第6話 綺麗な瞳

文字数 1,342文字

 校庭に上がった火柱は眩しく、猛烈な熱気を撒き散らした。
 遠目から見れば大火事だったろうに、やはり誰にも見えていないようで、炎は静かに鎮火していった。
「切ってもだめなの、気付いてたでしょ」
 今回のはレアだろうけど、と涼也が金髪の背中に声をかけた。
 振り向いた叶は、なんでもないように言う。
「消えるまで切るだけです」
「……解決になってない」
 さっきとは逆に、涼也が呆れた目をした。
 黒の少女は、物静かな物言いをするけれど、猪突猛進というか、まさに炎のような気質かもしれなかった。
 未佳が内心でくすりと笑っていると、乗っていた飛竜が真っ白に染まり、光の粒となって崩れ始めた。
「わ、わっ」
 どんどん低くなっていく背中から、慌てて降りる。地面に足をつけたと同時に、粒子がぶわっと散った。
 やっと重力を全身で感じて、深く安堵の息を吐いた。なんだか遠くまで旅をしていたような気分だ。
「あ、えっと……涼也。助けてくれて、ありがとう」
 そういえば、飛竜から助けてもらった時も、空から落ちそうになった時も、お礼を言っていなかった。
 すべての感謝を込めて言ったが、涼也は返事もなく、うつむいたままだった。
「涼也……?」
「さあ、涼也さん。あなたが()()のでしょう。それとも、代わりましょうか」
 横から叶が、くだらなさそうな口調で涼也を促す。
 運命の分かれ道のような、重要な何かが迫っているのを感じた。
 吹き抜けた新緑の風が、青灰色の髪を揺らしていた。
「未佳と話せて、よかった」
 そっと、涼也の手が肩に乗せられた。
 上げられた少年の顔は、何処か悲しそうに見えた。
「夢の時間は、おしまい」
 青い瞳と、真正面から目が合う。
 改めて見ると一際輝きが眩しくて、思わずじっと見つめてしまった。
 戸惑い、悲しみ、寂しさ。いろんな感情が滲む瞳は、切なげな万華鏡のようだった。
 やがて、そのサファイアがまん丸に見開かれる。
「え……」
「……あ、ごめん! 目が綺麗で……ど、どうかした?」
 今頃恥ずかしくなって目を逸らし、紛らわそうと疑問を投げかけた。
 けれど、返答はなかった。
「——どういうことです」
 こぼれ落ちた叶の声は、強張っていた。
 黒の少女の無表情(ポーカーフェイス)はなく、まるで天地がひっくり返った瞬間を見たような顔をしていた。
 叶は突き飛ばす勢いで近付いてくると、少年と同じように未佳の肩に触れ、見つめてきた。叶の瞳も綺麗だと思いながら、ぼんやり見つめ返す。
「えっと……二人とも、どうしたの?」
「……そんなまさか。記憶が……」
 叶は、信じられないと首を振った。
「未佳さん……あなた、一体何者なのです?」
「えっ?」
 演劇の台詞のような突然の問いかけに、未佳は考え込んでしまった。
 何者か、なんて考えたことはなかった。
 普通の人間で、中学生で、『ハルカナタ』のファンで、天海市唯ヶ丘区青縞に住んでて……と、思いつく限りのステータスを並べてみるが、どれも叶が求めているものじゃないだろうし、自分がしっくり来ない。
 うーんと頭を悩ませてから、急に閃いて手を打った。
「涼也の友達、かな!」
「……そうではなく」
 叶は嘆息し、呆然としていた涼也は、さらにぽかんとした。
 それから、
「……うん。まだ、友達だ」
 今にも泣きそうな顔で、くしゃりと笑った。
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登場人物紹介

仁井谷未佳(にいたに みか)

中学三年生/14歳

誕生日 2/25 魚座

身長 155cm

睦月涼也(ムツキ スズヤ)

中学三年生/14歳

誕生日 8/31 乙女座

身長 168cm

風切叶(カザキリ カノ)

中学二年生/14歳

誕生日 4/5 牡羊座

身長 159cm

睦月綺咲(ムツキ キサキ)

37歳

誕生日 10/13 天秤座

身長 167cm

凛廻暁斗(リンネ アキト)

28歳

誕生日 11/10 蠍座

身長 181cm

彼名方 遥(カナタ ハルカ)

22歳

誕生日 5/28 双子座

身長 175cm

睦月ノーエ(ムツキ ノーエ)

58歳

誕生日 5/2 牡牛座

身長 160cm

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