6.まり子のショー

文字数 3,547文字

「奇跡のロリータ娘・まり子」
 このキャッチフレーズには唾を眉につけたくなる。
 当然、18歳未満の娘を出演させるわけには行かない、ちょっと子供っぽい顔立ちの小柄な娘を「ロリータ」に仕立てるのだが、たいていの場合無理があって却って興ざめになる場合が多い、開き直ってお笑い仕立てにしている劇場もあるくらいだ。
 
 しかし、静かに歩み出て来た娘はその類とは明らかに一線を画している、なるほど本当に12~3歳に見えるのだ、無理に子供っぽい服装でないのもいい、細い肩紐で吊られたごく質素な白い木綿のワンピース、丈も膝上ぎりぎりの大人しい衣装。
 髪をおかっぱにしているのは幼く見せる演出でもあろうが、良く似合っている……と言うのは、いかにも今時っぽくない顔立ちなのだ。
 切れ長の目、小さい鼻、おちょぼ口……ちょっとこけしを思わせる顔立ちだ、頬がふっくらしているのもその印象を更に助長している。
 一見して美人とは言い難いのだが独特の雰囲気がある顔立ちだ、いや、現代の基準に合わないだけなのかもしれない……ある意味『振り切れている』顔立ちだから、世が世なら絶世の美女と目されたとしても不思議ではない。
 ゆったりしたシルエットのワンピースなので体型は定かではないが、露わになっている肩はいかにも華奢、胸や尻もかなり、と言うより思い切り控え目だ。
 スタイルも8頭身には程遠く5頭身に近いくらい、しかし、不思議と顔が大きいという印象は受けない、この雰囲気ならこれくらいの比率が一番ぴったり来るだろうなと思う。
 激しい踊りではなく少し動いてはポーズを取る、と言うような踊りを見せる、ポーズは決まるのだが、踊りそのものは得意ではないようだ。

 BGMはビージーズの『メロディ・フェア~若葉の頃』だった、自分自身の想い出も甦る。
 俺の初恋は小学校6年生の時、クラスでもダントツに可愛いと評判だった娘が林間学校の朝の散歩で丁度こんなワンピースを着ていた、ワンピースから伸びた肩や脚に妙にドキリとして、彼女がその肩紐を外してワンピースをすとんと落す場面を何度も夢で見た、もっともその裸身はぼやけていたのだが。
 後で友達にその事を話すとその時その娘にときめいたのは俺だけではなかったようで「俺も」「俺も」となったのには笑った、何しろぶっちぎりのナンバーワンだったので有象無象には告白する勇気も出なかったらしい……俺も含めてだが。
 
 まり子が出べそに進み出て寝転ぶ、さしたるポーズを取るわけではない、頬杖をついたり膝を曲げたり……ちらりちらりと胸元と内腿が覗くだけ、しかし俺にとってはすっかり小学生時代の思い出にかぶっているのでそれだけで惹き付けられる。

 BGMがムード音楽に変り、まり子が立ち上がってワンピースの肩紐に手をかける。
 初恋の娘が夢の中でした仕草と同じだ……俺の期待はつい高まる。
 ワンピースがストンと落ちる……ブラジャーはつけておらず、小ぶりな胸がいきなり現れる……ようやく膨み始めたばかりのような、まだ乳房とは呼べないようなささやかな胸……小6の時のあの娘もこのくらいだったのでは、と思わせるような胸だ、だが乳首は子供のそれとは明らかに違い、確かに大人のものになっている、お尻もさほど大きくないがウエストのくびれは割とはっきりとしている……子供の体を固い蕾とするならば開花寸前の蕾のような体だ。
 
 成熟した体の踊り子なら胸を震わせたり腰をくねらせたりしてひとしきり観客を煽るところだが、揺れるほどの胸はなく、また、腰をくねらせる仕草もこのロリータボディにはそぐわない、まり子は後方のステージに戻り後ろ向きになってパンティを……いや、パンツと呼んだ方がしっくりくる下着をするすると下ろす。
 予想はしていたが、振り向いたまり子の股間にはヘアがない、脱毛なのか天然なのかはわからないが綺麗なパイパン、剃った跡も見受けられない、無論ラヴィアのはみだしなどあろう筈もなく、こんもりと盛り上がった恥丘の肉に刻まれた深い一本筋……とりたててロリータ趣味はない俺だが見てはいけないものを見てしまったような気分になる、まり子が少なくとも18歳である事はわかりきっているのだが……。
 
 まり子が再び出べそに進み出ると舞台が回転を始めた。
 正座、横座り、体育座り、四つ這い、尻上げ、うつ伏せ、横臥、仰向け……
まり子はまな板の上の鯉よろしくポーズを変えては一回転する。
 そして舞台の縁に進み出て座り込むと、意を決したように膝を開いた。
 まり子は始終深く俯いたまま……恥ずかしさに唇を噛んでいるようにも見える。
 そのまま舞台が2周すると、みどりの時にも登場した男優が登場した、男はまり子のすぐ後ろに胡坐をかくと、まり子の腕を後ろにまとめて手錠をかけ、膝の上に抱え上げて脚をぐいっと開かせた。
 一人でのオープンの時は筋のままだった性器から僅かにピンク色の肉が覗く……まり子は益々深くうな垂れる。
 更に舞台が一周すると男優は胸ポケットから太い試験管を取り出す、それを観客に示し、まり子にも示すとそれを性器にあてがい、ゆっくりと、しかし深々と挿入して行く……透明ガラスの試験管に押しひろげられたピンク色の肉が少し奥まで晒されてしまう、まり子は天を仰ぐ。
 男優は更にペンライトを取り出して試験管を照らす……まり子の『中味』がすっかり晒され、目の前を通過した時、チラリとだが子宮口まで垣間見えた。
 男優に抱えられているまり子の体が時折ピクッと揺れる、見ると目尻に光るものが……。
 男優がクリトリスを愛撫しはじめると、まり子の体に震えが走る、そして一旦雲ってしまった試験管が愛液で濡れ透明度を取り戻す、内部の色も心なしか赤みを増している……まり子は子供ではなく、既に感じることが出来る体になっているのだ。
 もしまり子を抱いたなら……想像せずにはいられない。
 まるで子供のような幼く儚い小さな躰……しかし男を受け入れる事ができて、しかも彼女自身も感じることが出来る……子供と大人、両方の特徴を兼ね備えながらそのどちらでもない、普通の女の子ならほんの一瞬しか訪れないそんな瞬間をまり子はその顔に、その体に固定させている……「奇跡のロリータ娘」の謳い文句は伊達ではなかった……。

 男優はまり子から試験管を抜くと立ちあがらせて並んでお辞儀をした。
 男優と比べるとまり子の体の小ささに改めて驚かされる、おそらくは140センチあるかないかだろう、男優の胸までしか届かない。
 男優が軽々とまり子を横抱きにするとそのまま袖に下がって行く、本当に子供を抱きかかえているかのように見え、そんな体を鑑賞していたことを改めて思い知らされた。


 ショーを見終えて俺は腕を組んで考え込んだ。
 みどりといい、まり子といい……浦和ミュージックホールのショーは派手な演出をせず、踊り子の個性を最大限に生かしている、仕事柄全国の劇場を回ったが、ここのショーは東京、大阪など大都市のトップ劇場に華やかさでは劣るものの間違いなく一級品、俺の好みから言わせて貰えばナンバーワンだ。
 改めてこの劇場で風俗に出会った幸運に感謝したくもなる、ライターとしてなんとか飯が食えるのはそのおかげかもしれない。
 そして……。
 今、自分が書きたいのが何なのかおぼろげながらに浮かんで来た。
 風俗の表面をなぞってお勧めだとか過激だとか書き立てるのにはいささか倦んでいる、俺の書きたいのは彼女達の内面なのだ。
 どうして踊り娘になり、どういう経験を経て、どういう思いで舞台を務めているのか。
 俺が書きたいのはそれだ。

 風俗レポートにはなりそうにない、いわばノンフィクション。
 編集部が許可してくれるかどうかは判らない、自分の時間を使って書く他はない、いまでも充分忙しいのだが出来るだろうか……その答えはすぐに出た、出来る出来ないではない、やらなくてはいけないのだ、新しい風営法の施行は目前に迫っている、個室でこっそりの風俗とは違いストリップは舞台で演じられるもの、まな板はおろか白黒、オナニーショー、レズショーだって出来なくなる可能性が高い、みどりやまり子のショーも目玉を失う、なにもこの劇場に限ったことではない、ストリップの灯は消えてしまい、レビューショーのようなものしか残れない、もう時間はないのだ。
 
 善は急げ。
 幸いモギリのおばちゃんは俺の事を憶えていてくれた、ライターの名刺を渡して支配人に会わせて欲しいと申し出るとすぐに取り次いでくれた。
「支配人さんも憶えていたわよ、いつでもどうぞって……」
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