第8話 中村うさぎと五木寛之

文字数 1,636文字

 文春文庫から出ている「ショッピングの女王」①~④がある。
 昔、コインランドリーに行った時、置いてあった週刊誌を読んでいて、この人の連載が面白かった。で、文庫本を買ってしまった次第。
 中村うさぎ、壮絶な人である。
 シャネルだのエルメスだのドルガバだの、ブランド品を病気のように買いまくり、借金にまみれ、都民税を滞納し続けて延滞金も嵩み、未払いの都民税が千万単位であるという。

 役所の人間が、滞納額を整理する(トリタテですね)ために中村家を訪れた際、中村うさぎはテレビゲームの「ドラクエ」に専心中だった。
 玄関を開けると、いつもは1人の役所の人間が、2人いた。中村うさぎは、ドラクエに心奪われていたため、「タイノー・セイリマンが2人にふえた!うさぎは80のダメージをうけた!!」などと、現実がテレビ画面に重なったことを書いていた。

 ホストクラブにハマッて、ドンペリのピンクだのゴールドだのを1人の男のために貢ぎ、僅かな期間に総額1500万円(!)を注ぎ込んだこととか。
 プチ整形もしたりしている。
 読んでいて、痛々しく感じる時もあるけれど、面白い。
 読後、清涼感はない。
 ファンタジー作家でもあるらしい。


〈 五木寛之 〉

 この人の作品を初めて読んだのは、中学1年の時、「ゴキブリの歌」だったと思う。題名が面白いから、買った。内容は、まったく覚えていない。「地図のない旅」「風に吹かれて」も読んだ気がするが、何も残っていない。
 4、5年前か、「大河の一滴」を、実家の父から「いい本だから、読みなさい」みたいな感じで郵送されて来て、読んだ。
 イイことは書いてあったけれど、それは日頃から自分でも感じてたり考えていることだった。で、五木寛之はそれ以上を書いていなかった。なんでこんな本が売れるのかなー、という(何様かね、チミは)印象だけが残った。

 ぼくは、ほとんど学校に行かないで生きてきたけど、この「ゴキブリ…」は、その数少ない学校生活の中で、記憶に残っている本だ。「読書週間」みたいな行事があって、とにかく何か1冊読みなさい、というもので、仕方なく五木を選んだのだ。
 ぼくのいた中学校には、そういう「読書週間」が何回かあって、ある時ぼくは図書室から「ラブ・ストーリー」という本(著者は忘れた)を借りて、読んだ。やっぱり内容は全く覚えていない。
 だが、クラスごとだか学年ごとだか、何十人もの1人1人の氏名、読んだ本のタイトルが、わら半紙に印刷されて、配られたのだった。読んだ、本人の簡単な感想文も、下欄にあったと思う。

 それが配布された時、ぼくのいた教室が、ざわついたような、恥ずかしさを紛らわすための失笑というか、妙な雰囲気になった。特に、女子たちが、なんだかぼくのほうをよく見ていた。
「ラブ・ストーリー」、かめ○○(ぼくの本名)、その下に、ぼくが書いた簡単な読書感想。
 どうも、「ラブ・ストーリー」というタイトルに、多くのクラスメイトが反応していたようだった。
 ぼくは、なんでみんなぼくのほうを見るんだろう、なんかおかしいなぁ、と感じているだけだった。みんなが楽しそうだから、ぼくも一緒になって少し笑いをつくっていた。

 それから、「やぁ、『ラブ・ストーリー』のかめくん」とか、それまで、それほど親しくなかったクラスメイトから、にやにやしながら肩を叩かれたりした。
 ぼくはなんとなく恥ずかしかったけれど、まんざらでもなかった。もちろん「ラブ・ストーリー」の内容など、全く覚えていない。むしろ、「読書週間」のために、本屋で買って読んだ五木の、何かの文庫本の中にあった、官能的な描写のほうが、今も記憶に残っている。
「杏子」とかいう女が出てきて、「水湿」だか、「湿水」だか、そういう名字の男が出てきて、「服を脱がさないでするのが、ぼくの趣味なんです」とか言って、木に杏子をもたれさせて、立ったまま、する、という描写だった。
 五木寛之は、「ラブ・ストーリー」より、エッチだったと思う。
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