第153話 主権・権利・❝責任❞ (単元まとめ) Aパート

文字数 8,684文字



 今日は約束の月曜日。三回生にもなってある程度の履修は終わってるんだよ。だから早速今日の午後は時間を作れた。

宛元:直実くん
題名:待ってるぞ
本文:今日は一晩中話を聞くから、話のネタをたくさん持って来いよ。
   それから“3(さん)ない”は約束な。じゃあ朱寿の思う通りにやって来い。

 ナオくんもわたしを応援してくれるかのような間合いでのメッセージ。ナオくんはわたしより1つだけ年上のお兄さんで四回生なんだよ。だからほとんどの履修を終えてる学校にはあまり来ずに、就職活動……も終わって、今は先行企業実習とか学生実習に力を入れてる。
 だから学校で顔を合わせるような事はあんまりないけど、今日みたいにわたしがお願いしたら何があっても時間の都合は付けてくれるんだよ。
 だから寂しいって感じた事も無いし、わたし自身の居場所の迷子にもならない。ナオくんの優しさを感じる事が出来るから何の気兼ねもなく、午前中の講義に顔を出すことが出来るんだよ。

 講義中。今日のお昼からの事、一昨日の愛さんとの電話に想いを馳せるんだよ。その愛さんから手渡してもらったブラウスを見てびっくりしたし、あのブラウスの補修をするのも、お裁縫が得意でないわたしにはかなり厳しい。
 それでもあの穂高先生が気付くくらいにはわたしのブラウスを手にずっと持ち続けてくれていた愛さん。その穂高先生から今日は徹底的に話を全て聞き出した上で、愛さんがどんだけ傷ついたかもしれない事までしっかりと分かって貰うんだよ。
 本当に愛さんを悲しませる人はみんな大っ嫌いなんだよ。
 その点では空木くんもおばさまも愛さんの事をしっかりと理解してくれてるし、大切にしてくれてる。特に空木くんがびっくりするくらい愛さんの事を大切にしてくれてるのが伝わる。女の子が一番気にする顔の事は、それこそ月並みな表現で“好き”だって言っただけっぽいのに、その愛さんのお顔の至る所にキスをしたと言う。
 大好きな人から弱ってる時にそれだけ優しくしてもらえたら、わたしだってすごく嬉しいし、愛さんの嬉しそうな声を聞けば、考えるまでもない事なんだよ。
 しかも愛さんとのデートの時に、他に脇見や気移りする事もなく、愛さんだけをしっかりと見てくれてる。これは一見地味で分かりにくい事かもしれないけど、女の子からしたらとてもポイントは高い。
 その上で愛さんが好むもの、愛さんが笑顔になれる物をと思っての傘。どんな傘なのかは一度見てみないと分からないけど、あの電話口なのに愛さんの嬉しそうな声。空木くんの“好き”も、ちゃんと愛さんに伝わってる。
 本当にあの日、わたし自身が空木くんとしっかり対面で話をした上で、もう一回愛さんを任せて良かったんだよ。愛さんが空木くんに全てを隠さずに打ち明けた事にもびっくりしたし、その愛さんの優しさを理解してくれたのも良かった。
 それに空木くんも、そこまで愛さんの事を大切にしてくれてたら、金曜日の件は空木くんにとっても辛いはずなのに。
 それでも愛さん自身、自分から安易な方向に逃げたらダメだ、空木くんに失礼な事はしたくないって思わせてくれる程にも大切にしてくれる。“愛さんの初めては空木くんが全部欲しい”って男の子としての気持ちを見せた空木くん。
 それに対してまっさらな愛さんとして、空木くんの気持ちに応えたいと、答えを出した愛さん。わたしがナオくんとの対抗心を燃やしてしまいそうなくらい、二人の信頼「関係」の積み木は高く積み上がってるし、固いんだよ。
 だからこそ、二人の邪魔をする人、傷つけようとする人には男女問わずわたしは、許さないんだよ。
 わたしが今日のお昼からの事をまとめ終えたところで、午前中の講義も合わせるかのように終わる。

 その後、一度身支度を整えるために自分の部屋へと戻る。母校へ寄るのに目立たない様に、当時着てた制服に着替えようとも思ったけど

のわたしを見てもらおうと、結局このままの服装で行くことにするんだよ。
 ただし、穂高先生からしっかりと話を聞くために破られたブラウスと、わたしの学校の過去問を持って。

 色々準備をしてから母校へ向かったから14時半くらいだったんだよ。校舎全体の雰囲気が少し騒がしい感じがするから、ちょうど休み時間に当たったのかな。
 今、校舎の中に入ると注目の的になるのと、穂高先生みたいにわたしと愛さんを結び付けてしまう人がいたら、愛さんに迷惑が掛かってしまうかもしれないからと、休み時間が終わるまでの10分程、校舎の外周を一回りさせてもらう事にするんだよ。

 私が卒業してから三年半、愛さんがこの学校に入学してから今日までの間、一度も敷地内に足を踏み入れてない。それでも在学中は本当にお世話になったからと、穂高先生の連絡先だけは聞いて、時々交流だけは続けてたんだよ。
 その先生とも会う事自体は卒業して以来になる。だけど今日は郷愁に酔っている場合じゃない。愛さんの事なら手段を選ぶ事なく、全ての事を穂高先生から聞かないと駄目なんだよ。
 その愛さんはお友達と一緒に笑いたいのに、今日も家で大人しくしてる。こんなのをわたしが黙って認めるはずがないんだよ。
 わたしが校舎の外周を回ってる間に休み時間が終わったのか、人いきれの残滓漂う校舎の中、静寂が支配を始める。
 ついでなら稀に愛さんの口から出て来る園芸部の様子も見ようと、外周を一回りしたにもかかわらず、そのほとんどがブロック塀で囲まれてたから思った以上に学校内の様子は分からなかったんだよ。
 わたしは若干の不満を持ちながら、外来玄関口で守衛さんに声を掛けて、受付で名前と連絡先、簡単な身分証――学生証を提示して、校舎内へと足を踏み入れる。

 授業中で誰も通らない、こけても痛くない様にリノリウムのような床じゃなくて緑色のラバーのような廊下。
 本当に変わってない。わたしは統括会が始まるまでの間、穂高先生からじっくりと話を聞こうと、この時間誰もいないはずの保健室へと足を運ぶことにするんだよ。


「……」
 そう思って保健室の前まで来たものの、ここだけはわたしが知ってる保健室とは似ても似つかないんだよ。しかも今は授業中のはずなのに、中から穂高先生が喋る声もするし。やっぱりわたしの心は弱いままなんだなって思いながら、保健室の扉をノックする。
 わたしの連絡を無かった事にするつもりだったのか、もう忘れてたのか先生が扉を開けて、わたしの姿を目に映した時の驚き様はすごかった。
 ただびっくりしたのわたしの方も同じなんだよ。もちろん中にいた憎い妹さんもわたしの姿を見て大きく口を開けてる。
「穂っちゃん……いくらなんでも生徒を盾にするなんて、卑怯だと思うんだよ」
 憎い妹さんの横にいる気の弱そうな女生徒まで巻き込んで。
「違うわよ! この子たちを盾にとか、私はそんな事考えてないっ!」
 わたしの普段着を上から下まで眺めた後、わたしに言い訳を立てて来るんだよ。
 ただわたしからしたら、愛さんの事さえしっかりと把握できれば、周りはどっちでも良いし、憎い妹さんを盾にするなら、合わせて穂高先生の秘密を教えちゃうんだよ。
「ちょっとそこの魔女。わたしに何の挨拶も無いっていい度胸じゃない」
「とっても憎い妹さんも久しぶりなんだよ」
 二人きりで少しだけお話をした空木くんの憎い妹さん。髪こそは同じだけど、その制服の着用に至ってはまるで別人みたいなんだよ。
 ただ、その制服の着用も気になるんだけど、あの時の大っ嫌いな雪野さんの話とか、空木くんの不貞の話なんかを思い出すと、何の理由もなしに今の着用は無いと思うんだよ……わたしは憎い妹さんを〖行動単位〗で見るように意識をしながら、話を続けるんだよ。
 本当だったらこんなにも貞操観の低そうな人は、愛さんの情操に良くなさそうだから近づいて欲しくないのだけど、この憎い妹さんを叩いて注意もされたし、二人の間に何かの関係もあるんだからとノドから、出してはいけない言葉を寸前で飲み込む。
「何か優珠ちゃんの対応も失礼な気がするんやけど、知り合いの人?」
 と、大人しそうな女の子が憎い妹さんの事を、慣れ親しんだ呼び方をするんだよ。
 つまりこの二人はしっかり仲が良いって事なんだよ。
「違うわよ。なんでわたしにこんな魔女の知り合いが――」
「――違わないんだよ。わたしとこの愛さんのお顔をぱんぱんに腫らせた憎い妹さんとは前に、一度ゆっくりお話をさせてもらってるんだよ」
 愛さんに悲しい思いをさせた上、魔法使いだって言ってくれた愛さんの言葉までも否定しようとするから、早速お灸を据える事にするんだよ。
「ちょっと優珠ちゃん! 恩人である岡本先輩の頬をぱんぱんにって……岡本先輩に何したんや? ウチそんな話聞いてへんで!」
 すると大人しそうな女の子が突然憎い妹さんを叱り始める。
「そんなの初めの頃の話で、今では仲良くしてるじゃない」
「初めの頃って……まさかお兄さん盗られんのが嫌やから言うて、初対面で手出したん違うやろな」
「初対面でって……喧嘩に初対面も何もないじゃない」
 わたしに対して柄の悪い目つきを送りながら、気の弱そうな女の子に言い訳を立てる憎い妹さん。いい気味なんだよ。
 それにしてもお兄ちゃんを盗られるのが嫌だからか。そのお兄ちゃんの前でのあの格好……さらには愛さんに手を出した事は、愛さんも口になかなかしてくれなかった、その行動を切り取ると、二人だけの秘密だったって事なのかな。
「分かったわ。優珠ちゃんがウチとの約束を守ってくれへんのやったら、もう知らん――何か優珠ちゃんが、ウチの知らんところで、岡本先輩に酷い事しとったみたいで、ホンマにすいませんでした。ところで綺麗なお姉さんは岡本先輩のお姉さんなんですか?」
 お姉さん……その響きが思った以上に耳心地が良くて思わず首を縦に振ってしまう所だったんだよ。
「わたしは愛さんのお姉さんではないけど、お互いの家に行き来するくらいにはとっても仲が良いんだよ。それにわたしは愛さんの一番の理解者なんだよ」
 とは言っても愛さんの家にお邪魔したのは一昨日が初めてだったけど。それでも愛さんの一番の理解者って言うのは、間違ってないはずなんだよ。
「岡本先輩とめっちゃ仲ええんやったら分かってくれはると思いますけど、岡本先輩とウチの優珠ちゃん、喧嘩する程仲がええ言うのを地で行くくらいごっつ仲ええんですよ。だからこの話はここでお終いって言う訳にはいきませんやろか」
 まあ、信頼「関係」が出来上がってるのは分かるから、ここは大人しく引いておくことにするんだよ。それに愛さんに叱られるのはもっと嫌だし。
「分かったんだよ。じゃあその憎い妹さんもよろしくお願いするんだよ」
「分かりました。優珠ちゃんにはもう一回キツうゆうときますんで、ありがとうございます。ホンマええ人で助かりました――ところで先生に用事があったんでしたら、ウチら席外しますけど」
 気の弱そうな子ではあるけど、ハッキリ喋るし気遣いも出来る優しい子なのかもしれないんだよ。つまりこんなに仲が良いって事は……あの日曜日に見た憎い妹さんの方が本来の姿かもしれないんだよ。
 だったら愛さんに近づいても許すんだよ。
「そうね。先生も少し話したい事があるから二人には――」
「――遠慮しなくて大丈夫なんだよ。むしろ憎い妹さんには一緒に立ち会って欲しいくらいなんだよ」
 盾にしたにもかかわらず、その子の気遣いに便乗する形で今度は人払いをしようとするから、今度は止めさせてもらうんだよ。自分勝手な穂高先生はとっても嫌そうな顔をするけど、愛さんを傷つけたこの先生だけは許さないんだよ。
「……佳奈。この魔女が良いってゆってるんだからわたしたちも聞かせてもらうわよ」
 少しだけ雰囲気を変えた憎い妹さんが、居直ってくれる。


「じゃあ先生に改めてお伺いしますけど、愛さん

何があったのか教えて下さい」
「……」
 わたしは入り口に近い椅子に腰掛けさせてもらって、穂高先生を目の前に据える。
「何があったも何も、岡本さんの親友だって言う防さん――」
「――先生。わたしには愛さんが他人のために自分を犠牲に出来てしまう事くらいは分かってるんだよ。それから今、愛さんが受けた暴力を親友さんのせいにしようとした事は、ちゃんと愛さんに伝えるんだよ……それから後一回なんだよ」
 わたしが卒業してから早三年以上。それでもこの学校で変わらず養護教諭を続けているにも拘らず、この不器用な言い方だけは変わってない。
「……岡本さんが中々相談してくれなくて、私からも聞くように――」
「――ちょっと待って先生。なに自分の都合の良いように話を作り替えようとしてるのよ。愛美先輩が初学期最後の日に相談に来たのに、大人だとか子供だとかゆって理由を求めてあしらったのは先生の方じゃない」
 驚いた事に憎い妹さんが加勢してくれるんだよ。だったら事、愛さんの話なんだから今日と言う今日は容赦しないんだよ。
「わたしも愛さんから “相談に乗ってもらえない。軟禁された。知ってる事を匂わせるだけで何も教えてくれない。親友の事なのに、私だけが知らない” って本当に辛そうだったんだよ」
「……岡本先輩……」
 あの時の辛そうな愛さんの声と、表情が中々忘れられなくて一度穂高先生に電話もしたはずなのに。
「わたしは愛さんに、穂っちゃんを紹介した事を謝ったんだよ……あの時は、今の先生と同じで本当に最低だったんだよ。それから次はもうないんだよ」
 愛さんの前では一度たりとも見せてはいない、これからも絶対に愛さんには見せないわたしの本来の姿。
 わたしの姿と言葉に声自体が無くなる内装の変わった保健室内。
「この後、役員室にも行くから早く説明して欲しいんだよ」
 わたしの言葉に驚く三人。こんなにも悲しい事が学校単位であって、臨時の統括会がないわけ無いんだよ。
「……私が岡本さんの相談に適時乗らなかったから、防さんを含め、取り返しのつかない事になったのよ」
「どうして? わたしも電話して、愛さんにも紹介したのに、どうして大人が子供(児童福祉法)を守ってくれなかったの? あの愛さんが穂っちゃんの名前も知らなかった時に、信用しようとして自分の大切な人の事を、打ち明けようとしてたんだよ? これがどれ程しんどい事なのか分からないの?」
 わたしは毎回毎回愛さんに喋ってもらうために、あの手この手を使ってるのに、大人の上にあぐらをかいてた先生は、簡単に信用して貰えて。それなのにこの先生は愛さんの振り絞った勇気と心を蔑ろにして。あの時、わたしの中にどれ程の衝撃と嫉妬が織り交じったか。
 それでも愛さんの力になれるならって、学校の中で頼れる人を一人でも良いから見つけて欲しくて応援してたのに。
「涙したいのは先生じゃなくて、愛さんなんだよ」
「……じゃあどう聞いたら、いつも私の事を欠片も信用しようとすらしない岡本さんは答えてくれたのよ」
「分かった。先生が他の大人と同じクズだったって事ね。だったら今からわたしも先生との付き合い方を変えるから」
「他の大人と同じってどう言う事? 愛さんにまだ何かあるの?」
 憎い妹さんに愛さんの事を聞くのは不本意なんだけど、背に腹は代えられない。
「……まだってゆう程でも無いけど、愛美先輩が何かをゆおうとする度に、理由は理由はってこのクズはゆうのよ。そこがのっぴきならないから、頼らざるを得ないってゆう事がこのクズ女には分かってないのよ」
 わたしは目から涙がこぼれない様に天井を仰ぎ見る。
 どうして先生まで愛さんを追い詰めたのかな……どうしてこんな先生をわたしは紹介してしまったのかな……。

「……先生。改正児童福祉法の総則部分を声に出して言って下さい」

「先生。ウチからも聞きたいです。ウチらを身の危険から救ってくれたんも、園芸部を救ってくれたんも岡本先輩です。やのに岡本先輩に対する態度はあんまりと違いますか? ウチらの事を思ってくれるんは嬉しいんですけど、岡本先輩の事は何でそんな態度ばっかなんですか? あまりにも酷ないですか?」
「佳奈……」
 気の弱そうな子が目を真っ赤にしてくれてる。やっぱりこの憎い妹さんは愛さんが“とっても可愛い後輩”って言うくらいには良い子なんだと、その〖一行動〗ごとを見て確信する。

「……全て児童は、児童の権利に関する条約の精神にのつとり、適切に養育されること、その生活を保障されること、愛され、保護されること、その心身の健やかな成長及び発達並びにその自立が図られることその他の福祉を等しく保障される権利を有する。」

 その穂高先生が、声を震わせながら空を見て読み上げてくれるけど、本当に今日のわたしは容赦する気なんて無いんだよ。
 こんなの愛さんに辛い気持ちに比べたら、本当に何でもない事なんだよ。
「先生。それじゃ不完全です。今言ってもらったのはどの条文で何項なんですか? 分からないので条・項も合わせて言って下さい」

「一条。全て児童は、児童の権利に関する条約の精神にのつとり、適切に養育されること、その生活を保障されること、愛され、保護されること、その心身の健やかな成長及び発達並びにその自立が図られることその他の福祉を等しく保障される権利を有する。」

 その先生から初めて受ける敵意のこもった瞳。だけど今更こんなの慣れっこなわたしには、何とも思わないんだよ。
「先生。何をふざけてるんだよ。総則部分はそれだけじゃないはずなんだよ」
 愛さんが辛く悲しかった時に追い打ちをかけた先生。徹底的に追い詰めるんだよ。

「……第二条 国及び地方公共団体は、児童の保護者とともに、児童を心身ともに
       健やかに育成する責任を負う。
   第三条 前二条に規定するところは、児童の福祉を保障するための原理であ
       り、この原理は、すべて児童に関する法令の施行にあたつて、常に
       尊重されなければ――」

「――先生がわたしの相手も、そんなに適当するんだったらわたしも先生の事を好き勝手するんだよ」
 わたしが卒業してから、この先生も変わってしまったのかなって心が冷え固まる。
「どうして? 私おかしな事言ってる?! ちゃんと船倉さんの言う通り言ってるじゃないっ!」
 わたしが無理なお願いをしても、わたしに対して敵意を向ける事なんて無かったはずなのに。これだから人に接するのは怖いんだよ。変わる事なんて無いって分かっても、人は在りし日にしがみついてしまうんだよ。
「……改正前と改正後の話ね」
 しかも先生よりも、この妹さんの方が早くわたしの指摘に気付くんだよ。本当にこの憎い妹さんも何者なんだよ。

「……一条   全て児童は、児童の権利に関する条約の精神にのつとり、適切に養
        育されること、その生活を保障されること、愛され、保護されるこ
        と、その心身の健やかな成長及び発達並びにその自立が図られるこ
        とその他の福祉を等しく保障される権利を有する。
   二条①項。全て国民は、児童が良好な環境において生まれ、かつ、社会のあら
        ゆる分野において、児童の年齢及び発達の程度に応じて、その意見
        が尊重され、その最善の利益が優先して考慮され、心身ともに健や
        かに育成されるよう努めなければならない。
   二条②項。児童の保護者は、児童を心身ともに健やかに育成することについて
        第一義的責任を負う。
   二条③項。国及び地方公共団体は、児童の保護者とともに、児童を心身ともに
        健やかに育成する責任を負う。
   三条   前二条に規定するところは、児童の福祉を保障するための原理であ
        り、この原理は、すべて児童に関する法令の施行にあたつて、常に
        尊重されなければならない。」
 
「養護教諭の先生なら知ってて当たり前ですよね。なのにさっきは旧法令でごまかそうとしたんだから、わたしは愛さんを傷つけた事をこれっぽっちも反省してない先生を許すつもりは無いんだよ」
「……そうゆうやり方もあるのね。この魔女もすごいわね」
 改正条文で合っている事、おかしな事が無い事を確認したわたしは、今日一つ目の本題、最後の質問へと移る。

「じゃあ先生。改正児童福祉法<総則>部分に係る、一条にある“適切に養育されること、その生活を保障されること、愛され、保護されること”、二条①項にある“児童の年齢及び発達の程度に応じて、その意見が尊重され、その最善の利益が優先して考慮され、心身ともに健やかに育成される”、二条③項にある“国及び地方公共団体は、児童の保護者と

、児童を心身ともに健やかに育成する

”、第三条“この原理は、すべて児童に関する法令の施行にあたつて、常に尊重されなければならない。”これらの総則部分にある、《愛され保護される事、その意見が尊重される事、利益が優先される事、心身共に健やかに育成する

、全ての児童に関する法令よりも常に尊重されてた》って言い切れますか? 愛さんのあの痛々しいお顔を見て……私立学校法、学校教育法など、その責任を謳う部分に関しても含めて、愛さんに履行してくれたって言い切れますか?」

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