第4話 青き波濤の祈り
文字数 3,698文字
ゴォォォ…
Pi
>Electrical heat detection.
>Electrical heat detection.
>Do you want to confirm it?
Fu…
Okay. I will go there …
ゴッ! ォォォ…
∫
その空は 青かった
その空は 大きく 何処までも続き
終わりさえ無いように感じる
そんな空だった
目的の大陸へ向かい、大海原へと出たカフラとネフティス達。
その航海は照りつける日差しと、時折襲い掛かる大波を越えながら波間を進み、その視界には青い海と、果てしない空のみが存在する、未知の世界が広がっていた。
カフラは慣れない海での移動で、少し疲れを感じていたが、その未知の領域を進む好奇心と、これから辿り着く大陸に思いを馳せると、疲労感は消え去り、カフラの心身は高揚感で満ちていた。
いつしかカフラ達の頭上で輝く陽の光は、波間を越える毎に高くなり、じりじりと身体を焼く日差しが強くなってくる。
幾つもの波間を抜け、青く輝く大波の尾根を越えてゆき、その度に舟を漕ぐ兵達が潮水をその身に受け、何度か交替を繰り返すと、周囲は赤く色付き、陽が暮れようとしていた。
その様子を見ていたマトケリスが、カフラのそばに寄ってきた。
「カフラ様」
「どうしました」
カフラは振り向き、マトケリスはカフラの顔を見る。その顔色は潮と陽に焼かれ赤みを帯び、疲労で少し血色を失い、赤紫色になっていた。
「目的の大陸まで、もうしばらく掛かりますので、今宵はもうお休み下さい」
「マトケリス様、ありがとうございます」
「大陸まで、あとどの程度で到着するのでしょう」
「次の陽が昇り、陰る前には辿り着けるかと」
「やはり海の旅は大変なのですね、他の種族が海に出ない理由がわかりました」
カフラはそう言うと舟の上に腰を落とし、
「マトケリス様、申し訳ない、先に休ませて頂きます」
体が収まる程度の狭い板の上で横になった。
ザァァァ… ザァァァ…
陽が沈み、周囲が闇に包まれ、ひと際大きく輝く星が頭上で輝いていた頃、ふとカフラは目を覚まし、
その目の前には、満天の星々に覆い尽くされた空が目の前に現れていた。
カフラはうとうととしながらそれを見つめていると、カルーンで執り行われていた夜の祭事の光景が思い出されてきた。
『 …イアフがもう少しで満たされ… ソプデトは低く… そろそろ河に命が宿される頃か… 』
「…!」
カフラが何かに気が付き、上半身を上げ後ろを振り向く。
「 モントゥ… 」
モントゥはカフラスの声に気が付き、
「陽が昇るまで、もうしばらくです」
「お休みください」
「しかしモントゥ、其方も疲れているであろう、休め」
「ありがとうございます」
「兵と交替で休んでおりますので、大丈夫でございます」
「それより、お体に障ります」
「どうぞ、お休みください」
モントゥは優しくカフラの身体を支え横にし、寝具の布を身体にかけた。
「モントゥ、ありがとう…」
そう言うと、カフラは目を閉じ、再び眠りについた。
それからしばらく穏やかな夜の航行が続き、水平線より陽がその姿を現し始めた頃、カフラは目を覚まし、身なりを整え、ゆっくりとその身を起こすと、舟の上で立ち上がった。
両の手を広げ、その陽の光を全身で受け止めるカフラ。
トォン…
右の手に持った
朝の祭事を始めた。
「 太陽の王よ すべての命の源よ 」
「 闇より生まれし光で、再びこの世に生の歓喜をお与えください 」
他の舟に乗るカルーン族の兵士達もみな同じく、陽の光をその身に向け、祈りを捧げる。
そして、カフラ達は祈りを終えると、再び舟を漕ぎだし、幾つもの波間を抜け、青く輝く波濤の尾根を越えてゆき、目的の大陸へと向かってゆく。
そして、いつしか陽が傾き、波間の陰影が濃くなった時、その波の間の先に小さな変化が現れた。
その小さな変化は、黒い点となりながら、徐々に大きくなってゆくと、動かぬ黒い影がその姿を現し始めた。
「カフラ様! あれ! 見えます! 見えますよ! 大陸が!」
その黒い影を見つけたネフティスが、声を上げる。
カフラは、黒い色の大陸を見つめ、静かに深く頷く。
赤く色付いた陽の光に照らされたその表情は、厳しいながらも安堵に満ち、海という未開の領域を克服した、そんな達成感を全身で感じていた。
しばらくすると舟は、大陸の浅瀬に近付いてゆくと速度を緩め、水の中から木々の根が生える場所に向かってゆく。カフラ達の乗る舟は木々の根に近付くと、根と根の間にできた少し大きめの空間にそれぞれの舟を入れてゆき、大きな幹のたもとに到着すると、ゆっくりと舟を止めた。
「よーし!止まったぞ!」
その掛け声と共に、水の中にいたクパ族が、舟を水中にある木の幹に固定し、舟が安定すると、カフラ達はその舟から陸へと上陸した。
残りの兵達や荷物が上陸し終える頃には、周囲は闇に包まれていた。
「フゥ…」
少し疲れた様子で小さく息を吐くカフラ。
闇に包まれた未知の領域を確認すべく、すぐさま松明を用意させると、そのか弱い明りで周囲を見渡す。
「…」
モントゥが闇の先に何かを感じ、そして、その方向に松明を向け、鋭くにらみ始めた。
「大丈夫です、彼らです」
いつの間にかカフラの横に立っていた、クパ族のマトケリスが、カフラに声を掛ける。
「ラーム族です、迎えに来てくれたのでしょう」
闇の奥から、背の小さい種族が現れ、カフラ達に近付いてくる。
小さな種族が、カフラ達の前で立ち止まると、彼らの言葉で挨拶をし、マトケリスとカフラはそれに応え頭を下げて挨拶を返し、それを見たラーム族はカフラ達を森の奥へと迎え入れた。
その森は月の光も入らない程に木々が
カフラはその不安からか、歩きながらマトケリスに話し始める。
「マトケリス様、彼らとは親交があると伺っていますが」
「えぇ、彼らは滅多に他の種族と交流はしないのですが、私達が彼らの領域を侵さない事を知ると、全てではありませんが、私達を受け入れてくれるようになってくれました」
「まだ、全てを受け入れられていない…」
カフラの表情がより一層、険しくなる。
「難しいですよね、見ての通り彼らの身体は小さい、カフラ様の半分も無く、ヤァー族より一回りも小さい」
「そして、その為なのか警戒心もかなり強く、その性格は野生生物に近いかもしれません」
「彼らを刺激しない為にも、彼らを受け入れ、その尊厳を尊重するようにしております」
マトケリスの言葉に、そのような種族の中に入っても良いものなのだろうかと不安を感じたが、その昔、ゲブとヌトがこの地を訪れ、無事に帰ってきた事を思い出すと、多少だったが安心感を取り戻す事が出来た。
それからしばらく、闇に包まれた森を進むと、薄明かりが灯される少し開けた場所に辿り着き、その奥にある巨樹の隙間に出来た、住居らしき場所へ案内されると、そこには数匹の長らしきラーム族達が座って待っていた。
マトケリスは、その中心にいる長らしき雰囲気を感じさせる、ラーム族の前に進むと、その身を低くしながら跪き、それを見たカフラ達も同じくその場に跪き、ラーム族の長たちを見つめ、その様子を伺った。
「 … よ う… こそ お こ し くだ さ い ま した… 」
ラーム族の中心にいる長が、たどたどしくではあったが、ゆっくりと、丁寧に、カルーン族の言葉で、挨拶をし始めた。
カフラはそれに驚き、カルーンの言葉で挨拶を返し、マトケリスはそれをラーム族の言葉に訳し長に伝えると、長達は、カフラへと顔を向け、じっとカフラを見つめ、
またカルーンの言葉で話し始めた。
「 ゆく り と お や す み く だ さい 」
その言葉を聞くと、カフラは手の平を組み軽く会釈し、
後ろにいたモントゥに声を掛け、ゲブとヌトから託された進物と、カルーンから運んできた品を彼らに差し出した。
長達はそれを受け取ると、マトケリスと言葉を交わし、カフラ達を木々で造られた小さな祠へと案内し、今宵の対面は問題も無く、無事に終わった。
その後、カフラ達は別々の木々の根元に案内され、カフラとネフティスが案内された祠は、重要な場所なのであろうと感じさせる、綺麗に整えられた祠に通され、その中に用意されていた果物や調理された何かを口にすると、横になりその日は休む事にした。
「ネフティス、大丈夫かい」
「カフラ様、大丈夫ですよ、少し体が痛いくらい」
「怪我でもしたのか」
ネフティスは首を横に振ると、
「舟の上でじっとしていたから、体が硬くなっているだけです」
「でも、カフラ様とお話が出来て…」
ネフティスがカフラの方に身を寄せる。
「楽になりました…」
カフラはネフティスをそっと抱き寄せ、寝具の布をかけると、
二人はゆっくりと眠りについた。