24.エピローグ

文字数 3,352文字

 『彼女達は今どうしているのだろうか……』

 自由に書くものだけではまだ食えないので風俗レポートも続けているし、小説やエッセイでも風俗をネタにすることは多いから『その後』を知っている踊り娘も多かったし、今回調べてわかったこともある。

 みどりは1985年の風営法施行直後に引退した、その引退興行、俺は地方に行っていて駆けつけられなかったが、なかなか劇的なものになったそうだ。
 古くからのファンが花束と一緒にみどりの誕生石の指輪を渡したのだ。
「それをどの指に嵌めるかはみどりに決めて欲しい……急がなくてもいい、いつか返事して欲しい」
 みどりはその場でそれを押し頂いて左手の薬指に嵌めたそうだ。
 もっとも、後日サイズ合わせが必要だったそうだが。
 なんでそこまで知ってるのかって? それは指輪の贈り主が俺の町工場時代の先輩だったからさ。
 
 まり子は風営法施行後、写真のモデルに専念した、そして数年後嫁に行った。
 相手はまり子をスカウトしたカメラマン、これは調べるまでもなかった、そっち方面の情報は黙っていても入ってくる仕事をしているからね。
 世の中に美人は数多いるが、まり子は童顔とロリータボディだけではなく、彼女特有の雰囲気を持っていた、まり子でなければならない男も少なくなかったはず、そんな男たちにはご同情申し上げる。
 俺は彼女が幸せになってくれていればそれで満足だが。
 
 里美は30代半ばまで踊り娘を続けた、あのルックスで知名度もあったし、何より本人が真面目な努力家だったから。
 踊り娘を辞めた後の消息はつかめなかったが、つい最近、大人数のガールズユニットが人気になったのをきっかけにテレビ出演していたのを録画で見た、『なつかしのあの人は今』のような企画で当時のメンバーと一緒に出ていたのだ。
 ネームバリューにすがって芸能界にしがみついているような他のメンバーと違い、里美は踊り娘であった事を生き生きと、そして堂々としゃべり、誇りに思っているようだった。
 今はスナックをやっているという事はその時知った。
 
 ミキコは沖縄に巡業に出ている時にアメリカ兵に見初められて結婚し、今はテキサス在住だと言う、いかにもミキコのイメージにぴったりな土地なのが可笑しいが、テキサス出身のアメリカ兵がミキコに故郷の匂いを感じたんだろうと思う。
 きっとテキサスで生き生きと暮らし、肝っ玉母さんになっているに違いない。
 乗られる一方だったミキコだが、今頃ロデオの牛にまたがっているかもしれない、と思うとなんとなく可笑しい。
 
 淑江はポルノ女優にもソープ嬢にもならなかった、あのインタビューの後、フラワーアレンジメントの勉強を始めて、風営法施行後すぐに花屋で働き始めたそうだ。
 結婚はしていないそうだが、淑江が花屋に居る姿を想像すると実にしっくり来るから、そのうちそういう話も出てくるのではないかと思っている。
 おそらく淑江は恋人が出来ても彼に自分の経歴を包み隠さず話すだろうと思う、しかし、それがもし俺なら花屋での清楚な淑江と、ベッドでの何でも許して感じまくる淑江のギャップに幻滅するのではなく、余計に愛おしくなってしまうだろう、そんな男は必ず現れる、と確信している。
 
 いずみは大ヒットにこそ恵まれていないが、出す新曲はどれもコンスタントに売れている、歌う姿をテレビで一度見たが、劇場で見たのと寸分変わらない、充分な色香を感じさせるものだった。
 演歌そのものが衰退して行っているから、これからも大ヒットに恵まれるかどうかはわからない、しかし、あれだけの実力があれば息の長い歌手として生きていけるに違いない、そう思わせるに充分な姿を見ることができた。
 
 蘭は俺が思いついたエスニックダンスではなく、ヨガを学んでそれを生かしたステージで風営法施行後もかなり長く踊り娘を続け、今はヨガのインストラクターをしているそうだ……なるほど、誰も投げていなかった魔球を会得してくれたものだと嬉しくなった、俺の無責任なアドバイスを少しは役に立ててくれたようだ。
 
 ノエルは彼女を愛してくれる男が現れ、結婚して平穏に暮らしているそうだ。
 結婚後しばらくして故郷に手紙を出したのだが、残念ながら宛先不明で戻ってきてしまったそうだ……やはり一度切れてしまった糸を手繰るのは難しい、日本でなら手を尽くせば見つけられるのかもしれないが、それが発展途上国の現実だ。
 彼女が身を売ったことが無駄になっていないと良いのだが……そう願うことしか出来ないのがもどかしい。
 
 
 リリーを忘れてるって?
 ああ、つい忘れていた……。
 
「あなた、エッチな文章を書く手をちょっと休めて紅茶でも飲まない?」
「いいね、区切りの良いところまでもうほんのちょっとだから、すぐに行くよ」

 今のがリリーさ。
 実を言うとリリーこと瑠璃は俺の家にいるんだ。
 俺の姓を名乗ってね。
 なにしろ風俗レポーターという仕事はあちこちに飛んで助平なことばかり追い求めなきゃいけない、そんな仕事を大目に見てくれるような嫁さんはそうそう居るもんじゃないだろう?
 
 
 浦和ミュージックホールの踊り娘たちについて書いた本は、ベストセラーには程遠かったがそこそこ売れ、俺はその後風俗ライターからエッセイや小説を書くことに軸足を移して暮らしている、売れっ子には程遠いがなんとか食うに困らない程度の収入はある。
 もう一本、あれに匹敵する本を書ければ生活も楽になるのだが、俺はまだ彼女たちを超える題材を見つけられていない。
 そして、それはかなり難しいことなんだろうな、と思う……。
 
 
                (完)
 




 ~あとがき~
 
 長い間お付き合い頂き有難うございました。
 浦和ミュージックホールはこれにて営業終了です。
 
 以前に別サイトで、試しに投稿したリメイク版の掌編「リリー」が意外に好評を頂き、勢い余ってこの連載を始めたのですが、正直なところ、R-18専門でないサイトで続けて良いのか? と思ったこともありました。
 読んでいただいた方には主眼がインタビューの方にあるのはわかっていただけたと思うのですが、ショー場面があってこそ生きると思うので、今回の連載も目を瞑って突っ走った次第です、NOVELDAYSの「良くある質問」のところに「キャラクターを描く上で必要な範囲」なら許されるとありましたので……拡大解釈かもしれませんがw
 
 
 ストリッパーとかAV女優には妙に(?)興味がありまして……と言うのは他の風俗ならばそれを隠して暮して行くこともできますが、ストリッパーやAV女優はそれが出来ません、相当な覚悟がないと飛び込めない世界だろうと……そして表現者でもある、という点に惹かれます。
 愛情と性は切り離せないものだと考えていますし、それを身をもって表現して世に出す女性たちにはドラマを感じてしまいます。
 
 
 今回、こちらにこれを発表するに当たって、時代考証がなっていなかったことに気づきました、主に80年代前半の話なのですが、その頃、ケータイやファミレス、大人数のガールズアイドルグループは存在せず、自分が生きてきた時代であるにもかかわらず記憶のあいまいさに苦笑しました。
 それなりに直しましたが、大人数のガールズアイドルグループ……具体的にはお○ャン子クラブですがw……はまだ存在していません、しかしそれだけは話に食い込んでいるので目をつぶりました。
 また、85年風営法を目の敵にしていますが、実際にはストリップの衰退はAVの普及、とりわけ家庭用のVTRの価格が飛躍的に下がってレンタルビデオ店が急速に増加したことが主な要因だったようです。
 しかし、風営法はこの話に欠かせない『悪役』でしたので、罪をかぶせたままにしています、いや、原因の一部ではあったので、あながち冤罪というわけでも……w。
 
 (この作品はPIPI’S World、dNoVeLs、novelistに投稿したものに若干の加筆、修正を加えたものです)

 
 
 
 
 
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