罪の報いは死

文字数 1,044文字

「もう絶対しない」

 昔。夫はそう誓ったはずだった。

 なのに。

 彼の服を洗濯する前、ポケットの中をチェックしていた。以前、ポケットティッシュを入れたまま洗濯してしまい大惨事になったから。

「え?」

 私は思わず目を見開く。

 そこには、小さなメッセージカードが入っていた。女のもので、デートやプレゼントのお礼が綴られていた。

 つまり、夫はまた不倫をしているという事か。

 前にも何回もあった。その度に「もう絶対しない」と頭を下げるが、彼の言葉はポテトチップスより薄いのだろう。

 洗濯機の前で、涙が溢れてくる。

 どうすればいいんだろう。いっそ、夫は病気にでもばれば、反省するか? コロナ渦の時も平気で不倫していたが、彼はずっとピンピンしている。

 泣きながら「夫を殺す方法」、「病気にさせるには?」などと検索した。そこには、自分と似たような不倫されて悩む妻の掲示板もあり、思わず目を皿のようにして読む。

「え、不凍液で殺せるの?」

 そんな情報もあった。不凍液を少しずつ食事に盛っていけば、病気に見せかけて夫を殺す事も可能とある。

 藁をもつかむ思いだ。今すぐにでも不凍液が欲しい。

 今は昼前だし、不凍液を買いに出掛けた。

 しかし、カー用品店やホームセンターを見てまわっても不凍液は売り切れだった。

「最近よく不凍液が売れてるんですよね」

 店員は首を傾げていたが、自分と同じような妻がいるのかも知れない。それは少し怖いが、別に結婚しても自動的に幸せにはなれない事を物語ってるようだ。

 仕方がない。

 少し歩くが隣り町のホームセンターへ行こう。

 しかし、その途中。

 県道沿いの道を歩いていたら、木造の古い家に変な看板が貼ってあるのが見えた。

 罪の報いは死

 そう書いてある。黒字に白抜き文字で妙に迫力がある。似たような看板で「神と和解せよ」というのも見た事があるが、脅迫文のようでだいぶ怖い。

 冷や汗が流れてくる。

 まるえ今からする行動を誰かに見られてる?

 そんな気がして、思わず空を見上げる。

 そこには澄んだ秋空があった。淡い水色に、綿のような雲の白。

 綺麗な青空だ。今の自分の心の痛みを慰めてくれてるみたい。穏やかな太陽の光が目に染みてくる。

 そして私は家に帰る事にした。

 罪の報いは死?

 別にそんな事はわからないが、だとしたら夫や不倫相手もそれなりの報いを受けるはず。別に自分が手を下さなくても、勝手にそうなりそうな予感もしてきた。

 悔しくて悲しいが、綺麗な空を見ていたら、心は少し癒されていたのかもしれない。
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