした思いでいったいあの子は誰の子なのだろうか。
鉄男の子、鉄男の子が他の女のところにできる。
冗談じゃない、あんなに努力した私にはできなくて、ありえない、絶対にありえない。
許さない。ハラワタが煮え繰り返ってブルブル体が震えてきた。
叫び出しそうだ。鼻を膨らませてブウブウ言っている女を変な目で通りすがりの人が見ていく。
鉄男の子、鉄男の子、鉄男の核が私と違うところにはまっている。
こんな馬鹿なこと絶対におかしい。断じて許さない。
目を見開いて鬼のような顔をしていただろう。

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