第82話

文字数 486文字

 それは父の顔ではなかった、厳しい任務を終えた兵士の姿だった。疲れ果てて家路に帰るような。
確かに、この任務、これで得するのは私だけだ、父にはリスクこそ大きけれ、何の得にもならないことだった。
こんなことに今まで私は全く気がつかなかった、本当に愚か、自分のことしか考えていない。
その通り。鉄男を欲しいのは私であって父ではない。
でももうやってしまった。全てのことは終わった。事実は変えられない。
今ごろになって事の大きさに慄く、恐ろしい。
今までは鉄男欲しさが全てに優先していた。
だって本当に鉄男が欲しいんのだもの、これから一生それを背負って行くのだ。
何を今更という声が聞こえてくるが、でも確かにそれほどの覚悟はできていなかった。
でも覚悟なんて関係ない、もうやってしまったのだから、何が起きようとも変えられない事実は。
それこそ毒を食らわば皿まで、開き直るしかないだろう、でも怖い。流石にその後三日間は起き上がれなかった。
四日目にまだ鉛のように重い体を引きずって出勤した。何も考えないようにしても湧き上がってくるのは先週末のこと。とてつもない吐き気がする。

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