聖夜の習慣

文字数 1,488文字

 十六歳までアメリカで暮らしていた。いわゆる帰国子女というのだが、両親がキリスト教の宣教師で、別に金持ちでも何でもない。むしろ家計はカツカツの貧乏家庭だった。日本ではクリスチャンの数は少なく、牧師の給料などを知ったら驚く人も多いだろう。

 そして今は両親も日本に帰り、父は牧師に、母は牧師夫人として忙しく働いていた

 私は普通の大学生。といってもクリスチャンでもあるので、クリスマス時期はワクワクしながら教会を飾り付け、シュトレンをちびちび食べ、聖句が書かれたアドベントカレンダーを楽しむ。

 イブは夜にれクリスマス礼拝があり、それが終わったら家族で静かに過ごす。ケーキとターキーは焼くが、別にそれはメインではない。父が聖書の内容を説明し、世界平和や教会、家族の健康をいのり、クリスマスイブは過ぎる。

 今年もそんな風に聖夜を過ごす予定だっが、イブ礼拝が終わった直後、友達のミチルから連絡があった。

 しかも「彼氏に振られた。死にそう」と言い、いてもたってもいられない。世間ではクリスマスが恋人の日っぽくなっている事が知っている。そんな中でミチルは大変だろう。すぐに彼女が一人暮らししている部屋に直行した。

「うわああん! もう辛い」

 ミチルはワンルームの部屋で、一人で泣いていた。きつい油の匂いが漂よう。テーブルの上には、コンビニのクリスマスケーキとケンタッキーのチキンある。このキツい匂いはケンタッキーのチキンのせいだったらしい。

 あアメリカ育ちの私は、正直、クリスマスにケンタッキーを食べるのがピンとこない。アメリカでは完全にファストフードだ。お祝いの日であるクリスマスに食べる感覚が不明だ。奇妙な習慣だと思う。もっと言えばイエス・キリストの誕生日にイチャイチャするのもどうなのか。日本のクリスマス文化に文化に一応理解はあったが、イライラしてくる。たかが恋人がいないだけで、ここまでメンヘラになる事か?

「ミチルちゃん、クリスマスが一体どういう日か、聞く?」
「は?」
「旧約聖書の創世記から説明していい?」

 こうして私はアダムとイブから、クリスマスについて説明してしまった。延々と1時間。冷めたケンタッキーのチキンを食べつつ、イエス・キリストがどういう経緯で生まれ、死んで、復活したのかスピーチしてしまった。

 最初はメンヘラだったミチルだが、私があまりにもくキリスト教ヲタクっぷりを発揮してしまったため、ドン引き。最終的には、笑顔でケンタッキーのチキンを齧っていた。

 スパイシーな頃もは家では再現できない味だ。ファストフードでクリスマス向きじゃないと言い切るのは、偏見だったかもしれない。ビスケットもサクサクでレベルが高い。メープルシロップとよくあう。

「まあ、クリスマスは悪魔ニムロデの誕生日説もあり、支配者層たちがわざとクリスマスをはやらせているという陰謀論もあるわ」
「わあ、陰謀論まで頭入ってるの……。さすがに引くよぉー」

 この事でミチルがさらに引き、涙はすっかり止まってしまったようだ。

「だから、クリスマスに彼氏いないのは、別に普通。こういう時は、イエス様をお祝いしましょう」
「まあ、クリスマスの起源を辿ればそうだけどね……。まあ、この日ぐらいはキリスト教も別にいっか」
「世界のクリスチャン人口は24億人。世界的に見ればクリスマスに恋人とイチャイチャする方が少数派」
「へえ、だったら今日は正統派で祝ってもいいか」

 気づけば、ケンタッキーのチキンは全て空になり、骨だけが残る。

 この日にケンタッキーを食べるのは、奇妙な習慣だが、こうして友達ときクリスマスを祝うもは、悪くないはずだ。
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