第99話

文字数 730文字

 悩むより今の幸せ、阪田さんとの時間を楽しみたい。
ほとんど支離滅裂の状況だ。
阪田さんのいない家に帰って涙がとめどもなく出てくる。
どうしてこういう時にいてくれないのよ。
阪田さんのいないこの家はなんとももの寂しい。
静かで良い空間なのだけれど、その静けさがとても不安にさせる。
冷蔵庫から残っていた赤ワインをだして飲んだ。
普段一人ではお酒は飲まないのだが、この不安、お酒にでも頼らないと乗り越えられない。ベッドに転がってワインを飲んでいるといつの間にかお腹の中からペットの音が聴こえてきた。
鉄男のペットだ。とても久しぶりのような気がする。
鉄男、鉄男なのね、お願いもっといっぱい吹いて。私もピアノを一緒に合わせるから。
素晴らしい、この快感、やはり何者にも変えられないわ。
1曲、2曲次々とあわせた。夢中で合わせた。けれど何かが違う、何かが、果たして何なのだろう、何かがしっくり合わない。
あの、例の微妙に遅れて出てくるあのタッチが違う。
本当に微妙なのだけれどあっていない。なぜ、どうしたの、鉄男、なぜ前と同じように吹いてくれないの。
そのうち鉄男が私を無視して勝手に吹き始めた。夜明けのトランペット。
素晴らしい曲だわ。素晴らしい、けれどこの曲ではピアノは出る幕がない。
 
 ねえどうして、私を置いていかないで。
あれっ、私は誰かと踊っている。ワルツよワルツ、くるくる回っている、右の手は鉄男がしっかり握っていくれている。
鉄男に引っ張られてくるくるくるくる、楽しい、目が回りそう。
でも左の手はあれっ、阪田さん、阪田さんが一緒に踊ってくれている。
鉄男と私と阪田さん、3人束になってくるくるくるくる。夢見たい、うそっ、えっ、夢、夢なのかしら。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み