第25話 マティアス司令官の苦悩
文字数 2,180文字
俺達は軍事基地へ帰還後、司令室にてニトロライトを納品し、一連の事の経緯をマティアス司令官に説明した。
「ナイト軍曹から話を聞かせてもらった。ライナスと遭遇したようだな」
「あぁ。ミカエル以外は不意打ちをまともに食らって何もできなかったぜ……」
「私は間一髪のところで不意打ちを逃れたが、私一人ではどうすることも出来なかった。ナイト軍曹が助けに来なかったら全員殺されていただろうな……」
「やっぱりオレ達には本気のライナスと戦うのは早かったな……」
「ほんと死ぬかと思ったよー……」
「お前たちの事が心配になって後をつけて来た甲斐があったぜ」
今回の任務はナイト軍曹の応援があったおかげでなんとか乗り切れた。仲間想いなナイト軍曹に感謝だぜ。
そしてもう1つ、今回の任務で気になったことがある。
「ライナスがマティアス司令官の名前を聞いた途端に動揺していたんだが、2人は知り合いなのか?」
「……いや、知らないな。正確には思い出せないと言ったところか。奴の写真を見た時に既視感を感じたが……」
どうやらマティアス司令官とライナスが知り合いなのは間違いないようだな。
マティアス司令官はライナスのことを覚えていないようだが。
「それはただのボケだろ」
「タツヤさん、そんな失礼なこと言っちゃダメ!」
「強ち間違いではないな。私は過去の戦いで記憶を一部失っている。それ故、家族や昔の知り合いのことを覚えていない」
「え、マジかよ!?」
「ライナスが私のことを知っているのなら、生け捕りにして問い詰めたいところだ」
お、そうだな。それにライナスの野郎は一度調教してホモビモデルにしてやらねぇと俺達の気が済まねぇぜ。
マティアス司令官の記憶喪失の事実も知って衝撃的だがな。
「ミカエルもライナスの不意打ちを回避できたところは評価するぞ。このまま成長すれば一流の暗殺者になるかもしれんな」
「お、お手柔らかにお願いします……」
マティアス司令官は笑顔でミカエルを褒める。
一方、ミカエルは正式軍隊入りさせられることを恐れている様子だ。軍隊入りなんてシャレにならねぇよなぁ?
「次の任務は追って伝える。しばらく休むと良い」
「ありがとナス!」
俺達は次の任務までゆっくり過ごすことにした。
マティアス司令官とライナスの関係性はいずれ知ることになるだろう。
――その夜、仕事を終えたマティアス司令官は自室でライナスの写真を眺めながら考えごとをしていた。
(不思議だな。奴は軍の敵であり、私の敵だ。なのになぜこんな感情を抱いてしまうのだ……?)
マティアス司令官はライナスを憎むべき敵と自分に思い込ませるも、同時に別の感情が芽生えていた。
彼が悩んでいる時、扉を強くノックする音が聞こえてくる。
「入るぞ、マティアス。今、大丈夫か?」
「あぁ、今開けるから待っていろ」
マティアス司令官が扉を開けると、そこにはマティアス司令官をも凌ぐ体格を持つ大柄な中年の男が立っていた。
茶髪で
「昼間からだいぶ悩んでいるみてぇだから来てやったぞ。俺でよければ相談に乗るぜ」
「お節介な奴め。まあいい、ここに座れ」
マティアス司令官と茶髪の男はそれぞれ向かい側のソファに座る。
マティアス司令官はライナスの写真を茶髪の男に見せながら話を始める。
「この男のことはもう知っているだろう? この男、ライナスは私達の大切な部下を傷つけた悪党だ。なのに私は……この男を見るとなぜか懐かしい気持ちになるのだ」
「なるほどな。そういやマティアスはガキの頃の記憶が無いって言ってたな」
「あぁ、私は昔の戦いで致命傷から回復したと同時に、少年時代の記憶を無くしてしまった。ライナスは私の過去を知っているそうだ。奴を生け捕りにして問い詰めたいところだが、自分の私情であの凶悪犯を生かすことは軍の責任者としてあるまじき行為だ」
マティアス司令官はライナスに会いたい気持ちと同時に、軍人としての責務を果たさなければいけない苦悩を打ち明けた。
「……ハンニバル、私はどうすればいい?」
「簡単なことだ。ライナスを捕まえた後、情報を聞き出して用済みになったらぶっ殺せばいい」
「……!」
ハンニバルと呼ばれた男は冷酷な笑みを浮かべながら答える。
「……だが、使える奴ならあえて生かすのもありだ。ナイトと張り合うくらいだから戦力としては十分期待できるぜ。もしくはあの新入りどもが作りたがっている"ホモビ"とやらのビデオモデルをさせるのも面白そうだな! ハッハッハ!」
「なるほど、それは良い案だ。もしライナスに更生の余地があるなら、私が責任を持って軍で働かせる。更生の余地が無いなら容赦なく処刑する」
「よし、それで決まりだな!」
決心のついたマティアス司令官は笑顔を取り戻す。
「新入り達への次の任務では、私達にとって因縁のあるあの場所へ向かわせることに決めた」
「あの研究所の跡地か!? 俺にとっては思い出したくもない場所だ」
「あぁ。私が今もこうして生きているのはあの研究所のおかげではあるがな……」
「平和ボケした新入りどもが研究所に行って何を感じるのか、見物だな」
今は崩壊した研究所の跡地。2人の過去と深く関係している施設だ。
やがて俺達はこの国で起きた惨劇を知ることとなる。