第４話　調教師はアサシンを雇う！

　俺達は路地裏に入り、一軒の錆びついたトタンの家を見つけた。見るからに廃墟っぽい雰囲気だぜ。
　レストランで聞いた情報によると、この家に殺し屋と思われる人間がいるらしいぜ。
　そいつを味方につければ魔王とやらも怖くないかもな。
　俺達はトタンの家に入ってみた。建物の中はトタンの壁、床は鉄製でいかにも生活するには適さない作りだ。
　水道やキッチン、ロッカーが設置されているので、少人数での集まりや作戦会議程度には使えそうな建物だ。
　奥へ進むと、黒いフード付きロングジャケットで身を包んだ奴がこちらに背を向けてスマホで電話をしているのが見える。
　黒フードは電話を終えると俺達の存在に気づいたのか、こちらに振り返って顔を見せた。
　銀髪に青い瞳、中性的な顔立ちで、外見からは男か女か判別するのが難しい。

「ほう、このボロい空き家なら誰も近づかないと思っていたのだがな。何の用だ？」

　黒フードは顔だけでなく声も中性的だ。だが俺はこいつが男だと信じたい。こんな美青年が女だったらホモの俺としては萎えるぜ。

「話は聞いてるぜ。お前が殺し屋だという噂は本当か？」
「殺し屋？　そんな人聞きの悪いことを……。依頼主から依頼を引き受けて戦っているから間違いではないがな」

　やっぱりこいつは殺し屋だ。俺達は早速取引を持ち掛ける。

「じゃあ早速取引といこうぜ。俺達と一緒に魔王を倒し、その後脱走者探しやホモビ撮影を手伝ってくれ」
「え？　意味が分からん……」

　やっぱりいきなりこんなこと言っても理解出来ないか。
　そんな時、レイさんが俺の代わりに分かりやすく説明する。

「オレ達はタツヤさんの運営するSMバーから脱走した従業員を全て探し出して捕まえ、後にそいつらを使ってビデオ撮影する予定なんだ。その従業員の1人が魔王城に向かったらしいから、俺達と一緒に魔王城へ向かって欲しいんだ。2人だけじゃ心細いからな」
「なるほど。ちょうど別の依頼主から魔王討伐の依頼をひき受けているから同行しても構わないぞ」
「おお、それは助かるぜ！」

　さすがレイさん。そして俺達と黒フードの目的が同じで良かったぜ。

「それと、魔王倒した後は、残りの脱走者探しとビデオ撮影も手伝ってくれるよな？　ビデオ売れたらお前にも売上金分けてやるからよ」
「そ、それは少し考えさせてくれ」
「じっくり考えろよ。お前にとっても悪くない話だと思うがな」

　黒フードは少し困惑している様子だが、調教師の俺には分かるぜ。こいつは金に目が無いタイプの人間だってな。

「そういや自己紹介がまだだったな。俺の名はタツヤ。普段はSMバーの店長をやってるぜ」
「オレはレイ。タツヤさんの店の常連客だ」
「私の名はミカエル。戦闘では暗殺術が得意だ」

　黒フードはミカエルと名乗った。やっぱりこいつはアサシンだったようだな。戦闘では頼りにしているぜ。

「よし、一緒に魔王をぶっ殺しに行こうぜ！」

　俺達3人は空き家を後にし、ミカエルの案内で魔王城へと向かう。
　たどり着いたのは、どこにでもある普通のオフィスビルだ。

「おい、どう見てもただのオフィスビルじゃねぇか」
「いや、この建物が間違いなく魔王城だ」
「ファッ！？」

　魔王城って聞くからもっと禍々しい建物をイメージしてたのに、まったく期待ハズレだぜ！
　俺達は目の前のオフィスビル……いや、魔王城の中に入った。
　中に入ると、フロア全体に浮遊ロボットが徘徊している。
　浮遊ロボは俺達を発見した瞬間、ゆっくり追いかけてきた。

「ロボは調教出来ないから厄介だぜ」
「調教出来ないロボは破壊するのみだ！」
「お前ら、調教のことしか考えてないのか（困惑）」

　俺は鞭(ムチ)で、ミカエルは銃で浮遊ロボを撃ち落としていく。
　そんな中、レイさんだけはいつもと違う技を見せる。

～雷耀切り～
　竹刀にスタンガンを装着し、電流を帯びた竹刀で敵を攻撃する、レイの雷属性攻撃スキル。


　電流を帯びた竹刀が浮遊ロボをショートさせ、爆破させた。効果は抜群だ。

「レイさん、凄いじゃナイス！」
「あの街でスタンガン買っておいて正解だったぜ」

　レイさんのスキルがどんどん増えていくぜ。俺もそろそろ新スキル覚えないとな～。
　浮遊ロボをある程度始末したところで、俺達は次の通路へ進もうとした。
　だがその時、壁に設置されている監視ロボが俺に向けてレーザーを放つ。

「アツゥィ！」
「タツヤさん、大丈夫か！？」

　俺はレーザーを食らって火傷してしまった。
　俺の傷口にレイさんが冷水シャワーをかけてくれたおかげでなんとか助かったぜ。
　ミカエルは銃で監視ロボを撃ち落とそうとするが、この距離では攻撃が届かない。

「あそこの道は諦めよう。他の通路を通れば先へ進めるかも知れん」
「仕方ないな、そうするか」

　ミカエルの言う通り、俺達は正面突破を諦めて遠回りすることにする。
　別の通路を進んでいくと、行き止まりの壁に1つのスイッチが設置されているのが見えた。

「もしかしてこれって、押すと先に進めるスイッチじゃねーの？」
「気をつけろ。罠かも知れないぞ」
「大丈夫だろ、押そうぜ」

　俺とレイさんはミカエルの静止を無視して壁のスイッチを押す。
　すると、フロア全体に機械音がゆっくり鳴り響いた。
　俺達は罠かと思ってヒヤヒヤしたが、敵が襲ってくる気配は無く、この音はどう聞いても警報では無い。
　しかし、どこかに変化が起きたのは間違いないだろう。
　俺達が元の場所へ戻ると、行く手を阻んでいた監視ロボが無くなっていた。

「あれは監視ロボを消すスイッチだったんだな」
「ほら言ったダルルォ？　大丈夫だって」
「タツヤさんの直感に間違いは無いんだぜ」

　行く手を阻む監視ロボがいなくなったところで俺達は先へ進む。
　階段を上ると、そこは広々としたオフィスとなっており、職員と思われるハゲの男達が徘徊している。

「侵入者だ！　撃て！」
「ファッ！？」

　職員達が俺達に銃を向けて発砲してきた。オフィスにお邪魔しただけでいきなり発砲してくるとは物騒な奴らだぜ！
　俺達は急いで銃弾を避けようとするが、さすがに全弾回避は無理だった。痛ってぇぜ……。
　そんな中、ミカエルだけは銃弾を軽々と避けて反撃に転じていた。

～クイックドロー～
　素早く銃弾を発射し、複数の敵を打ち抜く、ミカエルの範囲攻撃スキル。


　ミカエルは二丁の銃を巧みに操り、職員どもを一層する。
　さすがはアサシンと言ったところだ。俺達はこの殺し屋を雇って正解だったぜ。
　倒れた職員どもはまだ息はあるようだ。弱った人間に俺達がやるべきことは決まっている。

「へっへっへ……俺達に喧嘩を売ったお礼をしてやるぜぇ～」

　俺とレイさんは弱った職員どもを調教した。どんな人間も殺さずに調教するのが調教師のモットーだ。

「ワン……ワン……」
「これは一体……？」

　調教されて犬奴隷になった職員どもの姿を見て困惑するミカエル。

「おっと、言い忘れたが人間を殺しちゃ駄目だぜ。どんな人間でも調教すれば立派な奴隷になるからな」
「タツヤさんの言う通りだ。今後の為にもミカエルも調教スキルを身に着けてもらおうか」
「何だと？」

　俺とレイさんは、人間や動物を調教するのに必要なスキルや力加減をその場でみっちりミカエルに叩き込む。
　すると、ミカエルは10分程の訓練を経て調教スキルを身に着けた。
　短時間で調教スキルを身に着けるとは、こいつは調教師としての才能もありそうだな。
　その後も俺達は更に上の階を上り、順調に先を進んでいく。

「おーい！　誰か助けてくれー！」

　どこからか男の叫び声が聞こえる。魔王城に捕らわれた人間なのか、敵の罠なのか不明だが、敵だったらこの男も調教してやるぜ。

「おう！　今助けてやるから待ってろ！」

　俺達は男の声が聞こえる方向へ向かっていった。