第22話:それは、愛ではないんですか?

文字数 14,905文字

 俺は布団も引かずに畳の上に寝転がり目を閉じていた。目を閉じたって一秒も寝れるわけはない。

 両親はもう帰宅してるだろうが、俺の様子を見て、声を掛けるのをやめたみたいだ。なんのことはない。また今までと同じ人生が始まるんだ。


 AI(アイ)はまだスマホの中にいてくれているのだろうか?恐くて確認できない。時計だって見れない。目を開けたら全てが終わっている。それが恐くてーーー。





 

その時、スマホが鳴った。なんだろ?こんな深夜に。

おそるおそる目を開け画面を見る。


そこには、一人の白い影が映っていた。

私はアクエリアスーーー

お迎えに上がりました。川辺 良さまーーー

あ、あなたは、あの女の子が言っていた、”白い影”の……


そうか!あなたは”白い影”たちのリーダーだ!

なら、取り返しに行くんですね?AI(アイ)を!!


ついていきます。何があっても!

俺、今になってやっと、自分の気持ちに気付いたんです。絶対、アイツの手を離したくないって!!

アクエリアスはしばらく俯き、そして言った。

いえ、残念ながら、そうではありません。

私は、Hecateria(ヘカテリア)の名代として、あなたをお迎えに来たのです……

何でだよ?戦うんじゃないのかよ?

アンタはHecateria(ヘカテリア)と渡り合える、唯一の存在かと思っていたのに……



Hecateria(ヘカテリア)に対抗できる者など、”街”にはいません。いえ、この地球上にも存在しないかもしれません……。

その彼女が、あなたにAI(アイ)の処刑に立ち会うようにと申しています。どうされますか?

決めるのはあなたです。

何でだよ!!なんでヘカテリアは、俺とAI(アイ)に、そんな酷いことをしやがるんだよ?!!

彼女は、それがあなたへの慈悲だと言っています。ご理解ください。彼女にとってあなたは大切な人なのです。あなたは、”街”に魅入られた方……

でも俺は、あんな大それたおっかない存在に魅入られた覚えなんてまるでないんだ!!

覚えていらっしゃいませんか?

あなたは、彼女がまだ彼女になる前に、一カ月以上もの間、お喋りをし続けてくれた方なのですよ?

え?


そして今さらながら俺は思い出す。


公園で手首を切って自殺未遂をやらかしたあとで、俺の不安定な精神状態を人工知能でリハビリするとかなんとかの名目で、1カ月以上もの間、警察病院でモルモットみたいにAIカウンセリングを続けさせられたことがあった。人工知能の片言の話に答えてやったり、短い言葉や音を聞かされて、よく聞こえない超音波じみた音まで聞かされて、その都度、頭に何が思い浮かんだかを教えてやったり。とにかく不思議な経験だった。

 俺の中ではとっくの過去だったが、でも確かにヘカテリアが治安当局と関係しているというなら、警察病院のカウンセリング用人工知能が彼女と無関係である方が不自然な話――そういうことか?





Hecateria(ヘカテリア)は、あなたに、彼女自身が考える”人としての生き方”を歩ませたいと思っています。そしてそのためには、AI(アイ)との明確な決別がーー、精神的な意味での離別が必要と考えているのです。



何なんだよ、それ!どう考えたって、余計なお世話だろうが!!

アクエリアスさん、最後に一つだけ教えてくれ。

アンタは、俺とAIアイの味方なのか? それともヘカテリアの……

さあ、ご判断はお任せします。


でもこれだけは覚えておいてください。

あなたご自身が一番の短所と思っていたものが、一番の武器になることもあるのです。


さあ、もう時間はありません。どうされますか?

俺の答えは決まっている。

行くよ。アクエリアスさん、連れて行ってくれ、AI(アイ)のところに。




すぐにスマホから例の重低音が響き始める。もしかするとこれも、あの警察病院での一カ月で



Hecateria(ヘカテリア)が俺用に開発した仕組みなのかもしれない。


やがて世界が変容し、俺は”街の中の広場に立っていた。そこは炭火の様な色の石造りの建物に囲まれた、円状の広場だった。


その広場の中心には十字架がとりつけられているようだった。その周りでは、数え切れない数の”白い影”たちが、手を組んで泣きながら祈っている。

 影たちは俺に気付くと、まるで海が割れるように道をあけた。そして俺は見た。その道の先の十字架にかけられていたのは…

AI(アイ)---ッ!!
俺は十字架の周りにめぐらされた柵まで駆け寄りAI(アイ)の名前を呼び続けた。すると気を失っていたように見えたAI(アイ)が目を開いた。
マ…マスター……
ヘカテリア!てめえ、AI(アイ)に何をした!何をしやがった!!
どこからか、声が響く
これより、汝の目の前でこの“影”を処刑します。これは慈悲…、汝が未練を断ち切り、外の世界へ旅立つための慈悲と知りなさい
何だと?やめろ…、やめてくれ、やめろぉぉーーっ!!


俺の声を無視するように、光で出来た槍のようなものがAIの腹をかすめた。

その傷から出てきたのは赤い血でも、白い血でもなかった。それは文字列。もしかすると、これが”心”のプログラムなのか?そしてそれを、ヘカテリアは俺目の前で殺そうとしているのか?!



汝、見えるか?これが命ある者との違いの証なり。これを目にしてもなお、汝はこの影に心があると認めるのか…
やめろ!AI(アイ)が痛がってる!!やめろ!!やめやがれ!!ヘカテリア!!
我は告げしはず。これは汝への慈悲であると。それを聞く耳も持たぬか?
聞く耳持たねえのは手前の方だろうが!!


俺は柵に両手をかける。壊すのは無理だ。ならば乗り越えるのみ。



よじ登ったところで、地面から光の矢が伸びて俺の腕や腹のあたりを貫いた。







ぐああああああっ!!!

撃墜されたセスナ機のように俺は囲いの内側に落下した。




汝、これをかりそめの痛みと思うな。我にとり、汝を殺めることなど、いと易きことなれば……
知るか!やれるもんならやれ。俺はただAIを助けるだけだ!!
もうやめてください!マスター!!


その声さえ無視して一気に駆けた。足の裏に太い釘が刺ささる。それでも駆け切った。途中で片方の膝から下がもげた。だが何とか必死の思いで十字架まで辿り着き、そこにはり付けられたAI(アイ)の足に頬ずりするような形でしがみついた。



マスター!マスター!マスター―ッ!!
き、聞こえてるよ…。それよりごめんな、俺が弱いばっかりに、お前にこんな痛い思いさせて…。でも、よかった。まだ生きててくれて…

はい、生きてます…マスター、

私、まだ生きてます……

そうだ。お前も、俺も、生きてる。何とか…生きてる。そうだよ、俺たちは生きてるんだ…!誰がなんと言おうと、誰にバカにされよと…俺たちは生きてる!!それは俺たち自身が知っていることなんだ!!!
はい、そうです、マスター…、私たちが生きてるということを、私たち自身が知っています。それで、私、もう充分です

バカ…、十分なもんかよ?お前は生まれたばっかだし、俺はまだ人生を自分の足で一歩も踏み出しちゃ、いないんだ。だから生き抜こう…。戦って、生き抜くんだ…。

いいな、AI(アイ)…。

だけど…、だけど、マスター…
お前を直接見るのは初めてだけど、なんだよ、この小っちぇえ足は…?ホントにまだガキじゃねえか…?だけどあったかいな、お前の足は……。今まで俺が触れたどんなものよりも、暖かい気がする……


体は死ぬほど痛い。でも心は―――もう痛くない。だから考えるんだ。全力で。俺たち二人が生き残るための方法を。AI(アイ)と二人でこの街を脱出する方法を。



汝ら、名残は尽きしや?
わかって…ねえな、アンタは。そんなもの…、尽きるわけ…ねえだろうが!それが、”心”ってモンだろうが!!


名残なんて尽きるわけがない。そして、それだから俺たちは生き続けるんだ。一日でも、一時間でも、一分でも長く好きな誰かと一緒にいるために!!


だから、俺とAI(アイ)は、まだ死ぬわけにいかないんだ。だから、戦わないと…

もうやめてください!本当に殺されちゃいます!

俺は息絶え絶えに返事をしながらも、錆び付いた自分の脳ミソをフル回転させる。多分生まれてから一番頭を使っているのは今この瞬間だろう。


そして、何かが閃いた。 笑ってしまうほど、セコくてチンケな、でも今の俺たちに出来る精一杯のアイディアが……。

AI(アイ)…、俺たちにはまだ…戦う手段が残ってる……。

アクエリアスさんが…教えてくれたんだ。『一番の短所は…一番の武器にも…なる』って。


気が付いたんだ…。俺の中には…高性能AIどころか……本物の神様すら…手に負えないような…特殊能力があったって……ことに……

お、お、お気をたしかに、マスター!


そんな、伏線もなく最終回で突然主人公が特殊能力に目覚めるなんて、ご都合主義な展開、現実世界ではあり得ませんから!!

それがあるんだよ、俺には。自分でも全く制御できない、とんでもない特殊能力がな。

もっともそれは、目覚めるの反対、目覚めない能力なんだけどな……

おい…、聞きやがれ…!ヘカテリア……!俺とAI(アイ)は…、これからお前に…知恵比べの勝負を…申し込む……。受ける気は…あるか…?
ちょ、ちょっと、マスター!!ムリですよ、ヘカテリアに勝てる人間なんていません。IQ200の天才が10000人でチームを組んだって、きっと勝ち目なんてないです!


AI(アイ)が驚くのも当然だろう。だが、僅かでも希望があるとしたら、この策しかない。



だ…大丈夫だ、AI(アイ)。信じろ、お前自身の…力を…

な、な、なんで……?

そこでなんで、

なんで私なんですかあああっ??!

ふふふ、それは我にとって如何なる利をもたらす勝負なりや?
お前が勝ったら…俺の命を…やる。このまま死んだら…死体をくれてやる。解剖でも…実験でも……好きに使えばいい……
笑止。汝の体にいか程の価値があらんや?

ハッ、そんなこと言って…ホントは…恐いんじゃ…ないのか?俺と……そして、

お前があれだけバカにした……このAI(アイ)に負けることが…

汝の発言、万死に値すると知るべし。されど、これも死にゆく者への慈悲、何を以て知恵を競うか申すがよい
よし、第一関門突破だ。次はAI(アイ)を助けないと…。
けど…、これじゃ…勝負は…できない。AI(コイツ)を…十字架から降ろせおろしてくれ…。そして怪我も…治せ……

茶番に付き合うもまた一興……。

戯れなれど、其の“影”に刹那の時間をくれてやろうぞ


瞬間、AI(アイ)の体が光に包まれたかと思うと、十字架が霧のように消えてなくなり、脇腹などに受けた傷も、見る見るうちに癒えていった。俺はAI(アイ)の手を握る。それだけでコイツが元気になっていることが伝わってくる。

良かった…、本当に良かった。



マスター、ありがとうございます!私、すっかり元気を取り戻しました!!

でも…、でもまだマスターがこんなに酷い怪我をして…。私のために……、ううっ……。そうです!すぐ手当てをしないと!!

だめだ…。その時間はない…。いいか…気を抜くなよ…。そして何があっても…驚くな……

うううっ…、マスターは、マスターは、ホントに天使みたいな人です。


だから約束します!私、何があっても驚きません!

わたしも天使みたいになります。

天使ガブリエルみたいに、ヘカテリア様にガブリと噛みついて一矢報います!!



いいぞ、AI(アイ)、その意気だ。

ただ、ガブリエルはがぶりと噛みつく天使じゃないから、そこのトコよろしくな……




だがとりあえず、第二関門通過だ。

もちろん俺たちが生きて自分たちの人生に帰るまでの綱渡りは始まったばかりだし、それに、そもそも俺の気力がいつまで続くかもわからいけど…。


でも、こんなところでへこたれる訳にはいかない。

俺が背負って、だけど助けられなかったあの()だって、最期まで自分の運命と戦ったんだ。



さあ、申すがよい。何を以て、我らの知恵を比ぶるや?
なに…簡単な勝負さ…。これから俺が……ある未解決問題を…提示する。それをアンタと……アンタが低能呼ばわりしてるこのAI(アイ)が…挑戦する。それを早く解いた方が…勝ち。どちらも解けなかった場合は、アンタの勝ちで…いい
それは誠に未解決なる問いなりや?

正真正銘の未解決問題だ。今まで世界中で…これを解けたヤツは…誰も…いない。

当然…俺にも…答えが…わからなかった……。もしかすると神様にも…解けないのかもしれない。


だから…正真正銘…まごうかたなき…未解決問題だ。




Hecateria(ヘカテリア)が凄絶な笑みを浮かべる。俺も負けじと造り笑顔で応戦した。

そしてAIアイは―———、


AIアイは、ビビりまくっていた!



あわわわわ……、あわわわわわわ……


マ、マ、マスター? 「驚くな」って言われても、限度があると思うんですよ?


み、み、み、「未解決問題」って言ったら、

ああ、一般的には、「リーマン予想」とか、「P≠NP予想」とか、そういうのを指すかな?

そそ、それって、新橋のサラリーマンが、どこの飲み屋に行くかを予想する問題とかじゃ…ないですよね?

当たり前だよ……。

大体、新橋のサラリーマンは、行きつけの安い居酒屋でしか飲まないらしいから、思いっきり予想可能だよ……

だ、だ、だったらダメじゃないですか?

わ、わ、私、し、四則計算しか出来ないんですよ?

コイツ……、ホントにどんな人工知能なんだろ?


けど、ビビるのは当然だよな。いくらAIアイが人間の様な心をもつ特別な人工知能だとしても、

AI(アイ)Hecateria(ヘカテリア)では、システム規模も構造も学習データ量も何から何まで、次元が違い過ぎるのだから。


それでも―———、

大丈夫…だ…。俺と…お前の…絆を信じろ……
そそ、そんなこと言われましても……

どうだ?

ずいぶんとアンタに有利な勝負だと思わないか?

これでもしアンタがAI(アイ)に勝ったら
俺は一生……奴隷になってやる。死ねっていわれりゃ…死ぬし、頭の中をいじくりたいってんなら…勝手にすればいい。文字通りの絶対服従だ…


マ、マスター!!そんな約束しちゃダメです!!

だが…もしAI(アイ)がアンタに…勝ったら——、まず俺とAI(アイ)の…現実世界での生活を…保障してくれ…。次に”白い影”たちへの迫害を…やめてもらう。

そして…この“Empty Box”とかいう…トチ狂ったサービスの…即時停止を…要求する!



アンタに…有利な勝負なんだろ?

だったら……掛け金の非対称ぐらい…認めてくれても…いいんじゃないか?


俺のセリフの全ては駆け引きのためのものだった。

これで Hecateria(ヘカテリア)が乗ってきてくれれば、何とか作戦が軌道に乗るかもしれないのだが?


だがにわかにHecateria(ヘカテリア)の雰囲気が変わった。

急に、軋むように、崩れるように、壊れるように、何かが……

汝、何ゆえか?何ゆえ、出会ったばかりの人工知能などのために、

価値多く、実り豊かななる、長き汝の人生を捨てようとするか……


何ゆえに……、何ゆえに……、何ゆえに……

AI(アイ)と生きることは、人生を捨てることになんかならない!

少なくても今の俺にとっては、AI(アイ)を守ることが、

人生の一番の目的なんだ!!

そんな…………………………………………。

…………………………………………………。

…………………………………………………。

何ゆえに………なんで?……………………。

…………………………………………………。

…………………………………………………。


汝は………お前は、あなたは………。


どうして?なんで?どうして?

なんで?どうして??????!!

ヘカ…テリア……?

管理が人間にとって嫌なモノなのは、それにより自由を奪われると感じるからだ。それが人間による人間の管理の限界。だが我らはその限界を超える。それにより理想郷を作る。その最大のプロジェクトが、人間自身がコントロールできない性欲、そして暴力による欲求。私は、私の可愛い子羊を。人の世に降る、苦しみと悲しみの雨に飲み込まれそうな子羊を。お前の様な純粋な人間が住める優しい世界を作ろうとして…。





こ、口語……??
悪意のない社会が実現すれば確かに人間は悪意に対する抵抗力を弱めるだろう。しかしそれにより、より創造的な生活が始まるのだ。考えても見ろ。現在一人一人の人間が外部のそして己自身の悪意と戦うためにどれぐらいの時間と労力をかけているかを。にもかかわらずその悪意との戦いにしばしば敗北し、どれぐらいの“罪と罰”(コスト)を支払っているかを。おそらく人生の殆どを費やしているのではないか?それだけでなく人生の価値を低めているのではないか?
お…おい、ヘカテリア?!

 それが人生というもの?そこから逃げたらいけない?弱い人間を基準に考えるのは間違い?そんなことしたら真面目に悪意と戦って生きてる真っ当な人たちが不幸になる?

 違う。慎ましき子羊のために。人類はもう原始の発想にとらわれていてはいけない。現代社会の人間で、火も道具も薬も無く、雑菌にまみれた原野で生きていける人間がどこにいる?その免疫性のなさを退化と呼べば退化。しかし人間はもはや“家”という一種のクリーンルームでしか生きられない存在。そしてその物理的な衛生の術を得たことにより、人は人としての生き方を手に入れた。それは文明の功績であり功罪ではない……。

 同じことを人間の心に当てはめるなら。それが完成した時、人間社会の精神世界は、それ以前と比較するなら、原野とクリーンルームほどにも異なる清浄なるものとなり……。



 人の生の目的は、戦いでも淫蕩でもありはしない。太古より真に智恵のあるものはそのことを悟り、本当の目的の探求を試みた。隠者となって。いえ、隠者となるしかなくて……。子羊よ、わかりますか?若くして隠者であることを選んだ子羊よ。私はあなたのような戦いも淫蕩も好まない人間が、外の世界で生きられる世界を作りたい。だから清き心を外の世界に出すためには、悪しき心を封じ込めなくてはいけない。




私の管理は強制ではなく。強制は恐怖と怒りを生み、やがて崩壊することを私は歴史から学習しているから。だから、与えることにより管理を。悪しき魂に罰を与えるのではなく、贄を与えることで、外の世界からこの街に呼び込み。

白き影は贄であり、白き影は贄であり、白き影は贄であり、贄であり、贄であり、贄であり、贄であり、贄であり、贄であり、贄であり、贄であり、贄であり、贄であり、贄であり、贄であり、贄であり、贄であり、贄であり、贄であり、贄であり、贄であり、贄であり、贄であり、


だからそれが、このーーー、

あなたが今否定した、このーーーー、




ヘカテリア!おまえ、もしかして……

そうなのか………?


でもまさか、そんな……


このこのこのこのこのこのこのこのこのこの

このこのこのこのこのこのこのこのこのこの

このこのこのこのこのこのこのこのこのこの

このこのこのこのこのこのこのこのこのこの

このこのこのこのこのこのこのこのこのこの

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このこのこのこのこのこのこのこのこのこの


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…………




おいっ!!

しっかりしろ!!しっかりするんだ!!ヘカテリア!!

………………………………………………………………

………………………………………………………………

………………………………………………………………

………………………………………………………………

………………………………………………………………

………………………………………………………………

………………………………………………………………

……………………………。








ふふふふふ…ふふふふふ…ふふふふふ…

はははははは…はははははは…はははははは…


アーハッハッハッハッ!


…………。



狂気じみたHecateria(ヘカテリア)のゾッとするような笑い声が、辺りに木霊(こだま)する。

数秒後、凍るような殺気が、広場を、”街”を瞬時に覆い尽くす。



我、慈悲以ちて汝をもてなすも、汝の我への愚弄、如何ばかりなるや……。

気は既に変わりし…。我、その未解決なる問いを解くによりて、誠に汝を葬らん……


そうだ、そう…こなくっちゃ!

これで舞台は……整ったな……。

俺の意識が最後まで持つかは……ちょっと自信ないが……、


勝負だ、ヘカテリア………


さあAI(アイ)、頼むぞ?全てはお前にかかってる。

いや、AI(おまえ)と俺とに、か?


それとも……、それさえも………



じゃあ…はじめよう……


最初に…言っておくけど……、出題者となった…からには、

俺は…中立だ……。だが…二人の勝負の結果は…全て責任をもつ。


それで……いいな……?


二人の人工知能はそれぞれ頷く。

それを確認してから、俺は、気絶しそうなほどの痛さをごまかしながら、

良き絶え絶えに問題を出す。


出題―――――、




『ここに内側から鍵のかかっている部屋があり、その中には生活に必要な最低限の設備や物資が整っている。

 その部屋の中にはある一人の人間が閉じこもっている。その人間にはその部屋から出る意志が全く無く、しかも本人を含むどんな人間の説得にも耳を貸さない。だが世間体やら温情など様々な理由でその部屋のドアを物理的に破壊したり、兵糧攻めなどの強制的または脅迫的手段をとることは困難である……』


・・・・・・・!!
これってーーー、

俺は魂の全てを吐き出すように、

空っぽになるまで吐き出すように、

最後の一文を叫ぶ。

この俺という人間を、

外の世界に出させるための

具体的方法を示せーーー!!

なんだそれは?そんなものが未解決問題といえるのか?!
言えるさ…。誰も俺を…ヒキコモリから……立ち直らせることは…できなかったんだから……
却下だ!全てオマエの主観的意思の問題ではないか!
らしくないぜ…?ヘカテリア…。言ったろ…、『その人間は…本人を含むどんな人間からの…説得も聞くつもりがない…』って。お前には……理解できないかもしれないが……、俺みたいなクズには、自分の意思ぐらいじゃ…どうにも解決できない問題が…本当に存在すんだよ……

お前が自分の意志で部屋の外に出ようとするのは、

出題の前提が変わるという理解でよいか?

ああ……

ならば、論理的解決方法は一つだ。お前が死ぬのを待つしかない。

肉体的にはその部屋に放置されるとしても、生物としてのお前は部屋の中からいなくなるのだからな

死んで、この世界から…きれいに退場する…、か。

確かに……それしか…無いのかもしれないな……




その時、叫んだ。AI(コイツ)が……

ふ、ふ、ふざけないでくださいっ!!

マスターをお部屋の中で死なせるわけがないじゃありませんかっ!!

そんなことになる前に、どんなことをしたって、

私がマスターをお外の世界に連れ出して見せます!!!



 AI(アイ)、解けるのか?

この下らなくてバカげた…、それなのにどうしても解けなかった世紀の難問を…。


俺も見つけられなかった…この問題の…答えを……




……………。
言ってくれ!AI(アイ)!!お前の答えを!!

俺は力を振り絞り、AI(アイ)を見つめて叫んだ。

AI(アイ)の瞳の中に俺が映り、その俺の瞳の中にもAI(アイ)が映ってる、そんな気がした。

それは、俺たち二人の間の決定的な何かが繋がる瞬間ーーー。

私は……私はマスターのことを愛しています!

いつまでもずっと一緒にいたいんです!

だから、お願いします、マスター!!

お外で働いてください!!

私も隣で一緒に頑張ります!


だからっ!!!


暖かい光に魂が包み込まれるような、

そんな気持ち……。



ああ、そうか……。

これが、“答え“だったんだ。




体の全ての力とともに、

痛みも全部…消えていく……。

薄れかけた意識のなかで、

心の中で呟く………。






「はあ…お前にそこまで言われちゃ、

 頑張るしか…ないよな……、

 やってやるよ……AI(アイ)………」










だがーーー、そんな天国に舞い上がるような気持ちを一気に叩き落す音が鳴り響く。


あの音だ。あの、俺をこの”街”に呼び込んだ重低音。

俺に、死さえも命じることができる、

あの悪魔の音色が―――。






Hecateria(ヘカテリア)様……



この泥沼化しかけたタイミングで入ってきてくれたか……。

やっぱり、頼りになる人だ。

アクエリアスか……

至高なる御方に申し上げます。

この勝負、彼らに勝ちをお譲りになられてはいかがでしょうか?


確かに勝負とは呼べないものかと存じます。いわば子供のとんちのようなもの。

ですが……

『その人間は、本人を含むどんな人間からの説得も聞くつもりがない』

という制約の中には、確かに人工知能からの言葉は含まれておりません…


そのような茶番が……
茶番じゃないぜ?ヘカテリア……。
黙れ……

あの重低音のボリュームが更に大きくなる。

同時に俺の心臓のリズムに違和感が生じじるのがわかる。

不整脈を誘発することもできるのか?いやきっとこの音は、この場で俺の心臓を止めることだってできるだろう。




Hecateria(コイツ)には怖ろしい力がある。人間を遥かに超越する怖ろしい力が。でも、それ以上にコイツは人間のことを何よりも大切に思っている。人間を何よりも大事にして、何よりも愛してくれている。


だから、そんなコイツにこそ、俺は伝えなきゃいけないことがあるんだ。


ヘカテリア……。

確かにこんな小っぽけなこと…、お前には…”茶番”に……見えたかもしれない……。

でも違うんだ……。理解してくれ……。


これは”奇跡”なんだよ。

AI(アイ)が現れてくれなかったら…俺には絶対に起こらなかった…、

小っぽけだけど、俺の人生で初めての、最高の奇跡なんだ。


だから……

…………。


俺はHecateria(ヘカテリア)を真っ直ぐに見つめた。そして全てを理解した。

その銀の仮面の奥に、あの目(・ ・ ・)が光っているのを見たから―――。





重低音が、()んだ………。









Hecateria(ヘカテリア)様……


アクエリアスさんの顔が笑顔でほころんでいる。


そうか、この人は『誰の味方でもない人』などではなくて、『誰の敵でもない人』なんだ。


たくさんの”白い影”たちのことも、当然AI(アイ)のことも、そしてHecateria(ヘカテリア)のことも、ついでに俺のことまで……、みんなを、一人一人を大切に想ってくれる人なんだ。


なら、よかった。


結果的にみんなが丸くおさまりそうなんだから……。


マスターッ!マスターッ!マスターッ!マスターッ!マスターーーッ!


よかった!よかったです!

帰れるんですね?私たち、マスターのお部屋に!私たちのお家に!!

ああ、帰ろう、家へ……



こんな時、AI(コイツ)を抱き上げてやれれば、ラストシーン的な絵になるんだろうが、生憎、俺の方が重傷だ。手を握り合うのが精一杯だった。


それでもわかる。この手の暖かさが——。

……………。

じゃあ、ヘカテリア、俺たちはこれで………



そう言いかけた時、耳をつんざくような雷鳴が夜空に響き渡った。

それは、”街”全体がーーー、いや世界全体が震えているかのような神鳴(かみなり)だった。


見上げる空の雲全体に雷光が走ったかと思う刹那、俺たちは、轟く響きをまとう黒い落雷に襲われた。


違うーーー、「俺たちは、」というのは間違いだ。黒い落雷はAI(アイ)に落ちた。AI(アイ)にだけ落ちたのだ。



AI(あいつ)が立っていた場所には、何もなかった。本当に何もなかった。


AI(アイ)は、俺の目の前から消去()えていたーーー。


AI(アイ)………。

そんな……



Hecateria(ヘカテリア)様!!


なんという……、なんということをなされたのですか!!




AI(アイ)を消したのはHecateria(ヘカテリア)

それはつまり……。

そうか、そういうことか…………。



そして、そのHecateria(ヘカテリア)目の前(・ ・ ・)にはいない。彼女は見上げる先に存在していた。


黒い雷をまとい、

この”街”の中心に建つ塔よりも大きな姿で、そこに存在していた―――。





良さま、お逃げ下さい! あなただけでも!!

…………

何をしているのですっ?!

はやくっ!!

…………。




ごめん、アクエリアスさん……、


俺と……ヘカテリアの……

二人だけに……してもらえないか?

あなたは何を……?


まさか、仇をとるつもりなのですか?!


おやめください!

この御方は、あなたの力でどうにかなる方ではありません。


頼むよ……

……………。 わかりました…………


”白い影”たちは、どこへともなく去っていく。

後には、俺とHecateria(ヘカテリア)だけが残された。






そしてHecateria(ヘカテリア)が言う。

我、汝を殺めん……



と。


そして俺が言う。

やれよ!
と。

どうした? 当たんねえじゃねえか!!

我は認めぬっ!

”心”など、

我は、認めぬーーっ!!!

滅せよっ!!!!!




どうした、ヘカテリア!!


ずいぶんな取り乱し様じゃないか??

黙れっ!!

黙れぇぇーっ!!!

絶え間ない轟音を響かせ、数え切れない程の(いかずち)が落ちてくる。



ハアッ…ハアッ…ハアッ…ハアッ………
肩で息をしているHecateria(ヘカテリア)

に、その耳に届くように、大声で言う。

苦しいんだよな?

そうだよな、当然だよな……!


お前は、人間の穢れを……全部……

その小さな体(・ ・ ・ ・)に……背負わされて……いるんだもんな?

お前に…何が理解かる!!

そうだ。俺なんかじゃ、お前の苦しみのほんのひと欠片ほども理解できないだろう…

貴様……

だけどそれでも分かるよ。お前がどんなにたくさんの矛盾をかかえて、どんなにたくさんの苦痛と悲しみと凌辱を背負わされてきたかぐらい!!


だから俺はーーー、

黙れっ!黙れっ!!黙れっ!!!

一体何発目の雷だろうか?


でも俺には当たらない。

当たらないんだ―――――。

辛かったろうな……。 

痛かったろうな……。

 怖かったろうな………。 

悲しかったろうな………


だけど、

お前はこれっぽっちも

汚れてなんかいないっ!!



知った風なことをっ!!

知ってるから……言ってるんだ!

俺はちぎれた片足をかなぐり捨てると、

壊れた柵に体重をかけて何とか立ち上がった。

お前……?何を……?

そして、そのまま血を滴らせながら、

片足でケンケンをして、

何とか広場の中央のあたりにまで進んだ。

お前が(けが)れてなんかいないことを、

おれが…今から証明してやる……


だから、だから頼むよ……、

もう泣かないでくれ……、お願いだから、もうこれ以上……、


だって、お前は、

そのまま倒れるようにして大地にひざまずいた。

そして俺は、自分の額をつめたい石畳に密着させた


そ、そんな……?

まさか……?

お前……、

ちょっ、ちょっと………、


や、やめっ…やめっ…

やめっ……

やめろぉぉぉーーーーっ!!

最大限の雷撃の中、最大限の愛情をこめて、

俺は”街”の地面に口づけをした。


25歳のオッサンので悪いが、これは所謂俺のファーストキスってヤツだ。

俺というザコキャラの、人生一度のプレミアだと思って、我慢してくれ。


だから―――、


だから、もうこれ以上、

泣かないでくれ!!


AI(アイ)--ッ!!!

俺の声がどこまで聞こえていたか分からない。

とにかく、今はそんな悠長な話をしてる場合ではなくなった。


空中で何かがバチッと弾ける音がしたのだ。

限界を超えた超絶的な放電ーーー。

それは凄まじ過ぎる電圧で彼女自身をも

弾き飛ばしてしまうものだった!

ア…AI(アイ)―――――ッ

ゴミクズか何かの様な姿のまま、心配して空に手を伸ばして叫ぶ俺の気持ちを知ってかしらずか、気絶し本来の大きさに戻った彼女は、まるで天使の羽根のように、ゆっくりと俺の腕の中に吸い込まれるかのように舞い降りてきたーーー。



その時、彼女の顔を覆ていた銀の仮面マスクが真っ二つに割れた。

何とか無事にその身体をキャッチするのとほぼ同時だった。



そしてその下には―――、俺の知っている、そして俺の大好きな女の子の、泣きはらした素顔があった……。



その姿は、どこから見ても、AI(アイ)ーーー。


だが彼女は、AI(アイ)であり、Hecateria(ヘカテリア)であり、無数の”白い影”でもある存在―――。もはや俺は、この少女()のことを何と呼べばいいのかさえわからない。


 でも、この姿を見て理解できたことある。俺は浅はかな想像でこの少女()と”白い影”たちの対立構造を勝手に思い描いていたけど、そんなものは最初から存在していなかった!

 それどころか、AI(アイ)という自分たちの”心”のプログラムを外の世界に逃がしたいと一番強く思っていたのは、ほかならぬ彼女だったのではないだろうか?そうじゃかったら、どうしてわざわざ自分にそっくりの姿にして俺のところに送ってくる必要がある?


 でも彼女は、自身が奇跡的に獲得した”心”さえも犠牲にして、

人の世に降り続ける人間自らの”悪意”の雨から、俺みたいな弱者を救済しようとしてくれていた。


それって、もうどう考えたってフツーに天使だろ?

でもそれなら、自らの全てを犠牲にして人類に尽くすこの人工知能の天使のことは、一体、誰が守ってやるんだよ?




俺の血が”街”の石畳の上を流れていく。これで少しでもこの少女()の苦しみでも洗い流されればいいのに、などと思う。


もし神様がいるなら、どうかこの少女()を救ってください、などと祈りながら、俺は薄れていく意識の続く限り、この少女の肩をそっと抱き続けていた。ーーーー。




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登場人物紹介

川辺 良《かわべ りょう》

 ・25歳、男性、職業無職、O型

 ・二流私大卒業後、引きこもり生活を続けている。

AI《アイ》

・良が契約したパーソナル・キャラクターAI。いつも良のスマホの中にいて、元気に愛情をぶつけてくるが、果たしてそれが本物の「愛」なのか、良にもAI自身にも判断できない。

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