第6話

文字数 788文字

 週末の日曜日。城島と奈々子はクルム心眼教の事務所に出向いた。ここに妹の茂美(しげみ)がいるはずだ。この日は月に一度の講演会があり、教祖による予言のパフォーマンスが行われる予定だと聞かされていた。
 城島と奈々子は受付を済ませ、信者と思しきスタッフに廊下の突き当りの部屋へと通される。扉を開けると、中は真新しい板張りのフローリングで、ちょっとした体育館並みの空間が広がっていた。手前にはパイプイスが並び、既に百人を越える人たちが、みな固唾を呑みながら正面を見つめている。
 暗黙の了解なのか、私語は一切聞こえず、その静けさが却って不気味さを漂わせていた。
 二人は一番奥の、中央からやや左側のイスに腰を下ろした。城島は手ぶらだったが、奈々子は黒色の肩掛けのショルダーバッグで、席に着くや否や、それを隣の空席に乗せた。
 お菓子でも入っているのかと尋ねてみたが、彼女は、さあねとはぐらかした。
 改めて正面に目を向けると、部屋の奥にはステージがあり、そこには畳が敷いてあった。奥には時代劇に出てくるような金屏風が並べられ、まるで能か狂言の舞台を思わせた。

 やがて拍手と共にひとりの男がゆっくり登場した。
 彼は烏帽子をかぶり、小さな紋の入った、だぶだぶの白の袍(ほう)に紫の袴姿で、笏(しゃく)とマイクを構えている。顎髭を生やしており、我こそは教祖なのだと言わんばかりのオーラを醸し出していた。
 公演が始まると、教祖らしき男は、かしこまった口調で、神からのお告げとのたまう教えを説き始める。講義の内容はどこかで聞いたような、取るに足らない通り一遍の説教だった。まるで三流大学の留年学生が、どこぞの経典をコピペしたレポートのように思え、城島は辟易せざるをえない。
 隣で座りながら目を閉じている奈々子からは、時々寝息が聞こえてきた。いかに大人びているとはいえ、所詮子どもには退屈過ぎるのだろう。
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