第12話 「罪と罰」「虐げられた人びと」「賭博者」

文字数 757文字

 ドストエフスキー、3作。
 しかし何ゆえ、こんなわざとらしい表紙にするかな、新潮文庫。
 その「罪と罰」、やはりマルメラードフが忘れられない。呑んだくれの、どうしようもない男で、上巻の前半にチョッコッとだけ登場した人物である。
「呑んじまったんだね!呑んじまったんだね!」と、奥さんに髪の毛を引っ張られ、もんどりうちながら幸せそうに笑い、引きずられていく。
 そしてマルメラードフは、急に馬車に轢かれて死んでしまうのだ。死ぬとき、ラスコーリニコフもそこにいた。

 長い小説だし、ソーニャという象徴的な女性もいるけれど、ぼくにいちばん重く残るのが、どうしてもマルメラードフなのだ。10代で一度読んで、30代でもう一度読んだ。でも、やっぱり残ったのは、マルメラードフだった。

「虐げられた人びと」では、老犬のアゾルカと、その飼い主の老人。やっぱり10代のとき読んだ印象、今も強く残っている。長い小説の中で、それはほんの2、3ページで終わる描写だった。
 老犬のアゾルカは、老人と入った喫茶店のような場所で死んでしまうのだ。テーブルの下で、老人の足元に寝ていたはずのアゾルカが。
 老人は、「アゾルカ! アゾルカ!」と叫ぶ。
 そして、その光景を見た、そこに偶然居合わせた人々は、皆、感動していた、という場面である。

「賭博者」では、老婆が、「もう、やめましょう」という主人公の言葉を無視してルーレットを続け、賭けた所に偶然、玉が入った。そして老婆が吐いた、「どうだえ!!!」。
 ビックリマークは、3つ、ついていた。

 起承転結なんか覚えていない。ただ、マルメラードフ、アゾルカ、その老人、「どうだえ!!!」の老婆。
 あの長い小説の、ほんの、まったく1部分にすぎない、そこにこんなに何故とらわれているのか。とらえられているのか、わからない。
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