第10話
文字数 814文字
「邪魔なんだけど」
九龍奈々子の罵声でこの話の幕が上がった。今回の依頼者は、永瀬智子(ながせ、ともこ)。広告代理店に勤める二十八歳の女性である。
相談内容はストーカー被害。
クリスマスも数日後に迫り、雪のちらつく街の中、智子を乗せたタクシーは指定された建物に到着した。
ピンク色のパンダのキーホルダーの付いたハンドバッグを握りしめた彼女は、決意新たにビルを見上げる。階数を数えると七階建てであることが判明した。
大学時代のサークルの先輩にあたり、数カ月に一度連絡を取り合っている城島の話によると、九龍奈々子(クーロン、ななこ)の事務所があるのは、このビルの屋上らしい。だが、ビルに入って正面に見えるエレベーターには調整中と書いてあった。
まさか、屋上まで階段を使えとでもいうのかしら。
実はそのまさかであり、昇り疲れた智子はヒールブーツで来たことを心底後悔した。足が棒のように痛み、途中で何度も心が折れそうになった。
やっとの思いで屋上のドアを開けた。
何処かに腰掛けたいのだが、一面に降り積もった雪の屋上には、椅子のひとつも見当たらなかった。あるのはプレハブの小さな小屋。
足元に気を配りながら扉に近づくと、そこには『九龍研究所』とあった。それを見た智子は、ここが見破りの達人の事務所だと確信する。
城島の妹、茂子はクルム心眼教という新興宗教に危うく騙されそうになったところ、九龍奈々子という小学生にしか見えない女性に助けてもらったと聞かされていた。今から三か月ほど前の話だ。
チャイムを鳴らそうにも見当たらず、ノックをしたが返事はない。
そこで扉に手を掛けて横に引いてみると、鍵はかかっておらず、何の抵抗もなく開いた。足を踏み入れると中は無人で、すっかり凍えた躰を温めようと暖房器具を探す。だが、ヒーターやストーブの類は見当たらなかった。このままだといずれ凍えてしまいそうだ。
そこで冒頭の台詞が繰り出されたのであった……。
九龍奈々子の罵声でこの話の幕が上がった。今回の依頼者は、永瀬智子(ながせ、ともこ)。広告代理店に勤める二十八歳の女性である。
相談内容はストーカー被害。
クリスマスも数日後に迫り、雪のちらつく街の中、智子を乗せたタクシーは指定された建物に到着した。
ピンク色のパンダのキーホルダーの付いたハンドバッグを握りしめた彼女は、決意新たにビルを見上げる。階数を数えると七階建てであることが判明した。
大学時代のサークルの先輩にあたり、数カ月に一度連絡を取り合っている城島の話によると、九龍奈々子(クーロン、ななこ)の事務所があるのは、このビルの屋上らしい。だが、ビルに入って正面に見えるエレベーターには調整中と書いてあった。
まさか、屋上まで階段を使えとでもいうのかしら。
実はそのまさかであり、昇り疲れた智子はヒールブーツで来たことを心底後悔した。足が棒のように痛み、途中で何度も心が折れそうになった。
やっとの思いで屋上のドアを開けた。
何処かに腰掛けたいのだが、一面に降り積もった雪の屋上には、椅子のひとつも見当たらなかった。あるのはプレハブの小さな小屋。
足元に気を配りながら扉に近づくと、そこには『九龍研究所』とあった。それを見た智子は、ここが見破りの達人の事務所だと確信する。
城島の妹、茂子はクルム心眼教という新興宗教に危うく騙されそうになったところ、九龍奈々子という小学生にしか見えない女性に助けてもらったと聞かされていた。今から三か月ほど前の話だ。
チャイムを鳴らそうにも見当たらず、ノックをしたが返事はない。
そこで扉に手を掛けて横に引いてみると、鍵はかかっておらず、何の抵抗もなく開いた。足を踏み入れると中は無人で、すっかり凍えた躰を温めようと暖房器具を探す。だが、ヒーターやストーブの類は見当たらなかった。このままだといずれ凍えてしまいそうだ。
そこで冒頭の台詞が繰り出されたのであった……。