15.ミキコへの取材

文字数 2,335文字

 ミキコはその印象とは違い、酒が苦手で甘いものが大好きだと言う。
「じゃ、喫茶店かな?」
「あたし、声大きいからさ、ここでいいよ、楽屋で」
「そういう時はね、カラオケボックスが良いんだ」
「なるほどね、防音バッチリだもんね」
「ケーキもあるしね、あまり大した味のはないけど」
「いいの、甘ければ、それにさ、カラオケって好きなんだ」

 と言うことでカラオケボックスでミキコと向かい合っている。
「さっきの、凄かったなぁ、あんなの久しぶりだった」
「やりすぎた?」
「ううん、あたしって、セックス大好きでさぁ……自分でもどうしようもなく淫乱だと思うよ」
「男に取っちゃありがたいけどね」
「そう? あんまり淫乱丸出しだと幻滅されないかなって心配してるんだけど」
「いやぁ、ストリップ見に行ってるんだからさ、淫乱は大歓迎、その上まな板に上っちまうくらいだからドスケベだしね」
「そう? そう言ってもらえると心強いよ」
 ミキコは笑いながらケーキを口に運ぶ。
「でもさ、あたしって色気ないよね、みどりさんなんか見てるとつくづくそう思うもん」
「そりゃみどりみたいなしっとりした色気はないよ、でもミキコくらいカラッとしてて元気だとそれはそれでいいもんだよ」
「そう?」
「ああ、男っていろんな欲があってさ、例えばまり子みたいなちっちゃい娘だと腕の中で守ってやりたくなるし、みどりみたいなしっとり系だと独占したくなる、ミキコの場合だと何とか征服してやろうってチャレンジ精神が沸いてくるよ」
「あたしゃロデオの牛? 良いんだか悪いんだか」
「良いんだよ、今日だっておっさんはピストンのパワーで征服しようとしてたし、あんちゃんは駅弁に挑戦してたろ? あの二人はパワーでねじ伏せてやろうとしてたけど、俺はそこまでパワーに自信ないんで頭を絞ったわけさ」
「あたしはあれで良いんだ……」
「ああ、三人とも達成感ばっちりさ、客席でハイタッチしてたの見てなかった?」
「さすがにぐったりでさ、見てなかった」
「いつもあんな風なショーを?」
「まあそうだね、今日のは特別良かったけど……いつもは中々3人も上がってくれないし、もうちょっとしょぼくなっちゃう」
「ミキコは毎日あれを4回だろう? 体きつくない?」
「さっきのを1日4回だったらさすがにきついな、でも出来れば毎日4回目はあれくらいノックアウトして欲しいんだ」
「そんなに好きなんだ」
「あたしさ、暴走族のスケだったのね、中3から高校にかけてね、廻しなんかしょっちゅうでさ、延べ10人くらい相手にするんだよね、女3人男10人とかの乱交で……高校ぐらいの男の子って性欲の塊みたいなもんじゃない? 毎回毎回ヘトヘトになるまでやられたよ、でもさ、それがやみつきになっちゃって……」
「それで踊り子になったの?」
「そうだね、でも最初はちょっと固い所に勤めたんだよ、と言ってもろくな高校じゃないし勉強もろくすっぽしてなかったからさ、弁当屋でフライ揚げてたんだ、でもさ、やっぱり廻しの興奮が欲しいんだよね、それもあたしの場合見られてる方が燃えるんだ、それにぴったりなのがストリップのまな板だったってわけ」
「なるほどね、男に取っちゃ幸いだな」
「そう思ってくれるんだ」
「ああ、心底思うね」
「だったら嬉しいな、あたしもやりがいあるってもの」
「やりがい? やられがいじゃないの?」
「あはは、そうとも言う」
「楽しいな」
「何が?」
「ミキコと話してるのがさ」
「そう? ガサツでしょ?」
「いや、なんか遠慮なしに何でもしゃべれるから楽しいよ」
「ふうん、そうなんだ」
「ああ」
「アリガト、なんか今日はいい日だったな」
「そうかい?」
「思い切りノックアウトされちゃったしさ、それにあんたと話して結構自信ついちゃった」
「いや、掛け値なしの本音だよ」
「うん、信じる」
「これは俺も言いたくないし思い出したくもないだろうけど……」
「何? せっかくいい気分なのに落っことすわけ?」
「ミキコがどうこうじゃないんだ……風営法さ」
「ああ! それは確かに頭痛い……あたしのショーなんか真っ先にアウトだもんね」
「そうだね……無粋な話だけどな」
「でもしょうがないよ、今あたし楽しんで踊り娘やってるけどさ、芸はないからいつまでも続けられるってもんでもないしね、やれるところまでやって後はその時考える」
「そうだな」
「あたしってさ、将来の心配ってあんまり出来ないんだ、今この時を楽しめればいいって言うか……」
「そうみたいだね」
「そういうのって、ダメかな?」
「いや、人間なんて明日どうなるかわからないからね、それに今の日本じゃ飢え死にする人はいないさ」
「そうだよね、今を楽しまなくちゃね……ねぇ、歌っても良いんだよね」
「ああ、もちろんだよ、騒ごうぜ」

 実にカラリと楽しいまな板ショーとインタビューだった。
 
 その後のミキコだが、風営法が施行されたら踊り娘を辞めるかと思っていたがそうではなかった、それまでにダンスの猛練習をして立派に踊り娘を続けている。
 将来の心配はあんまり出来ない性質だと言っていたわりには用意周到だった、心配はしないが準備は怠らない、なかなか堅実だ。
 暴走族上がりだと言っていたが、若い頃グレてたのが仕事に就くと案外真面目だったりする、そんな感じなのかもしれない。
 そういうわけで今もミキコはステージで巨大なおっぱいをぐるぐるさせている、実際ミキコ目当ての客も少なくない、案外そんな中の一人とゴールインして幸せな家庭を作るかも……そんな気がしている。
 豪快で底抜けに明るい肝っ玉母さんの姿が浮かんできた。
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