第3話

文字数 896文字

 しばらくして開始のアナウンスがあり、照明が落ちる。
 軽快な音楽と共に幕が上がっていく。
 拍手と共にマーガレット天海が登場して、まずはダンスを披露し始めた。
 最初の演目は空中浮遊。当然だが昨日と同じプログラムであった。台に寝そべったアシスタントの女性に大きな布が被せられる。体をすっぽりと覆い、顔と足首だけが見えている。天海の掛け声とともに女性がゆっくりと浮き上がると、歓声が起きた。松丘も拍手を送る。
 続いて上手袖からタキシード姿の男性が、フラフープを真上にかざしながら、浮遊している女性に近づいてきた。そのまま宙ぶらりんで横になる女性をくぐり抜けると、フラフープの男性は下手側へ消えていく。上から何も釣っていないと証明する形となる構成だ。間髪入れず再び先ほどの男が下手から現れると、同じようにフラフープをくぐらせながら、上手へと去っていった。ファンファーレと共に天海が右手を振り上げると、宙に浮かんだ女性はゆっくり沈んで台に戻る。最後に勢いよく布が取り払われると、女性は笑顔で起き上がり、ポーズを決めた。
 一斉に拍手が起こった。見事である。昨夜とまったく同じ段取りだったが、仕掛けは全く判らない。
 横に座る奈々子と目を合わせると、彼女は簡単よと言いたげに松丘の膝を叩く。
「トリックが知りたい?」
 松丘が頷くと、口をにんまりさせながら、奈々子はあくまでも推論だけどと前置きした後に仕掛けを述べた。
「上からじゃなくて両側の袖からテグスのような丈夫な糸で引っ張っているのよ。バランスが難しいけど、慣れればどうってことない。それだとフラフープの動きも納得できるでしょう?」
 はっとせずにいられない。言われてみれば確かにそうだった。フラフープは男性の両手に固定されたまま、向きを変えずに移動していた。今思えば明らかに不自然だ。それが糸を通しての事なら納得がいく。きっと袖の奥で輪っかの一部を外し、テグスを通しているのだろう。 
 判ってしまえばあっけないもの。タネは意外と単純だった。それを音楽や照明、ダンスなどで誤魔化していたのだ。
 さすがは見破りの達人を名乗るだけのことはあると、松丘は感心した。
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