魚を正しくさばく

文字数 772文字

「よし、今日はアジフライよ!」

 そう決めて、紗代子は、スーパーでアジを買う。アジフライは夫の好物だった。福祉士として不規則な仕事をしている夫。少しでも美味しいものを食べて元気になってほしいというのが動機だった。

 家に帰り、手を洗い、エプロンをつけたら、さっそくアジをさばこう。

 ウロコを取り、頭を切り、内臓を抜き、三枚におろす。途中、洗ったり、クッキンングペーパーで水気を取ったり、意外と手間がかかる作業。骨を取るのだって面倒だ。それでも目的は、夫に美味しいものを食べてほしい。それだけだ。

 ネットでは、旦那デスノートなるものが流行っているらしい。中には夫をガチで殺すような情報もあり、紗代子は目を丸くしていた。紗代子達はまだ新婚でまだまだ現実が見えていないのかもしれないが。

 それでも結婚式で病める時も健やかなる時も永遠に愛すると誓ったのだ。結婚式に立ち会った牧師からは、その言葉を守る契約=愛と聞いた。例え感情が冷めても約束を守るのならば愛だとしたら、少し肩の荷が降りた事もよく覚えている。

 そんな事を考えながら、アジフライが完成。キャベツと共に皿に盛る。あと、味噌汁を作ってご飯も盛らなくちゃ。

 こんな風に誰かの為に料理を作るのは、楽しい。義務感は感じた事はなく、むしろ紗代子は率先していた。

 出来上がった食事は、とても美味しそう。カリっと良い色に上がったアジフライはもちろん、味噌汁は具沢山で良い匂い。ご飯も新米でツヤツヤだ。我ながら今日もよく出来たと思う。

「ただいま」

 夫が仕事から帰ってきた。温かい食卓の準備は完了だ。さっそく夫を迎え、二人で食事を楽しんだ。

「美味かった」
「よかったわー。三枚おろしにするの、結構めんどうだったけど、正しくさばけていたみたい」

 すっかり空になった皿や茶碗を眺めながら、紗代子は満面の笑みを見せていた。
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