第16話

文字数 765文字

「百パーセント詐欺ね」瞳を輝かせた奈々子は、そう断定した。
 国武はそれをきっぱりと否定する。
「そんなはずはありません! 穂香は心の綺麗な優しい女性なんです。貸した金も、病気の母親の治療費にあてて、元気になったら一緒に挨拶に行こうと約束していたんですよ」
 涙を流しながら、必死で訴える国武は、唇を噛みしめ、唸るように顔を伏せた。
「でも、警察にも判らなかったんでしょう? 私が出ていったところで解決すとは限らないわ。他をあたって」
 そりゃないよ。わざわざ有給まで取って来た上に、必死こいて階段を昇ったんだ。しかも七階の屋上までなんて聞いてないぞ。そのうえ晒したくもない恥を晒したというのによ。子どもの使いじゃないんだから、このまま引き下がる訳にはいかないだろう。
 国武はにやりと顔を歪めると、軽く膝を叩きながら、
「……つまり自信が無い訳ですね。だったら結構です。九龍さん、落胆する必要はありません。あなたを買いかぶり過ぎた自分の落ち度ですから」
 すると奈々子はそれに触発されたのか、こぶしをテーブルに叩きつけながらいきり立った。
「私に解けないトリックは無い!!」
 そらきた。いくら見破りの達人といえども所詮は子ども。生意気にも黒頭巾なんか被ってそれらしい雰囲気を醸し出そうとも、手玉に取るのは簡単だ。
「では引き受けてもらえますか?」あくまで下手に出る国武。彼は心の中で舌を出していた。
「もちろんよ。その代わり、そのままじっとしてて」
 少女は棚からソーイングケースを取り出すと、中から待ち針を出し、国武の肩に服の上から突き刺した。
「痛い!」思わす声を上げる。奈々子がドSなのは聞いていたが、まさか本当にこんなイカレたことをするとは思わなかった。
 それから針の抜き差しを合計七回繰り返したところで、奈々子はようやく手を止めたのだった……。
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