22.スワイパー村から来たノエルのショー
文字数 2,947文字
俺は外国人の踊り子にあまり興味を持てない。
ストリップを見始めた頃からそうだったし、今でもそれは変わらない。
しかし、物事には例外と言うものもあるものだ。
カンボジア人の踊り娘、ノエル。
支配人の考えたキャッチフレーズは『褐色の挑発』、褐色は言いすぎだし、挑発的でない踊り娘もありえないのだが……。
彼女にはその風貌からしてまず惹き付けられた。
飛びきりの美女と言うわけではない。
浅黒い肌、やや座った鼻、厚めの唇、それらはあまり美女の条件とは合致しない、とりわけ日本では。
ただ、彼女の瞳が非常に印象的なのだ。
やや吊り上がった大きな瞳、その白目はとりわけ白く、青みがかって見えるほど、肌が浅黒いので余計に際立って見える。
劇場の外に張り出されている踊り娘たちの写真、それらは押しなべて微笑をたたえ、その視線は柔らかい。
しかし、ノエルだけは少し違う。
誘惑的ではない、ある意味、男に媚を売る事を拒否し、男の気持ちを見透かそうとしているような視線、そしてどこか憂いを湛えているようにも感じられる。
そして、その印象的な瞳はノエルの顔立ちに強烈なアクセントを与える、やや座った鼻、厚めの唇は、一般的には南方的なおおらかさを感じさせるものだが、ノエルの場合はその印象的な瞳によって、それらが意志の強さを感じさせるものに変換され、全体として折れない心と言うようなものを感じさせるのだ。
ノエルのステージは、彼女のふるさとであるカンボジアの民族舞踊から始まる。
民族舞踊にはあいにく詳しくないのだが、それが村祭で踊られるような伝統的で素朴なものである事はわかる。
下調べしたので知っていたのだが、カンボジアの民族衣装は一枚の布を巻きつけたようなもの、ノエルのスカートはまさしく布を巻きつけただけのようなものだが、写真で見た民族衣装に比べれば極端に短く、上半身に巻きつけた布も幅が極端に狭い。
まあ、ストリップ劇場で披露されるダンスなのだから露出を多めにアレンジしたのだろう。
二枚の布を巻きつけただけのノエルの肢体……小柄でスリムなのだが、日本人や欧米人のスリムさとは少し趣が違う、その浅黒い肌の下にしなやかな筋肉を隠してことが伺える体だ。
けっしてムキムキと筋肉質なのではない、例えて言うならスポーツで鍛えた小・中学生の体、ぐっと筋肉が張り出しているようなものではないが、しなやかで疲れを知らない筋肉を効率良く付けたような肢体だ。
胸や尻はそう大きくない、決してないわけではないが、無駄に大きくはないのだ。
乳房は本来乳飲み子のためにあるもので、男の歓心を誘うためのものではない、尻の脂肪もクッションのためについているもので、振って見せるためのものではない。
ノエルの肢体は人間が本来持っている機能的な美しさをそのまま現したような肢体なのだ。
ノエルはちょうど日本の泥鰌すくいで使われるような籠を手に舞う、どうやら魚捕りの動きを模したダンスのようだ。
そして、それを踊っている時のノエルの表情……写真で見せる挑戦的な表情とは全く違う柔和な表情で、故郷のダンスを懐かしみ、大事に踊っているかのように見える。
ダンスも、薄い布を巻いただけの乳首の形が伺えること、巻きスカートの合わせ目から内腿がチラチラと覗く程度で、エロティックな要素はあまりない、しかし、観客もその素朴な踊りを楽しんでいるように見える、日本の農村部でも一昔前までは踊られていたような味わいがあるのだ、ノエルの表情と同じく、観客の表情も穏やかで優しい。
ひとしきり踊ると、ノエルは衣装替えのために優雅に袖に引っ込み、しばらくは無人のステージにゆったりした民族音楽が流れる。
しかし、後半は全く趣が変わった。
民族音楽がフェードアウトすると、一転してロックバンド、アイアン・メイデンの轟音が響き渡る。
浦和ミュージックホールの客層には、とりわけカンボジア農村部の素朴な民族舞踊を堪能していた年齢層のお客には少しばかり刺激が強すぎ、馴染みも薄いヘヴィメタルだ。
しかし、へヴィメタルにはやや年齢が高すぎると思える観客も、その轟音に眉をひそめたり引いたりはしない、後半のノエルのショーにはそれしか考えられないほどにマッチしているのを知っているのだ。
唐突にノエルがステージに飛び出して来る。
その衣装は薄いグレーのワンピース、そう言うと大人しい衣装のように聴こえるかも知れないが、実際は全く違う。
色はグレーだが一様ではない、元は白かったコットンが汚れてグレーに染まったようなもの、形も一枚だからワンピースと言うだけで、むしろ男物のランニングシャツに近い。
そしてところどころ裂けて浅黒い肌が露出している。
露出と言えば乳房もだ。
胸が大きく開き、脇も広く開いているので、動きに合わせてチラチラとのぞいてしまう。
丈もかなり短め、そしてその下に穿いているパンティはおよそそっけないもの、ただの白いコットンのパンティだ……もちろん股上が浅いビキニではあるが、エロティックにデザインされたものではない。
ノエルの踊りは激しい、いや、踊りと言うより激しいロックに陶酔して髪を振り乱し体を震わせ、四肢を激しく動かし、天を仰ぐ……振り付けされた動きではなく、ノエルの中から迸り出る感情をそのまま表現しているかのようだ。
そしてあの顔、あの瞳で客席を睨み付ける。
計算された露出もない、あるのは緩くて短い衣装に包まれた激しい体の動き、そしてそれに伴う露出だけ、ただし、ノエルに隠そうという意思は全く感じられない。
いわば『見るなら見て!』と言わんばかりの露出だ。
激しい動きに、ノエルの肌に汗が浮かんで来ると、浅黒い肌は妖しい光沢を放ち、顔に張り付いた黒髪がその表情に凄味を加える。
そして、これだけは振り付けで決まっているのだろう、ノエルが回転ステージの中央に進み出ると、ステージが回り始める。
そしてノエルは自分の体からむしりとるかのようにワンピースを取り去り、もどかしげにパンティを脱ぎ捨てるとステージに跪く。
そして膝を大きく開いて激しく腰を上下し、前後させる、その動きはまるで騎乗位で腰を振っているかの様、もしノエルの下に横たわっていたなら摩擦熱でペニスから煙が立つのでは無いかと思えるほどの激しさだ。
その腕は空中にある見えない何かをつかみ取ろうとするかのように激しく動き、やがてそれは腰を中心とした大きな動きに変わって行く。
そしてエンディング。
ノエルは大きく開いたまま膝立ちになり、両腕を天に差し伸べながら天を仰ぐと、膝をついたまま後ろへ倒れこんでしまう……。
へヴィメタルの轟音は止み、ノエルは腰を突き上げたようなポーズのまましばらく回り続け、観客はその性器を堪能する……と言うより見せ付けられるのだ。
肌は汗にまみれて妖しく光り、荒い呼吸は腹を上下させる、そしてその表情は放心したかのよう、挑戦的だった瞳も虚ろに力を失っている。
何かに怒りをぶつけているかのような……それがノエルのステージなのだ。
ストリップを見始めた頃からそうだったし、今でもそれは変わらない。
しかし、物事には例外と言うものもあるものだ。
カンボジア人の踊り娘、ノエル。
支配人の考えたキャッチフレーズは『褐色の挑発』、褐色は言いすぎだし、挑発的でない踊り娘もありえないのだが……。
彼女にはその風貌からしてまず惹き付けられた。
飛びきりの美女と言うわけではない。
浅黒い肌、やや座った鼻、厚めの唇、それらはあまり美女の条件とは合致しない、とりわけ日本では。
ただ、彼女の瞳が非常に印象的なのだ。
やや吊り上がった大きな瞳、その白目はとりわけ白く、青みがかって見えるほど、肌が浅黒いので余計に際立って見える。
劇場の外に張り出されている踊り娘たちの写真、それらは押しなべて微笑をたたえ、その視線は柔らかい。
しかし、ノエルだけは少し違う。
誘惑的ではない、ある意味、男に媚を売る事を拒否し、男の気持ちを見透かそうとしているような視線、そしてどこか憂いを湛えているようにも感じられる。
そして、その印象的な瞳はノエルの顔立ちに強烈なアクセントを与える、やや座った鼻、厚めの唇は、一般的には南方的なおおらかさを感じさせるものだが、ノエルの場合はその印象的な瞳によって、それらが意志の強さを感じさせるものに変換され、全体として折れない心と言うようなものを感じさせるのだ。
ノエルのステージは、彼女のふるさとであるカンボジアの民族舞踊から始まる。
民族舞踊にはあいにく詳しくないのだが、それが村祭で踊られるような伝統的で素朴なものである事はわかる。
下調べしたので知っていたのだが、カンボジアの民族衣装は一枚の布を巻きつけたようなもの、ノエルのスカートはまさしく布を巻きつけただけのようなものだが、写真で見た民族衣装に比べれば極端に短く、上半身に巻きつけた布も幅が極端に狭い。
まあ、ストリップ劇場で披露されるダンスなのだから露出を多めにアレンジしたのだろう。
二枚の布を巻きつけただけのノエルの肢体……小柄でスリムなのだが、日本人や欧米人のスリムさとは少し趣が違う、その浅黒い肌の下にしなやかな筋肉を隠してことが伺える体だ。
けっしてムキムキと筋肉質なのではない、例えて言うならスポーツで鍛えた小・中学生の体、ぐっと筋肉が張り出しているようなものではないが、しなやかで疲れを知らない筋肉を効率良く付けたような肢体だ。
胸や尻はそう大きくない、決してないわけではないが、無駄に大きくはないのだ。
乳房は本来乳飲み子のためにあるもので、男の歓心を誘うためのものではない、尻の脂肪もクッションのためについているもので、振って見せるためのものではない。
ノエルの肢体は人間が本来持っている機能的な美しさをそのまま現したような肢体なのだ。
ノエルはちょうど日本の泥鰌すくいで使われるような籠を手に舞う、どうやら魚捕りの動きを模したダンスのようだ。
そして、それを踊っている時のノエルの表情……写真で見せる挑戦的な表情とは全く違う柔和な表情で、故郷のダンスを懐かしみ、大事に踊っているかのように見える。
ダンスも、薄い布を巻いただけの乳首の形が伺えること、巻きスカートの合わせ目から内腿がチラチラと覗く程度で、エロティックな要素はあまりない、しかし、観客もその素朴な踊りを楽しんでいるように見える、日本の農村部でも一昔前までは踊られていたような味わいがあるのだ、ノエルの表情と同じく、観客の表情も穏やかで優しい。
ひとしきり踊ると、ノエルは衣装替えのために優雅に袖に引っ込み、しばらくは無人のステージにゆったりした民族音楽が流れる。
しかし、後半は全く趣が変わった。
民族音楽がフェードアウトすると、一転してロックバンド、アイアン・メイデンの轟音が響き渡る。
浦和ミュージックホールの客層には、とりわけカンボジア農村部の素朴な民族舞踊を堪能していた年齢層のお客には少しばかり刺激が強すぎ、馴染みも薄いヘヴィメタルだ。
しかし、へヴィメタルにはやや年齢が高すぎると思える観客も、その轟音に眉をひそめたり引いたりはしない、後半のノエルのショーにはそれしか考えられないほどにマッチしているのを知っているのだ。
唐突にノエルがステージに飛び出して来る。
その衣装は薄いグレーのワンピース、そう言うと大人しい衣装のように聴こえるかも知れないが、実際は全く違う。
色はグレーだが一様ではない、元は白かったコットンが汚れてグレーに染まったようなもの、形も一枚だからワンピースと言うだけで、むしろ男物のランニングシャツに近い。
そしてところどころ裂けて浅黒い肌が露出している。
露出と言えば乳房もだ。
胸が大きく開き、脇も広く開いているので、動きに合わせてチラチラとのぞいてしまう。
丈もかなり短め、そしてその下に穿いているパンティはおよそそっけないもの、ただの白いコットンのパンティだ……もちろん股上が浅いビキニではあるが、エロティックにデザインされたものではない。
ノエルの踊りは激しい、いや、踊りと言うより激しいロックに陶酔して髪を振り乱し体を震わせ、四肢を激しく動かし、天を仰ぐ……振り付けされた動きではなく、ノエルの中から迸り出る感情をそのまま表現しているかのようだ。
そしてあの顔、あの瞳で客席を睨み付ける。
計算された露出もない、あるのは緩くて短い衣装に包まれた激しい体の動き、そしてそれに伴う露出だけ、ただし、ノエルに隠そうという意思は全く感じられない。
いわば『見るなら見て!』と言わんばかりの露出だ。
激しい動きに、ノエルの肌に汗が浮かんで来ると、浅黒い肌は妖しい光沢を放ち、顔に張り付いた黒髪がその表情に凄味を加える。
そして、これだけは振り付けで決まっているのだろう、ノエルが回転ステージの中央に進み出ると、ステージが回り始める。
そしてノエルは自分の体からむしりとるかのようにワンピースを取り去り、もどかしげにパンティを脱ぎ捨てるとステージに跪く。
そして膝を大きく開いて激しく腰を上下し、前後させる、その動きはまるで騎乗位で腰を振っているかの様、もしノエルの下に横たわっていたなら摩擦熱でペニスから煙が立つのでは無いかと思えるほどの激しさだ。
その腕は空中にある見えない何かをつかみ取ろうとするかのように激しく動き、やがてそれは腰を中心とした大きな動きに変わって行く。
そしてエンディング。
ノエルは大きく開いたまま膝立ちになり、両腕を天に差し伸べながら天を仰ぐと、膝をついたまま後ろへ倒れこんでしまう……。
へヴィメタルの轟音は止み、ノエルは腰を突き上げたようなポーズのまましばらく回り続け、観客はその性器を堪能する……と言うより見せ付けられるのだ。
肌は汗にまみれて妖しく光り、荒い呼吸は腹を上下させる、そしてその表情は放心したかのよう、挑戦的だった瞳も虚ろに力を失っている。
何かに怒りをぶつけているかのような……それがノエルのステージなのだ。