第153話 主権・権利・❝責任❞ (単元まとめ) Bパート

文字数 9,315文字



 愛さんはどうしようもなくなってしんどくなったから、誰かを頼りたかった。自分一人で無理ばかりをして欲しくなかったから、わたしは積極的に誰かを頼るように紹介をした。愛さんのお話を聞いて、愛さんのあのまっすぐな性格を見ても、改正児童福祉法第二条②項部分を意識しなくても、愛さんのご両親がいかに愛さんを大切に育ててくれてるのかも分かるんだよ。
 こんなのはもう法律云々じゃなくて、愛さんみたいな愛くるしい女の子なら、純粋に児童と呼ばれる子供たちを守る立場にある大人なら、当然のことだと思うのに……なのにこの先生は一切の期待に応えてくれなかった。

 ※注意:いじめ防止対策推進法6条・7条・8条も該当となります。

「結局大人はみんなそう。都合が悪くなったら泣くか黙るか。女相手に涙見せたって逆効果だって愛美先輩には伝えたけど、このクズ女もだったのね」
「ちょっと優珠ちゃん。それは言い過ぎとちゃうか?」
 けど、何も答えない先生対して憎い妹さんがかなり辛辣に言葉を重ねる。
「そんな事無いわよ。あの日、お兄ちゃんから休んで家に居るはずの愛美先輩と連絡がつかないって連絡を貰って、わたしが校内を、お兄ちゃんが校外を中心に思い当たる場所を探し回って……その最中に悪態をついた犯罪予備軍を見つけて問い質したら、愛美先輩と特徴が一致したのよ。だから、その場で犯罪者に制裁をかまして、そのまま証拠を蹴り転がしながら現場に踏み込んだ時、文字通り、男子相手にほぼ全裸にされても、断金へと至った親友を守ってたのよ。わたしたちが顔も名前も知らない性犯罪者を前に全裸にされた時、同じ事が出来る? しかも悔しい事にわたしのお兄ちゃんに対する気持ちも本気なのに。それでも、あの隙だらけだったとしても、貞操感の強い愛美先輩は親友の盾になったのよ。それがどれ程勇気のいる事か、ここにいる皆……そこのクズ女以外は分かるんじゃないの?」
 思わぬ憎い妹さんから語られた、最悪と言ってもいい現場の状況の説明が入る。その状況を想像して、遅れながら背筋が凍る思いなんだよ。
「先生。金曜日はそこまで酷かったんですか? なのに先生まで愛さんを傷つけたんですか?」
「酷かったけど、私たちは岡本さんに自宅待機――」
「――わたしは愛さんの過失の話が聞きたいんじゃないんだよ! これ以上愛さんの事を悪く言うんだったら、二度と穂っちゃんとは連絡は取らないんだよ!!」
 わたしは涙を零しながらの穂高先生の話を途中で切って、愛さんから再び預かったブラウスを机の上に広げる。
「酷い……こんなんなってしもうたら、もう着れへんやないですか。それに岡本先輩の服をこんなしたって言う事は……」
 先を想像して、涙ぐむ気の弱そうな女の子。
「……そうゆうことね」
 ボタンも半分以上取れてしまって、袖口から背中の所まで引き裂かれて。このブラウスとさっきの憎い妹さんの話を聞いて、まだ愛さんの責任にしようとする、説明する時以外はずっと鼻を啜ってるこの先生。
 絶対この先生は、心に決めた大好きな人がいるにもかかわらず、の女の子の恐怖を分かってない。
 その恐怖はまた一つ違うんだよ。
「……で。金曜日の状況はどうだったんですか?」
「……私が現場へ駆けつけた時は、岡本さんは上半身裸。下半身はスカート姿だったけど、例のサッカー部男子の証言によると、岡本さんの顔を蹴ったそうよ。そしてもう一人の男子からは乳房を乱暴に掴まれたり、殴られたりもしてるわ」
「女の子の顔を蹴るって……しかもその男子ってサッカー部ですよね」
 サッカー部の大の男子が、愛さんの可愛らしいお顔を蹴った……。その上、性の知識が少ない愛さんのブラウスを破って裸にして……。考えただけで、途中で想像するのを辞めたにもかかわらず、目から涙が止まらない。
 空木くんとキスするだけでも、時間をかけて少しずつ心と体の距離を縮めて……それも合間合間に大騒ぎもしながら、本当に幸せそうにしていて……その先で成就出来た時には、心から嬉しそうに、恥ずかしそうに話してくれたのに……。
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※二人のデート関連 及び 夏休みに登る階段 全話
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 わたしは自分の体がハッキリと冷たくなって行くのを感じる。
「おいクズ女。何事実を隠そうとしてんの? それとも歩く性犯罪者が何もゆわなかったのか? あの歩く性犯罪者は愛美先輩のスカートの中の一番奥まで腕、突っ込んで下着まで取ってたんだぞ」
 その意味するところを考えようとして辞める。
 ここまでの話を聞かされたら、あの電話口で少しだけ聞こえた不穏な言葉“学校を続ける”この前後の会話の流れも分かるんだよ。
 少なくともわたしがおばさまの立場なら、間違いなく同じ内容を口にすると思うんだよ。
 それでも昨日愛さんから連絡があったように、少しでも綺麗な自分を空木くんが求めてくれるように、まっさらな愛さんで応えようと、自分の中で折り合いをつけると言う。
 空木くんを逃げに使うのは失礼だって言い切った愛さん。それほどまでに愛さんを大切にしてくれてる空木くん。
 二人の絆、信頼「関係」は、本当に固く強くなってる。
「ありがとう空木さん。該当生徒及び関係生徒、二年・三年を含めた全15人の処分は決まったけど、報告書、事故調査委員会の方には伝えておくわね」
 先生の方は、それで一通りの話は終わりみたいだけど、わたしにはもう一つの本題があるんだよ。
「じゃあ先生。金曜日の夕方、愛さんはボロボロだったはずなのに、どうしてトドメを刺すような電話をわたしにして来たんだよ。あれは何のための電話だったの?」
 不必要にわたしたちの関係を伝えて、わたしと愛さんを繋ぐブラウスの事情にまで土足で踏み込んで来て。わたしが知ってる穂高先生とはやっぱり変わってしまったんだよ。
「それは船倉さんに、岡本さんを守れなかった私を許して欲しくて……」
 一体この先生は何を言ってるんだよ。どうして先生がした事の責任とか、心の辛さをわたしがどうこうするって思ったのかな。それにどうして傷ついている愛さんを放って、自分だけが楽になりたいとか考えたのかな。ひょっとして先生は愛さん自身を端からちゃんと見ようと、向き合おうとしなかったって事なのかな。
「先生……一つ言っといてあげる。先生からの電話の後、愛さんからも連絡があって自分でブラウスの事は言わないといけなかったってものすごく自分を責めてたんだよ。そして一昨日の土曜日、愛さんからこのブラウスを一度預かったんだよ。何とか着られる状態まで戻したくて。それほどにこのブラウスはわたしと愛さんの中では大切な物なんだよ。それを土足で踏み荒らされた気持ち、わかりますか?」
 そう問いかけて、今日。もう一つ大きな目的のために携帯電話を手に持つ。
「私だって他人から力や勇気が欲しい時だってあるのよ。それとも何? 私は誰にも頼ったらいけないの?」
「それ。本気でゆってんの? 何で自分の事ばっかりなのよ。相談に乗らなかったのもクズ女。愛美先輩を必要以上に傷つけたのもクズ女。そして責任を放棄して自分の権利ばかりを主張したのもクズ女。何もかもクズ女が何もしなかったのが原因じゃないの?」
 憎い妹さんの言ってる事は正しいけど、まだ優しい。そしてわたしは本当に優しくない。愛さんを傷つける人にはこれっぽっちも優しくしないんだよ。
「先生はフィアンセ……婚約者には頼らないんですか?」
 だからわたしは先生の一番の弱点でも遠慮なく口にするんだよ。
「……こんなクズでも相手いんの?」
「お願い船倉さん。その話だけは本当に辞めて」
 わたしが何をしようとしてるのか分かった先生が、手に持った携帯を見て顔を青くする。
「でも先生はわたしとの関係を愛さんの目の前で喋って愛さんを傷つけた……しかも何の予告も断りもなく。でも今わたしは穂っちゃんの前で予告してるんだよ。その上でさっき先生に謳ってもらった改正児童福祉法の総則部分、一条から項も含めた三条までの条文。その全てを声に出して謳えるにも拘らず、先生はその責任を放棄したんだよ。

である子供――愛さん――に対して

を果たさない――守ってくれない――先生が、何の

を持ってわたしを止められるの?」
 わたしの言葉に何も言い返せない先生。
「だから今から愛さんに電話をして、先生の前で大好きな人の関係をばらされる不安を教えてあげるんだよ」
「いやっ! それだけはやめて……っ!」
 隠す気の無いわたしの言葉で、何かの合点が行ったのか穂高先生から距離を取る憎い妹さんと、本当にこの世の終わりを嘆く先生。

『言われた通り電話を待っていたんですが、どうしたんですか? 朱先輩』
 それと同時に愛さんと電話がつながる。
『その話もするけど、今日の愛さんはどんな感じ? 頬は痛くない? 大丈夫?』
 だからこそ、一番初めにやっぱり愛さんの状態が気になる。その愛さんの声も昨日空木くんから大切にしてもらえたからか、声だけは元気そうでほっとするんだよ。
『昨日の今日で変わる訳ないじゃないですか。明日また病院に行くので改めて連絡しますって』
 だからわたしの中にあった不安が徐々に安堵に変わっていく。この分なら今夜ナオくんにすんなりとお話を聞いてもらえそうなんだよ。
『じゃあ明日も連絡を待ってるんだよ』
『ありがとうございます。その……明日。もう一つ相談に乗ってもらっても良いですか?』
 この頃愛さんがやっとわたしに心を開いてくれつつあるような気がするんだよ。
『愛さんからの相談! もちろんなんだよ。愛さんからの相談だったらいつでもどこでもどんな時でも聞くんだよ』
 だから一も二も無く飛びつく……ここに人がいなかったら愛さんの相談を独り占めしたかったくらいなんだよ。
『じゃあ、その相談もお願いしますね……最近頼ってばかりですいません』
『何を言ってるんだよ。そんなのもっともぉっと頼って良いんだよ。いつもの愛さんとわたしだけの合言葉なんだよ』
 せっかく頼るようになってくれたんだから、もう信用出来ないこの先生の分も含めて、わたしが全部相談に乗るんだよ。
『本当に朱先輩って……それで、今日の本題って何だったんですか?』
 本当に愛さんと喋ってると苦手な電話にも拘らず、いつまでも喋ってられるんだよ。
『今日は愛さんに教えておきたい話があるんだよ』
 視線は穂高先生から動かさず、でも話の内容は愛さんに。
『私に話って……急に改まってどうしたんですか?』
 何の話か分からない愛さんの声が少し硬くなって、目の前の穂高先生はわたしの方に、親の仇を見るような目を向けて来るんだよ。
『愛さんは、穂高先生が来年結婚のご予定があるのを知ってる?』
 でも、わたしの一言で、穂高先生が両手で顔を覆う。
『そう言えば、どっかで来年挙式を上げるみたいな話を聞いた気がしますけれど、それがどうかしたんですか?』
 この話に対しては、穂高先生が自分で秘密の窓を開けただけだから、嫉妬のような気持ちは全く湧かないんだよ。それどころか、その結婚自体がどうしたのかと、気にも留めて無さそうな愛さんの対応にわたしの心が黒く喜ぶんだよ。
『その穂高先生のお相手って、この学校の卒業生で、もっと言うならわたしの一個先輩なんだよ』
『へぇ……そうなんですね。じゃあ先生の方が年上な――え? あれ? それって……』
 普通に喋ったつもりだけど、愛さんなら気付いてくれる。もちろんその先の現場もわたしはたまたま目にしてしまったけど、そこに関しては、空木くんと二人で話し合ってゆっくりと進んで行く愛さんはもう少しだけ知らなくて良い事。
『そうなんだよ。教師と生徒の

そして

。そのお相手が来年度卒業だから、内定が出たら結婚なんだって』
 わたしの言葉と同時に、穂高先生を見る目がハッキリと変わる憎い妹さん。
『じゃあその人の事、朱先輩もご存じなんですか?』
『ご存知も何も、その男の人は初めはわたしに声を掛けて来たんだけど、その時のわたしは全く余裕がなくてお断りしたんだよ』
 そして、次に目撃したのは二人が屋上で言い合いをしている場面。その後は保健室で抱き合ってた姿なんだよ。それも刺激的な格好だったから、多分ずっと忘れられない。
『じゃあ朱先輩が傷ついたりとか、辛い思いとかは?』
 だけど、そこまで想像できなかった愛さんは、いつも通り他人の事を一番に気遣う愛さん。
『大丈夫なんだよ。今のわたしは本当に幸せなんだよ』
 本当に。わたしに声を掛けた後、屋上で騒ぎを起こしてたかと思ったら、そこから1週間も経たない内に穂高先生と刺激的な格好で抱き合ってたんだから、お断りして良かったんだよ。
『それなら良かったですけれど……よく考えたら朱先輩には、ナオさんがいますもんね』
『――?! 何で愛さんがその事を知ってるのかな?』
 これは大変なんだよ。ナオくんの事はまだ愛さんには刺激が強いし、何より愛さんはとっても可愛いから、その存在を出来るだけ後の方にまで隠そうと思ってたのに。
『だって朱先輩。本当にまれにですけれど、寝言でナオさんって呼んでますよ?』
 なんて事なんだよ。ナオくんに対する想いが夜中にあふれてたなんて、そんなの聞いてないんだよ。
「……どんな話したら、あんな顔真っ赤になるんやろうな」
「……結局この魔女もハレンチって事ね。まあ、アバズレと比べるまでもなくハレンチの方がマシだけど」
 なんか外野が騒がしいけど、今は愛さんを何とかする方が先決なんだよ。
『愛さん? いくら寝言と言え、盗み聞きは良くないんだよ?』
『でも、朱先輩と寝る時、いつも私を抱き枕にしてくれますよね』
 ……愛さんが反抗期なんだよ。
『……じゃあ、この話は愛さんとわたし。二人だけの秘密なんだよ。穂高先生には絶対秘密なんだよ』
何かの間違いで、ナオくんにまで声をかけられたらたまらないんだよ。
『分かりました。朱先輩との秘密は誰にも言ってませんから』
 ……さっきの言葉は無かった事にするんだよ。
『その代わり、朱先輩が選ぶ男の人ってどんな方なのか気になります』
『だ! 駄目に決まってるんだよ! 愛さんみたいな可愛い子に会わせる訳にはいかないんだよ』
『……私……信用無いですか?』
 な、なんて声を出すんだよ。こんな言い方されたら断れないんだよ。
『信用してるに決まってるんだよ。だからこの話はここでお終いなんだよ』
 だから颯爽と逃げの一手を打つに限るんだよ。
『私の……友達がそう言う話、好きなんですよね……』
 そこで寂しそうに一言漏らす愛さん。これはさっき相談と繋がっているのかな。
「……ねぇ船倉さん。目の前で私を追い込んで楽しい?」
 私が愛さんとついつい楽しい雑談を交わしてると、話の流れの分からない先生がわたしに食って掛かって来る。
「おいアバズレクズ女。教師が生徒(大人が子供)に手を出しといて、何被害者面してんの? そんな貞操観だから愛美先輩の気持ちも分かんないんだな」
 わたしは、穂高先生の相手を憎い妹さんに任せて、その間に愛さんを少しだけ煽ってみる。
『でも愛さんも女の子なんだから、そう言うお話は大好きだと思うんだよ』
『確かに嫌いじゃないですけれど今、私は優希君と恋愛していますから、蒼ちゃんの事ならともかく、他の人の事まで気が回りませんって。特にあの先生との付き合いは程々にって朱先輩と約束したじゃないですか』 (148話)
 もう。本当に愛さんって子は……。
 これじゃあわたしの予定が狂ってしまったのに、嬉しくて仕方がないんだよ。
「ちょっと優珠ちゃん。優珠ちゃんの気持ちはよう分かるけど、本気の恋愛やったら年齢関係ないんやあらへんのと違うんか?」
「佳奈……佳奈があの変態生活指導のおっさんに本気で好きだからって抱かれても同じ事ゆえる? 結婚してくれって言われて抱かれても平気なの?」
「そんなことになってしもうたら、ウチもう学校行けへんようになると思うし、男子を見る目も変わってしまうと思うけど……」
「それにこの魔女の話を聞く限り、自分から生徒(大人から子供)に手を出してるのよ。しかも生徒からの略奪。これに本気の恋愛とかあると思う? ただ若い男とヤりたいだけのアバズレ女よ。ちなみに世間ではよくロリコン教師から女生徒って言うのがよく世の中を騒がせてるけど、その逆でショタコン教師が男子生徒に手を出すのも結構多いのよ」
 見てくれの服装からはとことんかけ離れた事を口にして、その態度も明らかにさっきまでの穂高先生に対する対応とは違うんだよ。
「もう一つ付け加えるなら確か刑法だったと思うけど。基本、成年者と未成年者でのアバズレな行為は禁止されているのよ。だから普通はどっちも成人するまで、婚姻可能年齢に到達するまでは相手を大切にして待つのが道理なのよ。なのにこの魔女がそう思える何かがあったって事は……それ以上の説明は要らないわね」
 それにしても、この憎い妹さんの頭の賢さには驚くばかりなんだよ。どうして刑法の事まで知ってるのか不思議なんだよ。でも刑法よりももっと厳しく追及できる法律があるんだよ。
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【注】実際には刑法ではなく 改正児童福祉法 第三十四条 ①項 六号 児童に
   淫行をさせる行為 でも該当します。 
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『じゃ改めて。穂高先生よりわたしを信用してくれる?』
『そんなの当たり前じゃないですか。つまり大丈夫ですけれど、穂高先生に優希君を盗られない様に気を付けなさいって事ですよね』
 結果として、わたしの思う答えとは違う答えになってしまったけど、逆に言うと一番初めに空木くんが出て来るって事は、それだけ大切にしてるって事でもあって。
『うん。それだけしっかり分かって貰えれば、わたしは大満足なんだよ』
 だったら着地点の変更は止む無しなんだよ。
『分かりました。今日も電話と優希君の応援をありがとうございました』
 そしてわたしと愛さんは穏やかな気持ちで通話を終えるんだよ。
「だから佳奈に男が出来ても、このアバズレ女に会わせたら絶対ダメよ」
「そんなん言うたかて、どうせ優珠ちゃんが皆あかん言うて追い払ってしまうんやろ?」
「当たり前じゃない。大体交尾の事しか考えてないサルなんて必要ないのよ」
 一方穂高先生を任せてしまった憎い妹さんの方は、お友達同士で仲良く喋ってるし。
「で。先生。さっき15人分の処分とか言ってましたけど、その内容は愛さんや親友さんには伝えたんですか?」
 だったら今からでも果たせる責任ぐらいは果たしてもらおうと、最後の確認をするんだよ。
「……その内容については、担任の巻本先生が、二人のご両親に直接説明に上がるって言ってたわよ」
「担任って……あのロリコン変態教師か」
 ロリコン変態って……まさか。
「だから私からはこれ以上余計な口は出さないわよ。ただ岡本さんが統括会役員だったって事もあって、今日の臨時の統括会の時に、学校側からの処分の連絡は先行で伝えられるのよ。その辺りはあの会長の手腕のたまものね」
 つまり大雑把に分かったのは。愛さんは空木くん・会長さん・担任の巻本先生から好かれていて、あの活動の時の男の人からもちょっかいを掛けられてると。そして先週起こった事件は、会長さんの手腕によって統括会の人間だけに先行で伝えられると。
「じゃあ次は統括会が始まるまで、ここで休ませてもらうんだよ」
「ってそこの魔女。まさかまたお兄ちゃんを誑かそうって事じゃないでしょうね」
 だったら感傷にでも浸りに行こうとしたら、憎い妹さんが噛みついて来るんだよ。
「お兄ちゃんと愛さんの事が大好きな憎い妹さんの邪魔はしないんだよ。ただ敵情視察に行くだけなんだよ」
 倉本って言う子がどういう子なのか。わたしの大嫌いな雪野さんがどういう容姿の子なのか。
「何か分からんけど、優珠ちゃんの事バレバレやね」
「いい? 佳奈。この女は魔女の力を使って人には知られたくない事までゆい当てて来るから、余計な事はゆっちゃダメよ」
 わたしは憎い妹さんには何も悪い事は言ってないはずなのに、わたしに対して嫌な呼び方を続ける憎い妹さん。
 愛さんに魔法使いと言われて無かったら、わたしの気持ちは確実に沈んでた。
「別に喋らなくても分かる事もあるんだよ。例えば……憎い妹さんのその格好は近づいてくる男子が体目的かそうでないかを見極めてるとか、お兄さんに時々その格好を注意されてるとか?」
 ちょっと自信は無かったんだけど、今日少しだけ行動を単位ごとに切り分けてみた感想とか、愛さんの事をとっても大切にしてくれてる空木くんの性格とかを考えたら、憎い妹さんにそれくらいは言ってても不思議じゃないんだよ。
「すごいなこのお姉さん」
「だからゆったじゃない。この魔女は危険だって」
 二人の反応に内心で満足してると、
「船倉さん……その呼ばれ方。大丈夫なの?」
「愛さんがわたしの事を魔法使いって呼んでくれたから大丈夫なんだよ。愛さんは先生と違って、本当にみんなに優しいんだよ」
 しばらく黙っていた穂高先生からの一言。
「確かに。あの岡本先輩めっちゃ優しいもんな」
「……そうね」
 そして憎い妹さんの短い返事に驚いたわたしは、そろそろ頃合いかと思って、
「そしたら役員室の方へ行って来るんだけど、さっきのこの穂高先生の話。みんなに言うも言わないも個人の判断に任せるんだよ。ただ、空木くんには言っておかないと、愛さんを涙させる人はみんな大嫌いなんだよ」
「……魔女のゆいたい事は分かった。わたしもそこは同じ気持ちだから、お兄ちゃんにはわたしから伝える」
 二人だけに声を掛けて、保健室を後にするんだよ。

================次回単元予告================
          一人欠けた統括会とそのメンバーたち
        五人で一つのチームなので中々まとまらない中、
           学校側から説明を受ける処分の全容

      「先生? そう言うのは“好きな人”にしか駄目ですよ」
            次話:154話より159話まで
        いじめ防止対策推進法〘努力義務・付帯決議〙

―――――――――――――――――次回予告―――――――――――――――――
            最大の爆弾を落とした朱先輩。
     その朱先輩は徹底的に、愛さんを涙させる人物を把握する。
           もちろん愛さんに絶対バレない様に

        そこで見た統括会の今の姿と、愛さんの恋人
            その中で行われる敵情視察……

   「私は、私自身が出す二人目の推薦状を出そうかと思ってるんですよ」

            次回 154話 記憶に残る生徒
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