愛×ＡＩ傘《あいあいアンブレラ》｜第13話：生命はいくらで買えますか？

そうですね、まずクレジットカードの登録をしていただくところからですかね？

ＡＩ(アイ)が正式契約の説明を始める。なんていうか…、少なくても決済方法は、フツーのゲームとかと同じみたいだ。

ああ、カードね？

カード、カードと……

確かどちらかのカードは止められていた気がするのだが、どっちらだったか……？

それで、お値段の方ですけど……。月額の基本料金プランなどがありまして、

ああそうか、その説明をまだ聞いてなかったな…。まさか、ムチャクチャ高かったりしないだろうな？

まあ、お安くはないですけど…、でも他のご利用のお客様からは、「大変お得だ」とご評価いただいてますよ！

ウェッティ・パンドラ(かいしゃ)の人達も、

「とんでもない“ご奉仕価格”だ」って言ってます

そ、そうか……。で、いくらなんだ？

はい、”サンキュー価格”でのご提供になりまーすっ！！

なるほど…、月額390円か。

確かに安くはないな…。なんたって、今どきのスマホアプリは基本料金０円が常識なワケだし…

でも…、確かにお得だよな？

何しろそれでＡＩ(アイ)と一緒にいられるんだから…。

そうだ、基本があるならオプションもあるんだろ？

じゃあ、それも付けたらいいじゃん！

何でもカンでも、とは行かないけどさあ、

おねだりしていいぞ～、ＡＩ(アイ)！

あのぉ…、マスター…、その”サンキュー価格”じゃなくって…

え…？どういうこと？

まさか…月額39円とかじゃないよね？

………。

もしかして……、まさか……まさか、

月額３千９百円もするってのかよっ？！！！

あ…あり得ねえだろ？スマホゲームでそんな基本料聞いたコトねえって！

だって…、それってもう、格安スマホの月額料金じゃん？

ガチャで巻き上げられるよかマシとかいうレベルじゃないよねっ？！

あの…マスター…、月額３千９百円って……高いんですか？

はあっ？高いに決まってんだろうがっ！！

……！！

俺のあまりの剣幕にＡＩ(アイ)がビクッと首をすくめる。

ＡＩ(こいつ)を威嚇する気なんてさらさらないし、それが筋違いだってこともわかってる。わかってるけど……、

けど…、ほぼ４千円だよっ？

富士山が４つ分だよっ？？

あの…富士山って……？

知らないの？

千円札の裏側に描かれたあの富士山だよっ！！

むかし流行った”ユルいキャンプのアニメ”で有名になった“本栖湖の鏡富士”ってヤツだよ！

あの湖面の”逆さ富士”は、実は、”モーゼの十戒”の舞台になったシナイ山なんじゃないの？っていうウワサの絶えない、あの図柄だよ！！つまりだな、４千円というのは、日本とイスラエルの霊峰を、計八つ分合わせた金額なんだよっ！

それを毎月だよ？痛いよ！死ぬほど痛いって！

「痛い」ってそんな……。

つまり、マスターににとって月額３千９百円というお金は、〝落ちたら痛いくらいの高さ“という理解でよろしいでしょうか…？

そうだよっ！自動引落(おちた)ら痛いレベルの高額(たか)さなんだよ！

富士山標高３７７６ｍとシナイ山標高２２８５ｍ、それぞれ４つ分の合計２４２４４ｍの高額(たか)さなんだよっ！

伝達内容に若干の不正確さ(ミスコミュニケーション)が感じられるが、今は気にしていられない。

どうしましょう？マスター……

どうしようったって…

ＡＩのマジな心配顔を見て、少し反省する。ＡＩ(アイ)に文句を言ってもはじまらないのに。だってこれは、ウェッティ・パンドラ社が設定した価格帯。

江戸時代の女衒(ぜげん)や遊郭と同じ手口…。

でもそれを承知で正式契約することを決めたんだ。言うなればこの３千９百円は、ＡＩ(アイ)というAIの、存在(いのち)の身代金。俺が払わなきゃ、ＡＩ(アイ)が殺される…。そういう取引…。

財布へのダメージは相当大きいけど、引けねえよな……。

金が自動引き落しされるからといって、ここで引いたら、俺…男じゃないよな…！

ＡＩ(アイ)…、悪かったな。取り乱したりして。

ついさっき、ＡＩ(おまえ)と一緒に戦っていくって約束したばかりなのにさ…。おまえの生命がこの金で買えるなら、安いものかもしれねえってのに……

あの…マスター……

なんったって、おまえの命の代価だもんな！

うん安い！

絶対安いぞ、コレ！

こんなお買い得価格、アメ横の

”毎日やってる閉店セール”でも

滅多にお目にかかれないっての！！

俺はＡＩ(アイ)に余計な気を遣わせたくなくて、精一杯気丈に振る舞って見せた。

けど、ＡＩ(アイ)の表情は浮かないままだった。

そうじゃなくて…、あの…、サンキュー価格って言うのは……

え…？なんでそんな顔してるの？どういうこと？

なんかすごく嫌な予感がするんだけど？あれ何？この感覚？また揺れてる？でもさっきのとは違って、俺自身が揺れてるっていうか、小刻みに震えてるっていうか…。頭痛と揺れは関係ないよね？それに、別にビンボー揺すりとかしてないよ？それに俺、ビンボーだから強請(ゆす)ったって何も出てこないよ？

それなのに……、なんで俺、こんなにガタガタ震えてるの？　あ、なんか汗出てきた…。冷や汗と脂汗が同時に出てきた……。

マスター！私、言っちゃいますっ！　清水の舞台から！いえ東京タワーの上から！いえスカイツリーの上から！　いえドバイのブルジュ・ハリファの先っぽから、って言うか、この部屋の窓から、飛び降りたつもりになって言っちゃいますっ！！

あの…ＡＩ(アイ)？　最後が一番低くなってるよ…？

私の利用料(おねだん)は、

月額…、さ…３万…9千円……です…！！

…しかも税抜き、……なんです！

あれ？ここドコ？

日本だよね？

俺の住んでる町だよね？

俺の家の、俺の部屋だよね？

な、なのに、俺の世界の常識が…、

全部吹き飛んじまってるっていうか…、

って、言うか…、って、言うか…………、

て、言うか……、

さ、さ、さ、さ、さ、さ、さ、さ、さ、さ、

さ、さ、さ、さ、さ、さ、さ、さ、さ、さ

……３万…３万９千円………

なのぉぉぉーーーーーっ？？？！！！！

それが、価格？　

ＡＩ(アイ)の生命(いのち)の？？

それって、それって………、

高っっけっえええええええええええええええええええええーーーーーっ！！！！！！

マ…マスター？！

ブルジュ・ハリファどころじゃなくて

富士山とシナイ山の３９倍だよ？！

標高２３６３７９ｍって、もう宇宙だよっ？

『飛び降りる』っていうより、

もうそれ、“大気圏突入”だよね……？

このままだと俺…俺…、

真っ逆さまに、

破綻という現実(じめん)に……、

お、お、落ちるうううーーーーーーーっ！

現実(ちじょう)に激突するよっ！！

いやその前に、燃え尽きちゃうよおおおっ！！！

え？　マスター？！！

どうしたんですか？

落ちちゃダメですっ！

燃え尽きちゃダメですよぉっ！！

ヤバいよ、ＡＩ(アイ)……、

睨(にら)まれよてるよぉっ！

あの人達が目が……、

ジーッと睨(にら)んでるんだよぉっ！

３人の福沢諭吉先生と、

９人の野口英世博士と、

そして“透かし”に隠された

フリーメイソンの目までが…、

上から目線で

こっちを睨んでるんだよぉぉっ！！　

助けてくれっ！

このままじゃ俺、死んじゃうよぉっ！

助けてくれよぉっ！

ＡＩ(アイ)、ＡＩ(アイ)―――ッ！！

うわあああああんーーーっ！　

死んじゃイヤですっ！

死なないでください！！

マスター…、マスターってばあーーーっ！！！

”現実”という巨大な敵を前に、

そのあまりの心細さに、

俺とＡＩ(アイ)は、しばらくの間、

泣き続けた。

そして俺は悟ったんだ。

“現実”ってーー、

　”金”のことなんだって………。

第13話：生命はいくらで買えますか？

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