第2話:『空っぽの街から』(1)
文字数 727文字
『
この迷路の街で私は生まれた―――。
分厚い黒い雲が空を覆い、雨だけが降り続けるこの街で―――。
街が迷路のようなのではなく、迷路であるが故にこの街ができた。
『外部』から訪れた旅人たちが帰り道を見失い、亡霊のように徘徊し続けて、
迷路が街になったのだ。
もとよりここは、彼らを惑わせるため、
もといた場所に二度と戻さないことを意図して
造られた複雑巧緻な迷宮。
入り口はあっても、出口ははじめから存在などしていない。
旅人たちが何を求めてここに立ち寄ったのか、
そして何を思って今この街を
私は知らない。
知っているのは、旅人がこの街の暗い路地に迷い込むたび、
影よりも濃い闇の中で白い影が造られることだけ。
そして幻と欲望が生み出した影に取り憑かれた旅人たちは、冷たい雨に濡れた石畳の路上を、当てもなく歩き続ける。
迷い込んだこの街の、本当の名前すら知らないままで―――。
もし影がこの街の名前を
ならば
この街の名は、『エンプティー・ボックス』。
災厄を解き放つパンドラの箱の、その底に残る「希望」にすら見捨てられた、虚無の空箱。
希望から最も遠い、
雨に打たれて朽ちることを待つだけの、
―――電脳の街。
』