第29話 最強の人間兵器現る!
文字数 2,042文字
俺達は軍事基地へ帰還後、生物兵器研究所跡地で回収した資料をマティアス司令官に渡し、研究所での出来事を報告した。
「よくやった、諸君。研究所に住み着いた不届き者だけでなく、巨大生物兵器まで撃破するとはな」
「マティアス司令官、まさか最初からそれを分かっていて俺らを研究所へ向かわせたのかよォ!?」
「その通りだ。諸君なら成し遂げると信じていた上でな」
いやいや、前回の廃坑と今回の研究所とでは危険度が違い過ぎるだろ! ……いや、ライナスと遭遇しなかっただけマシか。
ちなみに今回の任務で俺達が倒したケルベロス、今から20数年前まで量産されていた生物兵器と比べるとかなり弱い方らしい。
昔はケルベロスより強い生物兵器がわんさかいたってことかよ!?
「あのさ、マティアス司令官って人間兵器だったんだな……」
「その通りだ。戦場で致命傷を負っていたところを救出され、
アメリカの技術ってすげーな。致命傷の人間を蘇生させるだけでなく、身体強化させるとはたまげたなぁ。
「マティアス司令官の相棒のハンニバルって過去に暴走して研究所を破壊したのか?」
「あぁ。今から20数年前、暴走したハンニバルは研究所を破壊し、そこにいた人間を皆殺しにしてしまったのだ」
「やっぱり研究所の人達は死んじゃったんだ……」
「私が研究所へ駆けつけた時にはもう手遅れだった。ハンニバルは正義感が強く熱い男だったのだが……あんなことさえなければ……」
マティアス司令官は悲しい表情で語る。
俺はマティアス司令官を一目見た時から歴戦の兵士って感じはしたが、そんな過去があったなんて悲しいなぁ。
「その人、今もこの軍事基地にいるんだよね? また暴走したりしないの?」
「大丈夫だ。今は正気を取り戻している。……だが、あの頃からハンニバルは変わってしまった……」
「つまり、暴走はしなくなったが性格がかなり変わってしまったってことか」
「そういうことだ。ハンニバルは私が傍にいる間は穏やかだが、あの事件以来、凶暴性と残虐性が増してしまった。諸君もハンニバルに会ったら無礼の無いようにな」
「か、かしこまり……」
自分の相棒が変わり果ててしまうって凄いショッキングだよな。
俺だって、もしレイさんが豹変してしまったらと思うとゾッとするぜ。
悲しい表情で語っていたマティアス司令官は気持ちを切り替え、笑顔で話を続ける。
「諸君に朗報だ。今までの働きを称え、一週間の休暇を与えよう」
「休暇!? やったー!」
「やった! やっと休める!」
「働き詰めだったからな。ようやくゆっくりできるぜ」
「休暇中に遊べるだけ遊ぼうぜ!」
「ゆっくり休むといい。次の任務は追って伝えよう」
俺達は笑顔で司令室を後にした。
せっかくの休暇だ。体を休めることも大事だが、せっかく軍事基地へ来たからにはここで色んなことを経験したいぜ。
俺達が廊下を歩いていると、一際目立つ大柄なおっさんに遭遇した。
茶髪で
お偉いさん相手に無言のまま通り過ぎるのは申し訳ナイスだから、ここは挨拶しておいた方がよさそうだ。
「あの~、俺らはマティアス司令官に強制入隊させられた一般人でございナス! よ、よろしくお願いしナス!」
「……そうか、お前らがうわさの新人か。俺はハンニバル・クルーガー中将だ。若い頃はマティアスと一緒に戦場を駆け巡っていたんだぜ」
緊張した口調で挨拶をする俺に対し、笑顔で自己紹介してくれたおっさん。……ん? ハンニバル!?
「ハンニバルだと!? まさかあんたが研究所を破壊した張本人か!?」
ミカエルが驚いた表情で問いかけると、ハンニバル中将は笑顔から一変、イラついた表情でミカエルに近づき、右手でミカエルの胸倉をつかんで持ち上げた。
ミカエルは足が宙に浮き、身動きが取れない。
「ぐっ!」
「このガキ、口の利き方に気をつけろよ? 俺だって好きで
「す、すみません……」
ミカエルが謝ると、ハンニバル中将は微笑みを見せながらミカエルを降ろす。
「分かればいい。お前ら、休暇をもらったんだろ? 軍事基地周辺には遊べる場所がいっぱいあるから楽しんで来いよ」
「あ、ありがとナス……」
ハンニバル中将はそう言って司令室の隣にある自分の部屋へ帰っていった。
「あれがハンニバル中将……鳥肌立った……」
「あれは怒らせたらヤバい奴だな」
「無茶な改造手術を受けて精神がイッちゃってるらしいからな」
「あの人、下手したらマティアス司令官より強いんじゃないかな……」
あのおっさん、味方でいるうちは心強いが、絶対に怒らせてはいけないタイプだ。気をつけねぇとな。
過酷な任務で疲れた俺達は、この日は自分達の部屋でゆっくり過ごすことにした。明日から休暇をいっぱい楽しむぜ。