私生活も神は見ている

文字数 1,229文字

 国沢道香は、一見優等生の中学生だった。親も公務員で幼い頃から勉強を仕込まれていた。実際成績もよく、教師からの評判も良い。

 しかし、道香の内面はドロドロだった。本当は勉強なんてしたくないし、スリルも求めていた。そんな道香にとっては、万引きは欲望を満たすのにぴったりだった。もちろんお金は持っている。欲しいものも特に無いが、盗む時のドキドキ感やワクワク感は、癖になっていた。

 道香は一見、大人しそうな優等生なので、店員にバレる事もない。

 最近は、学校でも手癖が悪くなっていた。クラスメイトの文房具やメイク道具、傘などを盗むのも楽しんでいた。特にメイク道具は校則で禁止されているし、被害者も声をあげられないのだろう。道香の犯罪は、今のところバレる事はなかった。

 そんな放課後、いつものように傘を盗もうと思いついた。花柄やデザインの良い傘を盗もうと試みたが、一本変な傘があった。お目当て綺麗な傘だったが、変なチャームがついている。黒い板に白抜き文字が書いてある。

「死後さばきにあう」

 そう書いてあった。

 死後さばき?

 急に背中がゾワっとしてきた。たぶん、怪しいカルトにでもハマってる生徒の傘だろうが、このチャームを見ていると、怖くなってきた。

 道香は急いで学校を後にすると、通学路に逃げ込む。このあたりは田舎なので、田んぼや梨畑が目立っている。今は晴れているので、田んぼの表面は鏡のように青空を反射していた。どこかで鳥の鳴き声もする。チチチ、ピピピと平和な鳴き声だった。

 呑気な風景だが、道香は再び背中がゾワゾワとしてきた。今までの犯罪を誰かに見られているようだ。気づくと、腕に鳥肌まで浮いていた。

 ふと顔をあげると、空き家の壁に変な看板があった。あのチャームとそっくりの黒い背景に白抜き文字の看板だった。フォントもレトロで昭和ホラー風な雰囲気が漂う。看板は古めかしいが、やけには迫力もあり、道香に迫ってきた。

「私生活も神は見ている」

 看板には、そう書いてあった。きっと、カルトか何かの看板だろうが、怖い。道香のこめかみからは汗が流れ、鳥肌も止まらなかった。

 この看板の圧力に耐えられなくなり、道香は今まで盗んだものを全部返すに行った。

 当然、学校も停学になり、親も泣いていたが、こうして明るみになって良かったとも思う。

 あの看板は、キリスト看板と言われているもので、カルトとは無関係という事も知った。あまりにもホラー風なので、万引きなどの犯罪の抑止力にもなっているらしい。

 確かに人に言えない所がある道香は、より怖く感じてしまった。キリスト教とは愛とか許しのイメージがあったが、ホラーだったとは。

 道香はしみじみと思ってしまうが、これで良かったとも思った。別に万引きしていても、スルルは味わえたが、満たされてはいなかった。心のどこかで、誰かに止めて貰いたかったのかもしれない。

 止めた存在が、キリスト看板というのは何となく悔しいが、これで良かったのかもしれない。
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