第10話:笑顔は何処にありますか?
文字数 2,428文字
不思議すぎることに、俺は今、親子3人で朝メシを食べている。
しかも、楽しくにぎやかに。
当たり前すぎる家庭風景だとしても、俺にとって団欒は、
とてつもなく遠い場所だったはずなのに、なぜか俺は今、その真ん中にいる。
俺の作った朝メシと、
そして―――、
いやー、ホント、スミセンねえ・・・? 勝手にお宅に上がり込んじゃってぇ…。
しかも、こんな真ん中の場所に置らせてもらっちゃってぇ…。
恐縮です、恐縮、エへへへ・・・・・・
訂正しよう。
これは、当たり前の家庭風景などではなかった。
少なくとも現在の、一般社会常識の範疇には、
収まっていないことは、確かだった――。
はっはっは!
それにしても驚いたよ…。
世の中は、気が付かない間に、
ずいぶんと進歩んでたんだねえ・・・
いやー、私なんか、まだまだです。
お恥ずかしい限りですよお・・・
なんでAIが謙遜してんだよ?
父ちゃんの話の主語は「世の中は、」だっただろうが?!
ちゃんと聞いてろよ!
それにしても、だ。
テーブルの真ん中にスマホ立てて、キャラクターAIと会話しながら、違和感なく食事する両親と、
その隣で居心地悪そうに黙々と飯を食ってるいい年齢した息子の姿って、
なんか、もう、すげーシュールな構図だよな?
もしかして俺たち一家は、一家団欒のイノベーション過程を、先行体験させられているのか?
そしてまさか、昭和のキャッチコピーの、「一家に一台、カラーテレビ」みたいに、
「一家に一体、キャラクターAI」などというCMが流れる時代が来るとでもいうのか?
「一家に一体」じゃなくて、「一人に一体ずつ」です、お父さま!
すぐそこまで来ているんですよ、
いつも一人一人のお傍で、キャラクターAIがお世話をするという時代が…
キャラクターAIの対人口比率、勝手に上げちゃダメだから!
AIの言うことを、全部真に受けちゃダメだぜ?父ちゃん。
はいっ!これからのAIは、情報処理の道具じゃなくて、
人とともに人生を歩むパートナーになるんです。
それが人類の新しいライフスタイルなんです!
ふうん・・・、なんだか、
ファンタジー小説なんかに出てくる
主人公の勇者に乗った妖精さんが、
現実世界に現れたみたいなお話だねえ…
オイ、何のつもりだ?
父ちゃんをおだてたところで、何も出てはこんぞ?
ただの安サラリーマンなんだから。
でもぉ・・・、お父さまに、
「妖精さんに似てる」
だなんていわれたら、照れちゃいますよお・・・
はあ?なにが『妖精さん』だ?
段々お前が、使い魔かグレムリンに見えてきたぞ。
妖精さんだけに、
要請してもらったら、
飛んできちゃいます!
なんちゃって・・・
ほう・・・、AIちゃんは、オヤジギャグにも対応できるのか?
素晴らしい!その若さでたいしたものだ…。
オヤジギャグというのはねえ、つまらなさこそが命なんだ。
その場にシラケ鳥が飛んでナンボのものなんだよ!
ところでキミは何歳なんだね?
ほう、そりゃまた若いねえ!
エラいぞ、AIちゃん・・・
悪い夢でも見ているのか?
朝から俺の目の前で、父ちゃんとAIがオヤジギャグ談義に花を咲かせているぞ…。
そして、「シラケ鳥」ってどんな鳥??
googleれば出てくるのっ??!!
カヤの外っていうか、全く話についていけないんだけど・・・。
でもAIちゃんが「妖精」っていうのは納得よ。
だって、ほんとに可愛いらしいもの…
俺ですらついて行けない会話に、母ちゃん平然と参戦しちゃった??
いかん!俺としたことが、思わず会話に入っちまった……。
あーあ、
でも良にも、
AIちゃんみたいな女の子が…
俺はお約束のように、味噌汁を口から吹き出す。
もちろん、AI《アイ》の顔である
スマホ画面に向けて。
いえ、そんなあ…、
私なんかには、もったいないですよ~
AIはハンカチで顔を拭きながら
母ちゃんに笑顔を向けている……。
オイ、画面の中で顔を拭いても、全く意味ないぞ……。
でもぉ~、お母さまがそうおっしゃってくださるならぁ、
私、頑張っちゃおうかなあー!
な~んて・・・
勘違いするなよ?
「みたいな」って部分こそが、重要キーワードなんだからな!
誰もAIなんぞに息子をくれてやるとは、言ってねえんだぞ?!
で・・・、良のヤツとは、上手くやっていけそうなのかね?
たまらず俺はゴハン粒を吐き出してしまう。
もちろんAIの顔の上に……。
あっ、と思った瞬間、スマホ画面の中のAIの服装が
一瞬でネクタイとスーツ姿にチェンジしていた。
太縁のマジメ眼鏡をかけて、フワフワの髪も七三分けに改まっている。
お父様、お母様…。
私、AIは、
良さんを必ず幸せにしてみせます。
ですから、息子さんを……
私に、いただけませんでしょうかあーーっ?!!
父ちゃんと母ちゃんは堪えきれず爆笑。
俺はと言えば、
AIをスマホごとたたき割りたいという抑えがたい衝動を
堪え続けていた。
などという会話を残して出掛けて行きやがった……。
っていうか、
俺の両親の適応力、まじヤバくね?
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