幕間講義 1 改正児童福祉法 及び 児童の権利条約 (前)
文字数 7,467文字
改正児童福祉法 <総則> 第一条~第三条その1 ※副題「ジュネーブ宣言」
議題
第一条 全て児童は、“児童の権利に関する条約”の精神にのつとり、適切に養育されること、
その生活を保障されること、愛され、保護されること、その心身の健やかな成長及び
発達並びにその自立が図られることその他の福祉を等しく保障される権利を有する。
第二条 全て国民は、児童が良好な環境において生まれ、かつ、社会のあらゆる分野において、
児童の年齢及び発達の程度に応じて、その意見が尊重され、その最善の利益が優先して
考慮され、心身ともに健やかに育成されるよう努めなければならない。
② 児童の保護者は、児童を心身ともに健やかに育成することについて第一義的責任を
負う。
③ 国及び地方公共団体は、児童の保護者とともに、児童を心身ともに健やかに育成する
責任を負う。
第三条 前二条に規定するところは、児童の福祉を保障するための原理であり、この原理は、
すべて児童に関する法令の施行にあたつて、常に尊重されなければならない。
朱寿:皆さんお久しぶりなんだよ
優珠:(……何が久しぶりよ。あんな思わせぶりなタイトルにしておいて)
愛美:今回から朱先輩はそっちなんで――
倉本:――お姉さん! 待ってました! 会いたか――あ痛っ
直実:ちょっと落ち着こうぜ。そこの会長とやら
朱寿:ナオくんっ!
佳奈:優珠ちゃんの晴れ舞台なんやから、しっかりな!
蒼依:じゃあ私は愛ちゃんの隣に失礼するね
愛美:うん。これからもよろしくね。断金の蒼ちゃんっ
中条:やっぱり友達って言うのはこうでないと
彩風:中条さんが相変わらず……
朱寿:ナオくんがヤキモチ焼てくれたのに……
(……何でこんな気持ちになるのかな)
優珠:(何やってるのよお兄ちゃん! あの女の隣が残り一つじゃない)
実祝:せっかく愛美と喋ってもらえるようになったから、あたしが隣に座る
咲夜:慶久君! あたしの隣なんてどう?
雪野:あれだけの現場を見せられて、まだ殿方を求めるんですか? アホな先輩は
蒼依:咲ちゃんはやっぱり反省してないよね
慶久:それって! もしや蒼依さんは嫉妬してくれてるんですか?!
愛美:恥ずかしいから変な勘違いはすんなっての! 蒼ちゃんは慶は対象外って今まで何回も
言ってるじゃない
倉本:……俺なんてどうかな? 岡本さん
優希:おい倉本! お前しつこいぞ! 愛美さんは僕の彼女だ
彩風:副会長! この唐変木にもっと言ってやってください!
中条:彩風。彩風の場合はまた別次元の話だからな
優珠:……ねぇ魔女。このままだと話が進まなそうなんだけど
朱寿:空木くんが頑張ってるんだから。あと少しだけ待つんだよ
彩風:あのぅ。ダイニングキッチンを教卓代わりにしたお二人が待っている気がするんですけど
雪野:そうですね。空木先輩が岡本先輩相手に頑張るのはおかしいので、さっさと始めて下さい
咲夜:すげぇ。あれだけ色々あってもぶれないこの後輩
佳奈:あのー先輩? ウチは先輩がどうしたいのかが全然わからんのですけど。副会長と
お近づきになりたいんですか?
実祝:違う。ただ恋愛に口を出したいだけ。でなかったら前回愛美の弟に期待した整合が取れ
ない
慶久:悪いが、俺は蒼依さん一筋なんだぜ(……決まった)
蒼依:蒼依は前回慶久君が、咲ちゃんでも良いって言ってたのは忘れてないよ
中条:先輩。悪い事は言いません。いくら愛先輩の弟とは言え、男には変わりないんです。
最後に泣きを見るのは絶対先輩になりますよ
直実:男だからって一括りにするのは感心しないな……朱寿 みたいな笑顔を出せる男も
いるぞ?
愛美:なんか……おっきい……
男性:?!?!
優珠:早く始めるわよ
朱寿:そうなんだよ。そして早く終わらせるんだよ
慶久:……この女も分かり易すぎじゃね?
雪野:よしっ! 岡本先輩の気が逸れた!
彩風:だから! 声漏れてるってば!
優希:優珠! 早く始めて!
佳奈:お兄さんはホンマに岡本先輩が好きなんやな。お兄さんの必死な姿、始めて見た
愛美:……ごめんね優希君。ただ少し驚いただけだよ。優希君の気遣いはいつもすごく嬉しい
んだよ?
実祝:咲夜。鼻息
咲夜:だって……だってっ
蒼依:咲ちゃん。鼻血汚いから、こっち来ないでね
朱寿:それで今回の議題なんだけど
優珠:一番初めに再度表記した内容ね
朱寿:そうなんだよ。そしてわたしがあの穂っちゃんに謳わせた内容なんだよ
佳奈:それってウチも家帰ってから調べたんやけど、第三条って、その2とかその3とかあん
のに、何で初めの一文だけなん?
実祝:それは<総則>とは違う。責務の話になるから。別の話
愛美:実祝さん物知りだねっ! そんな事も知ってたんだ
実祝:ん。伊達に本を読んでない
優珠:(何よ……わたしに聞いてくれたら何でも答えるのに)
朱寿:さすが愛さんのお友達なんだよ。そしてこの総則部分が、この児童福祉法の本筋・大原則
なんだよ
(ふふん! これなら憎い妹さんも付いて来れないんだよ)
雪野:それならワタシからも一つ疑問なんですが一番初めにある、
“児童の権利に関する条約の精神”って何です?
何で国内の法律の話なのに、条約なんて言葉があるんです?
条約って事は国際条約の話ですよね
咲夜:(やっべぇ?! 何で条約だけで国際って分かるかが既にわっかんねぇ?!)
優珠:そうよ! 児童の権利に関する条約ってゆうのは、1990年に
『児童の権利条約』の事よ。
直実:ちなみに、この『児童の権利条約』の大元になったのは、何か知ってるか?
朱寿:なんだろう?
優珠:えっと……たしか……児童の権利……一次大戦……そう! 確かジュネーブ宣言。
だったかしらね
朱寿:(?! 何でこんな事まで知ってるんだよ?!)
直実:そう。正解。ちなみにこの一番初めに児童の権利について謳った宣言……
1924年に出されたジュネーブ宣言には、たった5項目しかなかったんだ
雪野:たったの5項目しかなかったんですか?
彩風:そんなのでアタシたちを守れたんですか?
実祝:でも、当時全く無かった法律・条約の中で出来た意義はものすごく大きい
巻本:そうだな。それに当時は技術もそれほど進んでなかったから、飢えや飢饉なんてのも
世界中であった話なんだ
直実:そう。だからジュネーブ宣言が出された時に出来た2項目目の初段、
飢えた児童は食物を与えられなければならない。病気の児童は看病されなければならない。
直実:この一文が盛り込まれたのは、当時としては画期的だったんだ
雪野:確かに昔は干ばつなど、天候や災害において食料自給率が変わってたんですよね
実祝:ん。授業で何回も出て来てた……授業がこんなところで役に立つのは意外
咲夜:(……何で? 何で授業を聞いてたら話が出来るの?)
朱寿:(日本の法律は分かるけど、海外とか昔なんて門外なんだよ……)
優珠:それから大体35年後くらい……1959年に『児童の権利に関する宣言』つまり
『児童の権利条約』の原型が出来たのよね
直実:よく勉強してるね。そう。それから更に30年ほど経ってから、
『 児童の権利に関する条約(児童の権利条約)』が出来たんだ
優珠:この
直実:本当によく勉強してるな。そしてこの時に、人種や宗教によって差別される
事が無いようにとの文言も、同宣言第1条と第10条に加えられて保護・守るべき児童の
範囲が広く、明確になったんだ
朱寿:(お……おかしいんだよ! この憎い妹さん、年齢詐称なんだよ!!)
巻本:そしてこれは国連総会にて採択されてるんだ
倉本:この辺りからは俺も分かるようになるけど、この宣言の前文なんだが、
実はこれで一文だから、前段も後段もないからな。
一応その原文ママを資料として後編の最下段に表記しておくな。
咲夜:え? こんなに長いのにこれで一文なの? 読みにくくない?
実祝:目で追えば普通に読める。咲夜はもっと本を読むべき
咲夜:……
優珠:この条約は『国際人権規約』の中の“児童”の部分に焦点を当てたもので、国際的にも
18歳未満を児童と定めて、児童の最善の利益を確保・考慮する事を定め、謳った条約
なのよ。日本は1994年に確認手続き(批准 )したから、それに準ずる
形で18歳未満を“児童”と定義したのよ。
直実:……ちなみにこの『子どもの権利に関する条約(児童の権利条約)』だけど
難関進学先の入試なら出るかもしれないから聞くけど、どこの国が草案を出したのか
知ってるか?
優珠:もちろんよ。確か1979年のポーランドよ。草案の名前まではさすがに憶えてないけど
直実:惜しい! それは国連で採択された年だな。実際ポーランドから提出された
草案は1978年でその時の草案名は「国際児童年 」って言うんだ
蒼依:ちなみにこの年は作者の生まれた年だから、知ってたんだって
雪野:それ言って、個人情報は大丈夫なんですか?
彩風:冬ちゃん違う! 突っ込む場所違う! 蒼先輩はどこからその情報を仕入れ
たんですか?!
蒼依:……愛ちゃんの言う事聞かない彩ちゃんには言わないよ
実祝:さすがは断金へと至った愛美の親友。情報の出処が固い
優珠:……そうなのね。覚え直しておくわ。ありがとう
(どうしてお兄ちゃんも愛美先輩もお互いの誕生日を聞かないのよ)
佳奈:(……またなんや優珠ちゃんが考えとるなぁ)
直実:これは非常に出題しやすい引っ掛け問題にもなるから、気を付けてな
優希:さすがは優珠。それでも十分すごかったよ
直実:それからもう一つ念のため。18歳未満と言うのは初期の児童福祉法(昭和22
年制定:第百六十四号)でも明確に表記はあったよ
優珠:そうなのね……ありがとうございます。わたしもまだまだ勉強不足ね
朱寿:(……これで勉強不足とか、嫌味にも程があるんだよ)
直実:余談として、そのきっかけと前身になったのは、『児童の権利に関する宣言』
はもちろん、さっき少しだけ触れた、1966年の『国際人権規約』からも脈々
とその想いが受け継がれてるんだ
愛美:つまり私たち子どもを守るって気持ちは、かなり昔から、ジュネーブ宣言・
国際人権の両方からの意志や想いが受け継がれてるって事ですか?
直実:そう言う事。だから朱寿 は、養護教諭に本気で怒ったんだ。
こう言う朱寿 が俺は好きなんだ
女性:?!?!
朱寿:ナオくんっ!
巻本:なんか俺……男としても教師としても自信が……
咲夜:大丈夫です! あたしも全然分かってませんし、女としてなんて、女学生くらいしか
武器はありませんっ!
結芽 :(武器って……バカにつける薬は無しじゃん!)
愛美:優珠希ちゃんって、まだ2年なのにすごく博識なんだね。さすがにびっくりした。
しかもナオさんも朱先輩と同じように物知りなんですね
実祝:その知識はあたし以上。驚き
佳奈:優珠ちゃんは頭ええもんなっ!
優珠:そんな事あるわよ。だってわたしが法学部の過去問を解き荒らしてるのは作者がちゃんと
表記してるじゃない……60話で
佳奈:って! そんな事あるんかいな!
朱寿:(さ! 作者が原因?!)
咲夜:あたしも、表現だけで良いから作者に書いて欲しかったな
実祝:咲夜。それをハリボテと言う
蒼依:夕摘さん……グッジョブ!
咲夜:?!
直実:だから今後は、この対話の内容を、頭のほんの片隅に置きながら読んでもらって、
ここのみんなにも動いてもらえると、みんなの想い、受け継がれた気持ち、願いを汲み
取れるんじゃないかな
朱寿:そうなんだよ。だから劇中でも言ってたように、愛さんが悪いわけじゃない。
その想いを守ろうと、尊重しようと100年以上前から色んな人が想いのバトンを繋いで
るんだよ
倉本:そうだな。だから俺たちも昔の人達に顔向けできるように、受け取った想いを【未来へ】
託せるようにはしたいな
直実:そうだな
咲夜:あの……批准……だっけ。そんな難しい言葉を使わなくても、確認とか加入とかでも
良いじゃん……
彩風:この先輩。国際条約には特別なルールがあるの知らないのでしょうか
巻本:月森……お前。受験大丈夫か?
蒼依:咲ちゃんは悪だくみばっかりしてるからそうなるんだよ
咲夜:……
朱寿:そ……それで! この条文は全部で54条あって。この条約を破棄(脱退)
するには書面で通知してから1年後(児童の権利条約:第52条による)
なんだよ
優珠:……まあ。この国の改正児童福祉法には関係ないけど
朱寿:(く……悔しいんだよ~!)
慶久:あの。一つ聞いて良いですか? そこのスカートの短いすごくエロいお姉さん
優珠:あ゛?! おいそこのエロガキ! 今何つった?
優希:優珠?! 愛美さんの弟だから抑えて!
愛美:ごめんね優希君。私の弟が――慶? 次そんな言い方したら、金輪際ご飯作んないから
蒼依:慶久君。そう言う言い方は良くないよ。それにそう言うエッチな目で女の子を見たら
失礼だよ
実祝:……愛美の弟とは思えない……
朱寿:慶久くん。お姉さんのお友達にそんな言い方して良かったんですか?
慶久:?! い。いえ! 俺が間違ってました! そこのお姉さん。すみませんでした!
蒼依:(?! 何? どうなってるの?)
朱寿:分かって貰えれば良いんです。それで何を聞きたいんですか?
(ふふん! 愛さんの一番の理解者はわたしなんだよ)
慶久:はい。第二条の所に、②・③って打ってあるのは何て読むんですか?
朱寿:その数字は――
優珠:――項 よ。上記の保護者の児童は~ の部分は
〖改正児童福祉法第二条第② 項〗って読むのよ。
ちなみに“項”の部分はアラビア……算用数字で表すのよ。分かる? 数学の
授業なんかで出て来るあの数字ね。
佳奈:こういう時、優珠ちゃんの説明って分かり易いな
愛美:ありがとう優珠希ちゃんっ。とっても分かり易いよ
優珠:あ。当たり前じゃない! わたしを誰だと思ってるのよ
中条:あんまり理解出来てないけど、ストレスを感じないから別に良いか
彩風:中条さんが相変わらず振り切ってるけど、児童の権利条約以外なら、アタシも知って
ますから。
朱寿:(あ……愛さんの羨望がっ)
直実:朱寿 。分かりやすいよ。がんばれ!
咲夜:なんだか分かんないけど、素敵……
巻本:……お。俺は数学担当だからなっ!
実祝:先生。言い訳。みっともない。
倉本:補足しとくなら、この“条文”とか“項”だが、基本は1文から3文で収められて、2文なら
“前段”とか“後段”と言ったように段落分けをするけど、昔の法律にはこの“項”が無かった
ため、該当文章を探すのに苦労したそうだ
彩風:さすが清くん! 物知りだね
倉本:自分の会社のルールとか網羅するのにこれくらいはな
咲夜:じ、自分の会社?!
佳奈:現金な先輩やなぁ
雪野:別に空木先輩相手じゃないので、良いんじゃないですか?
中条:雪野ってホントにぶれないな
朱寿:?! ち、ちなみに! この原理は、すべて児童に~の後の部分は、この法律が子供に
関する法律で一番上位に来るって意味なんだよ
慶久:え! 法律に上下関係があるんですか?
愛美:(すごい……あの慶がきっちり敬語使ってる?!)
朱寿:そうなんだよ。たくさんあるからほとんど割愛するけど、このお話に関係の
ある【学校教育法】【私立学校法】もこの児童福祉法に関係するんだよ。
慶久:じゃあ俺はもう大人だって、法律で決めようとしても駄目だって事ですか?
朱寿:そうなんだよ。第一慶久くんはまだ18歳にもなってないから、児童扱いだし、法律
どころか条約にも書いてあるから決められないんだよ。
ちなみに『児童の権利条約』の第1部第1条に書いてある文章が、えっと……
これなんだよ
この条約の適用上、児童とは、18歳未満のすべての者をいう。ただし、当該児童で、その者に適用される法律によりより早く成年に達したものを除く。
彩風:あれ? でもこの“後段”に書いてある文章だと、18歳以下でも成年と認められ
たりするって事?
倉本:霧華。確かに二文には別れてるけど、ただし~って書いてあるから、“後段”
じゃなくて、“ただし書”な。
愛美:倉本君も色んな事知っているよね
倉本:まあな。これくらいなら知ってるぞ? だから岡本さんが望むなら、週末を使って、
いくらでも講義や教えるくらいはするぞ? なんなら俺の会社を見学してもらっても
良いし
彩風:俺のって……清くんのお父さんの会社で、清くんの会社じゃないよね
咲夜:……玉の輿……
中条:はい会長は退場っ!
愛美:すごいのは分かったけれど……ごめんね倉本君。私じゃなくて別の女の子を誘って
あげてね
巻本:そうだ。男は金じゃないんだ。熱いハートなんだ!
愛美:先生っていつも一生懸命ですもんね。だから私は先生を応援したくなるんですよ
蒼依:……咲ちゃん?
咲夜:ひゃい! 何でもございません!
優希:?!
優珠:そうよっ!『児童の権利条約』の三十条にあるのだけど、
宗教的な思想・少数民族や原住民などの児童は、その集団や他の構成員(他の大人)と
共に、自己の文化を享有し、自己の宗教を信仰しかつ実践しってゆう文言があるの。
朱寿:(何で?! 何でわたしが知らない条約をここまで網羅してるの?! ここはわたしが
愛さんから一人称賛を独占するはずだったのにっ!)
佳奈:やっぱり、優珠ちゃんもお姉さんも荒れとるなぁ……いやお兄さんもかいな?
直実:つまり信仰の自由、宗教・思想の自由だけは保証されてるって事なんだけど、この条約に
おけば良い
彩風:そうなんですね。ありがとうございます。
佳奈:優珠ちゃんも、めっちゃ分かり易かったで!
愛美:ありがとう優珠希ちゃん
蒼依:……分かり易かったよね。愛ちゃんっ!
愛美:うんっ
雪野:さすが二枚舌の親友なだけはあります。黒いモノを感じました。
実祝:この二年も愛美の弟同様失礼……
―――――――――――――――――後編へ続く――――――――――――――――
議題
第一条 全て児童は、“児童の権利に関する条約”の精神にのつとり、適切に養育されること、
その生活を保障されること、愛され、保護されること、その心身の健やかな成長及び
発達並びにその自立が図られることその他の福祉を等しく保障される権利を有する。
第二条 全て国民は、児童が良好な環境において生まれ、かつ、社会のあらゆる分野において、
児童の年齢及び発達の程度に応じて、その意見が尊重され、その最善の利益が優先して
考慮され、心身ともに健やかに育成されるよう努めなければならない。
② 児童の保護者は、児童を心身ともに健やかに育成することについて第一義的責任を
負う。
③ 国及び地方公共団体は、児童の保護者とともに、児童を心身ともに健やかに育成する
責任を負う。
第三条 前二条に規定するところは、児童の福祉を保障するための原理であり、この原理は、
すべて児童に関する法令の施行にあたつて、常に尊重されなければならない。
朱寿:皆さんお久しぶりなんだよ
優珠:(……何が久しぶりよ。あんな思わせぶりなタイトルにしておいて)
愛美:今回から朱先輩はそっちなんで――
倉本:――お姉さん! 待ってました! 会いたか――あ痛っ
直実:ちょっと落ち着こうぜ。そこの会長とやら
朱寿:ナオくんっ!
佳奈:優珠ちゃんの晴れ舞台なんやから、しっかりな!
蒼依:じゃあ私は愛ちゃんの隣に失礼するね
愛美:うん。これからもよろしくね。断金の蒼ちゃんっ
中条:やっぱり友達って言うのはこうでないと
彩風:中条さんが相変わらず……
朱寿:ナオくんがヤキモチ焼てくれたのに……
(……何でこんな気持ちになるのかな)
優珠:(何やってるのよお兄ちゃん! あの女の隣が残り一つじゃない)
実祝:せっかく愛美と喋ってもらえるようになったから、あたしが隣に座る
咲夜:慶久君! あたしの隣なんてどう?
雪野:あれだけの現場を見せられて、まだ殿方を求めるんですか? アホな先輩は
蒼依:咲ちゃんはやっぱり反省してないよね
慶久:それって! もしや蒼依さんは嫉妬してくれてるんですか?!
愛美:恥ずかしいから変な勘違いはすんなっての! 蒼ちゃんは慶は対象外って今まで何回も
言ってるじゃない
倉本:……俺なんてどうかな? 岡本さん
優希:おい倉本! お前しつこいぞ! 愛美さんは僕の彼女だ
彩風:副会長! この唐変木にもっと言ってやってください!
中条:彩風。彩風の場合はまた別次元の話だからな
優珠:……ねぇ魔女。このままだと話が進まなそうなんだけど
朱寿:空木くんが頑張ってるんだから。あと少しだけ待つんだよ
彩風:あのぅ。ダイニングキッチンを教卓代わりにしたお二人が待っている気がするんですけど
雪野:そうですね。空木先輩が岡本先輩相手に頑張るのはおかしいので、さっさと始めて下さい
咲夜:すげぇ。あれだけ色々あってもぶれないこの後輩
佳奈:あのー先輩? ウチは先輩がどうしたいのかが全然わからんのですけど。副会長と
お近づきになりたいんですか?
実祝:違う。ただ恋愛に口を出したいだけ。でなかったら前回愛美の弟に期待した整合が取れ
ない
慶久:悪いが、俺は蒼依さん一筋なんだぜ(……決まった)
蒼依:蒼依は前回慶久君が、咲ちゃんでも良いって言ってたのは忘れてないよ
中条:先輩。悪い事は言いません。いくら愛先輩の弟とは言え、男には変わりないんです。
最後に泣きを見るのは絶対先輩になりますよ
直実:男だからって一括りにするのは感心しないな……
いるぞ?
愛美:なんか……おっきい……
男性:?!?!
優珠:早く始めるわよ
朱寿:そうなんだよ。そして早く終わらせるんだよ
慶久:……この女も分かり易すぎじゃね?
雪野:よしっ! 岡本先輩の気が逸れた!
彩風:だから! 声漏れてるってば!
優希:優珠! 早く始めて!
佳奈:お兄さんはホンマに岡本先輩が好きなんやな。お兄さんの必死な姿、始めて見た
愛美:……ごめんね優希君。ただ少し驚いただけだよ。優希君の気遣いはいつもすごく嬉しい
んだよ?
実祝:咲夜。鼻息
咲夜:だって……だってっ
蒼依:咲ちゃん。鼻血汚いから、こっち来ないでね
朱寿:それで今回の議題なんだけど
優珠:一番初めに再度表記した内容ね
朱寿:そうなんだよ。そしてわたしがあの穂っちゃんに謳わせた内容なんだよ
佳奈:それってウチも家帰ってから調べたんやけど、第三条って、その2とかその3とかあん
のに、何で初めの一文だけなん?
実祝:それは<総則>とは違う。責務の話になるから。別の話
愛美:実祝さん物知りだねっ! そんな事も知ってたんだ
実祝:ん。伊達に本を読んでない
優珠:(何よ……わたしに聞いてくれたら何でも答えるのに)
朱寿:さすが愛さんのお友達なんだよ。そしてこの総則部分が、この児童福祉法の本筋・大原則
なんだよ
(ふふん! これなら憎い妹さんも付いて来れないんだよ)
雪野:それならワタシからも一つ疑問なんですが一番初めにある、
“児童の権利に関する条約の精神”って何です?
何で国内の法律の話なのに、条約なんて言葉があるんです?
条約って事は国際条約の話ですよね
咲夜:(やっべぇ?! 何で条約だけで国際って分かるかが既にわっかんねぇ?!)
優珠:そうよ! 児童の権利に関する条約ってゆうのは、1990年に
発効
した『児童の権利条約』の事よ。
直実:ちなみに、この『児童の権利条約』の大元になったのは、何か知ってるか?
朱寿:なんだろう?
優珠:えっと……たしか……児童の権利……一次大戦……そう! 確かジュネーブ宣言。
だったかしらね
朱寿:(?! 何でこんな事まで知ってるんだよ?!)
直実:そう。正解。ちなみにこの一番初めに児童の権利について謳った宣言……
1924年に出されたジュネーブ宣言には、たった5項目しかなかったんだ
雪野:たったの5項目しかなかったんですか?
彩風:そんなのでアタシたちを守れたんですか?
実祝:でも、当時全く無かった法律・条約の中で出来た意義はものすごく大きい
巻本:そうだな。それに当時は技術もそれほど進んでなかったから、飢えや飢饉なんてのも
世界中であった話なんだ
直実:そう。だからジュネーブ宣言が出された時に出来た2項目目の初段、
飢えた児童は食物を与えられなければならない。病気の児童は看病されなければならない。
直実:この一文が盛り込まれたのは、当時としては画期的だったんだ
雪野:確かに昔は干ばつなど、天候や災害において食料自給率が変わってたんですよね
実祝:ん。授業で何回も出て来てた……授業がこんなところで役に立つのは意外
咲夜:(……何で? 何で授業を聞いてたら話が出来るの?)
朱寿:(日本の法律は分かるけど、海外とか昔なんて門外なんだよ……)
優珠:それから大体35年後くらい……1959年に『児童の権利に関する宣言』つまり
『児童の権利条約』の原型が出来たのよね
直実:よく勉強してるね。そう。それから更に30年ほど経ってから、
『 児童の権利に関する条約(児童の権利条約)』が出来たんだ
優珠:この
原型の時
には5項目から10項目に大幅に増えて、“項”まで付いたのよね直実:本当によく勉強してるな。そしてこの時に、人種や宗教によって差別される
事が無いようにとの文言も、同宣言第1条と第10条に加えられて保護・守るべき児童の
範囲が広く、明確になったんだ
朱寿:(お……おかしいんだよ! この憎い妹さん、年齢詐称なんだよ!!)
巻本:そしてこれは国連総会にて採択されてるんだ
倉本:この辺りからは俺も分かるようになるけど、この宣言の前文なんだが、
実はこれで一文だから、前段も後段もないからな。
一応その原文ママを資料として後編の最下段に表記しておくな。
咲夜:え? こんなに長いのにこれで一文なの? 読みにくくない?
実祝:目で追えば普通に読める。咲夜はもっと本を読むべき
咲夜:……
優珠:この条約は『国際人権規約』の中の“児童”の部分に焦点を当てたもので、国際的にも
18歳未満を児童と定めて、児童の最善の利益を確保・考慮する事を定め、謳った条約
なのよ。日本は1994年に確認手続き(
形で18歳未満を“児童”と定義したのよ。
直実:……ちなみにこの『子どもの権利に関する条約(児童の権利条約)』だけど
難関進学先の入試なら出るかもしれないから聞くけど、どこの国が草案を出したのか
知ってるか?
優珠:もちろんよ。確か1979年のポーランドよ。草案の名前まではさすがに憶えてないけど
直実:惜しい! それは国連で採択された年だな。実際ポーランドから提出された
草案は1978年でその時の草案名は「
蒼依:ちなみにこの年は作者の生まれた年だから、知ってたんだって
雪野:それ言って、個人情報は大丈夫なんですか?
彩風:冬ちゃん違う! 突っ込む場所違う! 蒼先輩はどこからその情報を仕入れ
たんですか?!
蒼依:……愛ちゃんの言う事聞かない彩ちゃんには言わないよ
実祝:さすがは断金へと至った愛美の親友。情報の出処が固い
優珠:……そうなのね。覚え直しておくわ。ありがとう
(どうしてお兄ちゃんも愛美先輩もお互いの誕生日を聞かないのよ)
佳奈:(……またなんや優珠ちゃんが考えとるなぁ)
直実:これは非常に出題しやすい引っ掛け問題にもなるから、気を付けてな
優希:さすがは優珠。それでも十分すごかったよ
直実:それからもう一つ念のため。18歳未満と言うのは初期の児童福祉法(昭和22
年制定:第百六十四号)でも明確に表記はあったよ
優珠:そうなのね……ありがとうございます。わたしもまだまだ勉強不足ね
朱寿:(……これで勉強不足とか、嫌味にも程があるんだよ)
直実:余談として、そのきっかけと前身になったのは、『児童の権利に関する宣言』
はもちろん、さっき少しだけ触れた、1966年の『国際人権規約』からも脈々
とその想いが受け継がれてるんだ
愛美:つまり私たち子どもを守るって気持ちは、かなり昔から、ジュネーブ宣言・
国際人権の両方からの意志や想いが受け継がれてるって事ですか?
直実:そう言う事。だから
こう言う
女性:?!?!
朱寿:ナオくんっ!
巻本:なんか俺……男としても教師としても自信が……
咲夜:大丈夫です! あたしも全然分かってませんし、女としてなんて、女学生くらいしか
武器はありませんっ!
愛美:優珠希ちゃんって、まだ2年なのにすごく博識なんだね。さすがにびっくりした。
しかもナオさんも朱先輩と同じように物知りなんですね
実祝:その知識はあたし以上。驚き
佳奈:優珠ちゃんは頭ええもんなっ!
優珠:そんな事あるわよ。だってわたしが法学部の過去問を解き荒らしてるのは作者がちゃんと
表記してるじゃない……60話で
佳奈:って! そんな事あるんかいな!
朱寿:(さ! 作者が原因?!)
咲夜:あたしも、表現だけで良いから作者に書いて欲しかったな
実祝:咲夜。それをハリボテと言う
蒼依:夕摘さん……グッジョブ!
咲夜:?!
直実:だから今後は、この対話の内容を、頭のほんの片隅に置きながら読んでもらって、
ここのみんなにも動いてもらえると、みんなの想い、受け継がれた気持ち、願いを汲み
取れるんじゃないかな
朱寿:そうなんだよ。だから劇中でも言ってたように、愛さんが悪いわけじゃない。
その想いを守ろうと、尊重しようと100年以上前から色んな人が想いのバトンを繋いで
るんだよ
倉本:そうだな。だから俺たちも昔の人達に顔向けできるように、受け取った想いを【未来へ】
託せるようにはしたいな
直実:そうだな
咲夜:あの……批准……だっけ。そんな難しい言葉を使わなくても、確認とか加入とかでも
良いじゃん……
彩風:この先輩。国際条約には特別なルールがあるの知らないのでしょうか
巻本:月森……お前。受験大丈夫か?
蒼依:咲ちゃんは悪だくみばっかりしてるからそうなるんだよ
咲夜:……
朱寿:そ……それで! この条文は全部で54条あって。この条約を破棄(脱退)
するには書面で通知してから1年後(児童の権利条約:第52条による)
なんだよ
優珠:……まあ。この国の改正児童福祉法には関係ないけど
朱寿:(く……悔しいんだよ~!)
慶久:あの。一つ聞いて良いですか? そこのスカートの短いすごくエロいお姉さん
優珠:あ゛?! おいそこのエロガキ! 今何つった?
優希:優珠?! 愛美さんの弟だから抑えて!
愛美:ごめんね優希君。私の弟が――慶? 次そんな言い方したら、金輪際ご飯作んないから
蒼依:慶久君。そう言う言い方は良くないよ。それにそう言うエッチな目で女の子を見たら
失礼だよ
実祝:……愛美の弟とは思えない……
朱寿:慶久くん。お姉さんのお友達にそんな言い方して良かったんですか?
慶久:?! い。いえ! 俺が間違ってました! そこのお姉さん。すみませんでした!
蒼依:(?! 何? どうなってるの?)
朱寿:分かって貰えれば良いんです。それで何を聞きたいんですか?
(ふふん! 愛さんの一番の理解者はわたしなんだよ)
慶久:はい。第二条の所に、②・③って打ってあるのは何て読むんですか?
朱寿:その数字は――
優珠:――
〖改正児童福祉法第二条第
ちなみに“項”の部分はアラビア……算用数字で表すのよ。分かる? 数学の
授業なんかで出て来るあの数字ね。
佳奈:こういう時、優珠ちゃんの説明って分かり易いな
愛美:ありがとう優珠希ちゃんっ。とっても分かり易いよ
優珠:あ。当たり前じゃない! わたしを誰だと思ってるのよ
中条:あんまり理解出来てないけど、ストレスを感じないから別に良いか
彩風:中条さんが相変わらず振り切ってるけど、児童の権利条約以外なら、アタシも知って
ますから。
朱寿:(あ……愛さんの羨望がっ)
直実:
咲夜:なんだか分かんないけど、素敵……
巻本:……お。俺は数学担当だからなっ!
実祝:先生。言い訳。みっともない。
倉本:補足しとくなら、この“条文”とか“項”だが、基本は1文から3文で収められて、2文なら
“前段”とか“後段”と言ったように段落分けをするけど、昔の法律にはこの“項”が無かった
ため、該当文章を探すのに苦労したそうだ
彩風:さすが清くん! 物知りだね
倉本:自分の会社のルールとか網羅するのにこれくらいはな
咲夜:じ、自分の会社?!
佳奈:現金な先輩やなぁ
雪野:別に空木先輩相手じゃないので、良いんじゃないですか?
中条:雪野ってホントにぶれないな
朱寿:?! ち、ちなみに! この原理は、すべて児童に~の後の部分は、この法律が子供に
関する法律で一番上位に来るって意味なんだよ
慶久:え! 法律に上下関係があるんですか?
愛美:(すごい……あの慶がきっちり敬語使ってる?!)
朱寿:そうなんだよ。たくさんあるからほとんど割愛するけど、このお話に関係の
ある【学校教育法】【私立学校法】もこの児童福祉法に関係するんだよ。
慶久:じゃあ俺はもう大人だって、法律で決めようとしても駄目だって事ですか?
朱寿:そうなんだよ。第一慶久くんはまだ18歳にもなってないから、児童扱いだし、法律
どころか条約にも書いてあるから決められないんだよ。
ちなみに『児童の権利条約』の第1部第1条に書いてある文章が、えっと……
これなんだよ
この条約の適用上、児童とは、18歳未満のすべての者をいう。ただし、当該児童で、その者に適用される法律によりより早く成年に達したものを除く。
彩風:あれ? でもこの“後段”に書いてある文章だと、18歳以下でも成年と認められ
たりするって事?
倉本:霧華。確かに二文には別れてるけど、ただし~って書いてあるから、“後段”
じゃなくて、“ただし書”な。
愛美:倉本君も色んな事知っているよね
倉本:まあな。これくらいなら知ってるぞ? だから岡本さんが望むなら、週末を使って、
いくらでも講義や教えるくらいはするぞ? なんなら俺の会社を見学してもらっても
良いし
彩風:俺のって……清くんのお父さんの会社で、清くんの会社じゃないよね
咲夜:……玉の輿……
中条:はい会長は退場っ!
愛美:すごいのは分かったけれど……ごめんね倉本君。私じゃなくて別の女の子を誘って
あげてね
巻本:そうだ。男は金じゃないんだ。熱いハートなんだ!
愛美:先生っていつも一生懸命ですもんね。だから私は先生を応援したくなるんですよ
蒼依:……咲ちゃん?
咲夜:ひゃい! 何でもございません!
優希:?!
優珠:そうよっ!『児童の権利条約』の三十条にあるのだけど、
宗教的な思想・少数民族や原住民などの児童は、その集団や他の構成員(他の大人)と
共に、自己の文化を享有し、自己の宗教を信仰しかつ実践しってゆう文言があるの。
朱寿:(何で?! 何でわたしが知らない条約をここまで網羅してるの?! ここはわたしが
愛さんから一人称賛を独占するはずだったのにっ!)
佳奈:やっぱり、優珠ちゃんもお姉さんも荒れとるなぁ……いやお兄さんもかいな?
直実:つまり信仰の自由、宗教・思想の自由だけは保証されてるって事なんだけど、この条約に
批准した
上で、該当児童が「嫌だ」と声を上げれば、当然その扱いは変わると覚えておけば良い
彩風:そうなんですね。ありがとうございます。
佳奈:優珠ちゃんも、めっちゃ分かり易かったで!
愛美:ありがとう優珠希ちゃん
蒼依:……分かり易かったよね。愛ちゃんっ!
愛美:うんっ
雪野:さすが二枚舌の親友なだけはあります。黒いモノを感じました。
実祝:この二年も愛美の弟同様失礼……
―――――――――――――――――後編へ続く――――――――――――――――