永遠とネコ

文字数 1,071文字

 飼っていた猫が死んだ。三毛猫だった。十年前、父が拾ってきた三毛猫で、我が家のアイドルだった。

 名前は、三毛猫だからミケ。単純そのものだが、ミケが死んでから、空洞ばかり感じてしまう。

 父はキリスト教会の牧師をやっていたので、ミケの葬儀も家でやった。聖書を読んだり、讃美歌を歌ったりしたが、父は最後の最後で衝撃的な事を言った。

 動物は霊も無いので、地獄には行かないが、天国に行く事もない。その場で消えるだけ。葬儀も人間の為にやっている。

 その言葉を聞いた私は、ショックで仕方ないかった。確かに聖書には動物の死後なんて書いて無いが。

 年齢は十九歳で、大人といっていい年齢の私だったが、余計にショックだった。ミケが天国に行っていないなんて。何日も泣き通し、目の辺りは晴れていた。父を恨みたくなるような気持ちも芽生えていた。

 しかし、その晩、呼び出された、二人で話す事になった。リビングにはまだミケの写真もいっぱい飾ってある。よりミケのいない空洞を感じてしまうのだが。

 母は父があんな事を言ったのを謝った。動物が天国に行くか、消えてなくなるかは意見が分かれる所らしい。いわゆる神学論争にもなりやすいテーマらしい。聖書にハッキリと答えはないので、揉めやすいところだった。

「うん、ママが謝る事じゃないけどさ」
「ええ。でも本当に動物が消えるかわからないのよ。一つハッキリ言える事は、地獄へは行っていないという事ね」

 聖書では地獄は動物の為の場所とは書かれていない。悪魔とそれに従う人間の為の場所だった。

「でも、お父さんの考えも必ず正しいとは言い切れないのよね。私は動物は、神様、イエス様のところにいると思うわ。特にクリスチャンの大事にしているペットは、死んでから再会できるかもよ?」

 それも別に聖書根拠はない。都合の良い思い込みといえばそれまでだ。でもイエス・キリストとミケが一緒にいるシーンを想像すると、不思議と心は癒されていた。それは動かしようも無い事実だった。

「ママ、ずっと泣いていて心配かけた。ごめんなさい」
「いいのよ。パパもハッキリ言い過ぎね」

 まだ涙は止まらない。それでも、リビングにあるミケの写真を見てたら、幸せな時間ばかり思い出す。ずっと泣いて悲しんでいるのは、そんな幸せな時間も無にしてしまう行為かもしれない。

 ミケのいない空洞は他で埋められないが、思い出は消えずに残っているようだ。

 本当に神様の側に居てくれたら良いけれど。

 それは自分にはわからない。

 ただ、明日はもう泣くのはやめよう。それは神様も母も父も望んでいる事では無いだろう。
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