第77話

文字数 301文字

 金曜日は土砂降りだった。夏前の軽井沢はまだ結構寒くてホームに降り立つと身震いするほどだ。
駅前のタクシーに長い行列ができていて、ようやくホテルに着いたのはもう8時を回っていた。
急ぎ足でレストランに入ると父はもうすでに来ていた、いつもと違うのはテーブルの上には水しか置かれていない、いつもならなにがしかのアルコールを始めているのだが。
「遅くなりました」
「おう 遅かったな」
「はい、タクシーがなかなか来なくて」
「まあいいよ、座りなさい」
「何か飲むかね」
「あら、珍しいわね、始めていないの」
「今日は本番だよ、アルコール入れては役が務まらんよ」
父の顔は笑っていなかった。
真剣そのものだ。
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