4.リリーの旅立ち

文字数 2,389文字

 給料を貰うようになると俺は週末ごとに劇場に通った。
 ストリップは10日ごとに出演者が変る、しかしみどりはここの専属、いつでもトリはみどりなのだ。
「蘭」はあちこちの劇場を回っているようだがリリーは新人と言うこともあってか三ヶ月ほどは浦和ミュージックホールに出続けていた、ダンスやストリップは上達して行ったがオープンする時の表情はほとんど変らなかった。

 みどりのまな板には手を挙げ続け、何度か勝ち抜いて舞台に上がった。
 日曜の朝一番から入るので観客はまだ少なく、じゃんけんの勝率はいい、真っ先に勢いよく手を上げると他の手が上がらないことも度々ある、五度目だったか、六度目だったか、みどりは離れ際に囁いた。
「10時半に不二家パーラーよ」
「え?」
「朝ごはん……いつもそこなの……良かったら来て……」


 日曜の朝10時半、不二家の入り口が見える席に陣取っているとみどりは現れた、うしろからリリーも付いて来ている、俺の顔を見ると軽く手を振って俺の前に並んで座ってくれた。
「嬉しいな、劇場の外でお話できるなんて思いませんでした」
「もうすっかりお馴染みさんだもの、リリーね、来週からは他所の劇場を回るの」
「そうなんだ……」
「うん……同い年だって聞いてたし、良く来てくれるからあたしのショー、どう感じてるのか聞かせて欲しかったの……」
「高校出たてってホントなんだ」
「嘘だと思った?」
「いや、そうは思わなかったけど……俺、工業高校なんだ、実質男子校だろ? 女の子と触れ合うチャンス少なくてさ……先輩に連れられて初めて劇場に行った時、丁度君が全部脱いだところで……目を疑ったよ、女子高生の裸なんて想像か写真の中にしか存在しないような気がしてたから」
「人類の半分は女よ」
「それは確かにそうだけどさ、周りにいなくて触れ合うチャンスも少ないとそんな当たり前のことでも実感がなくて……いかにも普通の女子高生の裸、それもオープンまで拝めるなんてカルチャーショックだったよ」
「私、そんなに可愛くもないしスタイルも良くないから……」
「あ、普通のっていうのはそういう意味じゃなくてさ、不良っぽくないし派手でもないってこと」
「アリガト……でもやっぱり華はないでしょう? あの劇場はお馴染みが多いから新人って事で何とかなってたけど他所で通用するのかしら……」
「大丈夫だと思うな、『内藤 蘭』さんって出てただろ?」
「うん、すごくきれいな人……」
「最初に見た時はおれも『すげぇ、ホントに蘭ちゃんに似てる』って思った、俺、キャン○ィーズのポスター部屋に貼ってたし……でもなんかすぐ飽きた……飽きたなんていったら失礼かもしれないけど……それよりオープンの時見せてくれる君の顔が良いと思った」
「まだ慣れなくて……ホントに恥ずかしいのよ」
「わかるよ、顔にそう書いてある……でもそれが良いんだ、想像膨らませちゃうんだ、どんな気持ちでオープンしてるんだろう、どうしてこんな娘がストリップに出てるんだろう……なんてね」
「初めてオープンした時は涙が出ちゃった、今でもまだ泣きたい位に恥ずかしい……踊り娘になったのはちょっと事情があって……」
「そういうところに想像を働かせちゃうわけ……劇場通い歴3ヶ月で偉そうなこと言うのもなんだけど、4~5回見れば見慣れちゃうんだよね、ヌードそのものには、でも想像は無限に広がっちゃうから……」
 それまで黙って聞いていたみどりが初めて口を開いた。
「若いのに良くわかってるわ……リリー、ストリップって正式にはストリップティーズって言うの、ティーズは焦らしって言う意味、彼が言うとおり想像は無限よ、股を開いていれば満足してくれると思っちゃダメ、想像力に訴えないと……私なんかあなたにも蘭ちゃんにも肌やプロポーションでは及びも付かないわ、その分を想像してもらうことで補ってるの……わかる?」
 リリーはみどりのステージを思い起こしているように天井を見つめる。
「わかる気がします……」
「見せるのがストリッパーの仕事、でも見せ方に工夫がないとね……ありがとう、いい意見を聞かせてもらったわ」
「いやぁ……若造の未熟な意見ですよ」
「ううん、なかなかそこまで深く見てくれる男の人って少ないのよ」
「そうですか? 本気にしますよ」
「ええ、本当よ……あなたのセックスがすごくいいのも本当、若くて固いのを別にしてもね、三回目目辺りからは変ってきたわ、どうしたら私がもっと感じるか試してない?」
「すみません、実験台にしてるつもりはないんですけど」
「やっぱりね……でもすまないことなんかないのよ、女だってやっぱり気持ちで感じ方が全然違うの、最初の時は夢中でかぶりついてくれて嬉しかったし、最近は感じさせてくれようと工夫してくれてるのがわかるから、やっぱり嬉しいのよ、一日に四回、毎日のように色んな男の人に突っ込まれてる女を感じさせてくれようとしてるなんて……」
「男として当たり前じゃないんですか?」
「そんなことないわ、自分が良ければ女の事はどうでもいい人がほとんどよ、私は公衆トイレみたいだなって思うことあるもの」
「そんなこと……とんでもないです」
「そう思ってくれるなら本当に嬉しい」
「なにしろ初めて知った女性ですし……これからもずっと通います」
「ええ、ありがとう……毎回って訳には行かないんだけど、なるべくあなたを選ぶわね」
「お願いします……リリーは今日が見納め?」
「うん……また呼んで貰えれば必ず来るけど」
「お別れというわけじゃないよね、その内また劇場で会える?」
「うん、ここで育ててもらったし、ここが好きだから……」

 いつものように日曜の一回目のステージ、お客は少ないがリリーは精一杯のステージを見せて旅立って行った……。
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