世を正しくさばく

文字数 759文字

 仕事にやる気がない。地元の中小企業で事務職をしているが、給料も上がらないし、出世もない。一応正社員だが、手取り額を見ると、ため息が出てくる。

 今日は営業部の連中に嫌味も言われた。書類をファイリングしていたら、「そんな地味な仕事で、暇じゃね?」と。

 実際、社内ニート化していた。どうせ女だからと舐められているのだろうか。そう思うと、余計にやる気がでず、書類整理などの雑務をしながら目は死んでいく。

 そんな会社の帰り道。

 田舎によくあるキリスト看板に目があった。空き家の塀に掲げられてある。白黒のデザインで、妙に目がつく。聖書のメッセージが書いてあるというが「世を正しくさばく」とは、どういう意味だろうか。

 この意味はわからないが、夕陽に照らされたキリスト看板を見ながら、中学の時の担任がクリスチャンだった事を思い出す。

 ある日、その担任にプリントを閉じる作業を頼まれた。正直、面倒くさい作業で雑に終わらせたら、注意された事を思い出す。確か、「誰も見ていない所こそ丁寧に仕事をしろ」とか「小さな仕事をちゃんと出来る人に神様は大きな仕事を任せる」などと言っていたっけ……。

 その言葉を思い出すと、今の状況も正しくさばかれていたのかもしれない。見えないところは手抜きしていたし、雑用もバカにしていた。もし自分が神様だったと想像すると、小さな事を適当にしている人に、大きな仕事は任せたくないかも……。お小遣いを管理できない子供が、万が一宝くじ当てたとしても幸せになれないのかも……。そんな発想が、ふと頭に浮かんだ。

「そっか、そうだよなぁ」

 改めてキリスト看板を見ながら、自分が社内ニートになっている原因がわかった気がした。今の状況は、妥当なものだったのだろう。

 原因がわかったら、改めれば良い。明日からは、仕事も頑張れそうだ。
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