第1話

文字数 837文字

 松丘(まつおか)がその貼り紙を見つけたのは、アイドルマジシャンであるマーガレット天海(てんかい)のイリュージョンショーを、ガールフレンドと共に鑑賞した帰りだった。

 それは見事なショーで興奮冷めやらぬ二人は、その仕掛けを喧々諤々(けんけんがくがく)と討論し合う。しかし、いくら仮説を出し合ったところで、納得できるトリックを解明するまでには至らなかった。
 パンフレットによると、マーガレット天海は十代の頃からアイドルマジシャンとして一世を風靡していて、十年ほど前までは第一線で活躍していたらしい。当維持は面妖なルックスだけに留まらず、テクニックも一流と呼ばれ、天才マジシャンの名を欲しいままにしていたとある。
 しばらくはマジックの世界から遠ざかっていたらしいが、数年前に再デビューを果たした。全盛期ほどではないにしても、ここ最近、人気が再熱しているらしい。
 松丘も名前だけは知っていたが、実際にショーを鑑賞したのは、今日が初めてだった。
 
 電柱に貼ってある貼り紙には『あらゆる謎やトリックを見破ります。九龍(クーロン)研究所』と書いてある。一度やりすごしたものの、今見たばかりのイリュージョンのタネが知りたくなった松丘は、彼女と別れた後でこっそりと舞い戻って、記載してある電話番号を携帯のカメラに収めた。

 翌日、胸躍らせながら昨夜撮影した携帯番号にかけてみた。本当に昨夜のイリュージョンの仕掛けが判るのだろうかと不安になるが、それでも期待せずにはいられない。
 しばらくコール音が鳴り続くが、いっこうに繋がる気配がない。諦めて電話を切ろうとしたタイミングで相手が出た。
 『誰?』女の声だった。
 不愛想な対応で出鼻をくじかれた。その後も不機嫌な口調で要件を訊かれ面食らう。だが、ここで怯んでは負けだと、冷静を装い要件を話す。声はどこか幼く感じた。高校生だとしても若すぎる。なんだか不安に思え、躊躇するものの、駄目もとで面会の約束をした。最後に相手は「くーろん、ななこ」と名乗った。
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