第4話

文字数 986文字

 次の演目は人体切断。
 さっきとはまた別のアシスタントの女性が台に寝そべり、胴体の部分に四角い箱をかぶせた。天海が巨大なチェーンソーで箱の中央を二つに分断。台が離れ、ステージを一周した後、また元に戻る。ラストに箱から出た女性が笑顔で手を振った。
 これも不思議だ。タネが全く判らない。
「トリックが知りたい?」
 奈々子の見立てだと、台に仕掛けがあって、切っているように見えるだけで、実際は下半身を折り曲げているらしい。当然、下半身は作り物だ。
 まさかと思ったが、確かにそれだと納得がいくし、他に考えられなかった。

 続いて人体消失。
 天海がボックスに入り、そのまま浮き上がる。ロープが堂々と見えているので、浮き上がること自体に不思議はない。だが三メートルほど上がったところで箱がバラバラになると中は空っぽになっていた。観客が騒めいていると、ホールの後方にある扉から、消えたはずの天海が現れた。
 奈々子によればステージの床に穴があって、浮き上がる前に脱出しているのだという。それから地下通路を通ってロビーの通路に出ると、如何にも瞬間移動したかのように観客の前に現れたに過ぎないらしい。

 それからいくつかのイリュージョンが続き、その都度、奈々子の解説が入る。最後に天海は手のひらから炎を燃え上がらせた。彼女の十八番であるファイヤーポールだ。
 万雷の拍手の中、終焉を迎えると、奈々子はラストに披露したファイヤーポールのタネを述べ、松丘の依頼は全て完了となった。

 公演後の帰り道。二人は並んでバス停へと向かっていた。
 奈々子は報酬を取らなかった。代わりに頭を洗わせてと言ってきた。理容師じゃあるまいし、他人に髪を触られるのは気が引けた。
 だが、彼女の言葉には不思議と逆らえず、いつの間にか手にしていた水のいらないシャンプーを振りかけられ、人前にも関わらず、髪をくしゃくしゃにされた。
「もういいわよ。バイバイ」奈々子はハンカチで手を拭きながら背中を向け、バス停とは反対方向に去っていった。
 開いた口が塞がらない松丘だったが、よくよく考えると、今回の費用がチケットとおやつの支払いだけで済んだことを思い出す。それを素直に喜びながら、上機嫌で家路についた。
 
 次のデートの際。
 マーガレット天海のイリュージョンのタネを、さも自分が解明したかのごとく、自慢げに語ったのは言うまでもない……。
  
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