第7話 接触
文字数 4,542文字
目の前の視界が、強烈な光に覆われる。
同時に身を震わすほどの雷鳴が周囲に伝播し、熱風が強風となりながら襲ってきた。
ムメンは、その雷撃の一部始終を、丘の上から見つめていた。
その視線の先には、巨大な煙の柱が天に向かい立ち昇り、その周囲にはそこに何があったのかさえも解らなくなる程に融解し、ゆらゆらとゆれる陽炎が、その激しさを物語っていた。
「第二射の準備は出来たか」
腕を組みながら、冷静な表情でそばにいる兵士に状況を確認するムメン。
「
「よし、合図を待て」
激しく融解する大地を見つめ、その表情を変える事無く兵士に指示を出す。
ムメンは今回の遠征で、あの
しかし、ムメンはあえてこの偵察で
「奴等は、この後どう出てくる…」
「赤き猛火を操る種族、ニンゲン」
「私の問いにどう応えるのだ、その力を見せよ!」
そう、ムメンはあえて最大限の破壊力を持って攻撃を仕掛け、それに対し相手がどの様な反応を示すかで、赤き猛火を操る種族の能力を見極めようとしたのである。
砲撃を受けた黒い物体の周囲では、黒色の外骨格を持つ種族が立ち上がり、雷神の盾で身を守りながら進攻を始める。
彼ら、
そんな、
「な、鉛色の巨兵!」「鉛色の巨兵だ!」
「火矢を放て!」
指示を受けた、後方を守る兵士は、腰袋から丸く成形された火薬を取り出し、それを矢先に取り付けると火を付け、上空へ放った。
その火矢は、激しく光りながら、それぞれ色の異なる煙の尾を引いて上空へと昇ってゆく。
そして、黒い物体から遠く離れた丘の上で、様子を伺っていた兵士が煙を確認すると、声を上げた。
「ムメン様! 連絡の火矢です! 赤二!青二!です!」
「投石隊!火矢の前方に
ムメンは兵の声を聞くと、間髪入れず後方で待機していた投石隊に向け、声を発した。
「…オォォォォォォォ」
すると、後方の丘で待機していた、青白い体の巨体生物、数体がうなり声を上げながらその体をゆっくりと持ち上げる。
そして、物凄い地響きを上げながら歩き出し、投石器の真横に立つと、大地に押さえ付ける様に下半身を低くし、巨大な木の幹を振り上げ、
「フッン!!」
「ガアァアアアアア!!!」
力強く振り出した。
物凄い破裂音と共に、投石器の後ろに積まれていた、木の束を激しく破壊。
―ギャァァァァァァ!!
その木の束で止められていた、投石器が悲鳴にも似た鈍く重い唸り音を上げ出し、太く長い柱が大きくしなりながら回転し始め、先端に積まれた
投げ飛ばされた
その黒い物体の周囲では、鉛色の巨兵達が炎を放ちながら
―ピィ! ピィ! ピィ! ピィ! ピィ!
炎の奥から、奇妙な音がけたたましく鳴り響く。
ヒュ…
――― ゴッツ!! ガァ!!
突然、上空から何かが飛来し、鉛色の巨兵に激突した!
――― ズガァーン! ガン、ガン、ガン…
上空から飛来した物体を、その身に受けた鉛色の巨兵は、後方に激しく倒れ込む。
ギッ… ギィ…
――― ゴッツ!!
続けざまに飛来物が黒い物体と、鉛色の巨兵に向け打ち込まれる。
すると、徐々に白く濁る水蒸気が周囲に漂い出し、他の場所でも同様に飛来物が撃ち込まれると、黒い物体の周囲は炎の勢いが弱まり、黒煙と白く濁る煙に消えていった。
ゴォォォォ…
全てが静寂に包まれる…
「…」
―ヒュュュゥゥ ルルルルル…
不気味な音が、煙の奥で響いている。
―――
薄闇の灰色の視界の奥に、今までに見た事の無い鋭く光る赤い光が、
〘 No.2、3、5 OKストップだ、カノンを下ろせ 〙
〘 一旦、下がるんだ 〙
ピッ …
『…何処だ…』
『鉛色の巨兵… 何処にいる…』
灰色に混じった白い煙が漂い出し、兵士たちを包んでゆく。
『 …ど、 ど こ な ん… 』
バタ…
バタ… バタ… バタ…
次々と後方の兵士達も倒れてゆく。
そして、黒い物体の周囲は白い煙で覆われ、森全体が煙で見えなくなっていった。
その異様な雰囲気を察知したムメンは声を上げる。
「どうした!」
「何が起こっている!」
「
「はい、準備は整っております」
「あの白い煙、黒い物体が…
その時
―――キィィィィィィィーーーーーーーーーーーーー
「はぁう!」
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「なっ、な ん だ…」
「こっ、 こ の お と は !」
「あぁぁぁ!」
突然、ムメンの頭の中に突き刺さる様な音が鳴り響く。
その音は身体の自由を奪い、ムメンは頭を抱え、その場にひざまずいた。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
ムメンの周囲にいる兵士達も、もだえ苦しみながら頭を抑えて、その場に倒れてゆく。
すると、
―フッ
突然、ムメンの目の前に一筋の光が差し込んできた。
…こっ、 これは
この ひ か り は なんだ!
その光は徐々に濃くなりながら、太さを増してゆき、
強烈な輝きが、光の柱となった時、
光柱の中に、何かの影が浮かび上がりはじめ、
ムメンが、その中に存在する何かに気が付いたその瞬間、
それが、ムメンの眼前に
現れた
―!
すると突然、ムメンの頭の中に幾つもの映像が流れ始め、ムメンの意識を支配していった。
その映像はムメンが理解できるものと、理解できないもの。ありとあらゆるイメージが映し出され、いつしかそれは光と闇が絶え間なく繰り返される映像と重なり、ムメンは激しく混乱した。
そして
…
… お …
… おまえたちは …
… おまえたちは… なぜ …
… われわれを …
… われわれを こうげきする …
―なっ!
ムメンの意識の中に、何かの意思が入り込み、
その言葉は繰り返され、何度も何度もムメンの頭の中に鳴り響いていた。
しかし
… クッ
「お前達こそ何者だ!」
「ヤァー族の言葉を使うなど!ヤァー族か」
「それとも、この地を侵略する」
「ニンゲンか!」
「答えろ!」
…
… われわれは …
… 人間だ …
… かつて、この地で暮らしていた、貴方達と同じ、この地の住人だ …
「この地の住人だと!」
… そうだ、我々は仲間だ …
… これを理解し …
… 互いを理解するには時間が必要だ …
… 互いに理解し …
… 協力しながら …
… この地で暮らす事はできる …
「なっ!」
その意識の中で響き渡る声は、ムメンの目の前で
ムメンの表情はみるみる怒りに満ち始め、その声を振り払おうと全身に熱が満ちて行き、懐に滾る衝動を抑えながら、太く震える声を光の柱に向かい、放った。
「
ならば!この拘束を解き放て!
」すると
ムメンの頭の中で響いていた音は消え去り、身体の自由を奪っていた音の脅威から徐々に解放されてゆく。
…
静寂が周囲を覆う。
ぬ…
『 ヌ!ガァ ァァァァァァァァァァァ!!! 』
突如、ムメンはその懐にある衝動を爆発させたの如く、激しく唸り声を上げると、物凄い速さで立ち上がった!
そして、
―ザァッツ!!
ムメンは光の柱にいる
しかし、
ムメンはその光を通り抜けてしまい、光の柱にいる
ムメンは振り返り、光の中の
『 オォォォォォォォォォォォォォォ!!!! 』
黒い物体に向け、投げ放った!
――― シッッッ!!!
―――
ゴッ ォォォォォォォォ ンンンン
!!!!!ムメンの
が、
黒い物体は
しかし、
…ゴッ!!
槍の勢いは凄まじく、鉾先の先端は光の壁を変形させながらそれを貫き、
黒い物体の一部を抉っていた。
ゴォォォォ…
「
協力だと…
」「
ふざけるな
!」憤激の形相を浮かべるムメン。
「我々に協力を求めるなら!」
「まず!この地から立ち去れ!」
「それが出来ぬなら!」
「
我々に恭順するか、死を選べ!
」凄まじい形相を浮かべながら、ムメンはその言葉を発した。
…
… わかった …
… お前達の …
… 仲間になろう …
再びムメンの頭の中に言葉が聞こえてきた。
そして、周囲が静寂に包まれ、光の柱は消えていった。
ズゥン…
ズゥン、ズゥン、ズゥン
遠くの方から、地響きを響かせながら、何かが近付いてくる。
それは巨大な何かが移動しているようで、ムメンは丘の上に立ち、音が響く方角を見つめている。
そして、
―ズゥン!!
身体を鈍く光らせる、鉛色の巨兵、二体が、
ムメンの前に顕現した。
「鉛色の巨兵!」
ムメンは目を見開き、自分と同じ背丈はあろうか、この世の生物とは思えない外見を持つ鉛色の巨兵を見つめる。
ムメンと鉛色の巨兵が向き合うと、お互いがその場に対置した。
「ネイトはいるか」
「はい、此方に」
「ニンゲンよ!」
「我々は、我とネイトのみだ」
すると、目の前に現れた鉛色の巨兵、一体がゆっくりとひざまずき、周囲に空気が抜けるような音が響くと、体の上部が開き始める。
その生物とは思えない物体の動きを、ムメン達は静かに凝視している。
巨兵の上部が徐々に開き、動きが止まる。
――!
すると、巨兵の体の中が動き出し、何かがゆっくりと身を起こすと、鉛色の巨兵の中から、小さな生物が、ムメンの目の前に現れた。
―カッツ!
『 これが、ニンゲン か 』
ムメンは目を見開き ニンゲン をその眼前に収めた。